横尾忠則さんは過去の糸井重里との対談で、
「生活と芸術は切り離して考える」と
発言なさっていました。
芸術の達成を、人格や人生の達成とするのは、
勘違いである、と。
では「美術家・横尾忠則」の生活とはなんなのか?
糸井重里とのおしゃべりのなかに、
そのヒントが見えるかもしれません。
過去のふたりの打ち合わせと対話の音声を
いま掘り起こし、探っていきたいと思います。
▶︎横尾忠則さんプロフィール
- 糸井
- いま、個人の家や事務所で
絵を置く場所を考えるのは、やや難しいですね。
公共の場所でも、絵が大きければ大きいほど、
飾る場所がなくなってきているかもしれないです。
- 横尾
- そういう、
置く場所を考えて絵を買うなんていう場合は、
物質としてしか絵を考えていないんですよ。
そうじゃなくて、
「置くとこなくても買いたい!」
っていうのがないとさ。
- 糸井
- ダメですか。
- 横尾
- まぁ、なんというか、もっと精神的なものだよね。
「この絵を買ってトイレに置こうかな?
玄関に置こうかな?」
なんて思いながら絵を買うんじゃなくてさ。
- 糸井
- でも、具体的に、たとえば
(アトリエの絵を見て)
あの大きさがあるわけでしょう?
- 横尾
- うん。
しかし、絵をほんとうに欲する人というのは、
自分の家のサイズなんて、
そんなのぜんぜん考えてないよ。
とにかく絵が欲しいんだよ。
- 糸井
- じゃ、下手したら、
絵を横向きに置いてる人もいたりするんでしょうか?
- 横尾
- ああ、ぜんぜんかまわない。
裏向けてても、どうしてても、かまわない。
ただ、倉庫作ってそこに放り込むのはダメだよね。
それはつまり、絵を投資の対象としてしか
見てないから。
投資の対象ったって、
絵の値段は上がり下がりが激しいんだよ。
売れてる人の絵ばっかり狙って買っていても、
それは明日、暴落する場合があるんです。
なぜ暴落するかというと、
コレクターがある作家のものを
一気に手放すことがあるから。
- 糸井
- ひとりのコレクターが、ですか?
- 横尾
- そう。
ひとりの人が「もう◯◯◯は要らん」と、
仮に言うとします。
そうすると、◯◯◯の絵を持っている人が
危機を感じて、あわてて手放すんですよ。
それらの絵が、市場にすごい勢いで出てしまうと、
オークションで、一気に安値になります。
そうなると、アーティストはすごく困る。
30年前に世の中を席巻したアーティストであっても、
いまはまったく買う人がいないこともある。
「あげる」って言ったって、
「えー、こんなの持ちたくない!」
みたいなことが起こるし、
そういう人はたくさんいるよ。
- 糸井
- キャリアが長いと、
いろんなことがあるでしょうね。
- 横尾
- (ジャン・ミシェル・)バスキアなんかは、
ものすごくいいときに死んじゃってるからね。
絵の数もうんと少ないから、値段が高いよ。
- 糸井
- 不思議な世界ですね。
- 横尾
- ほんとうに不思議だし、
怖い世界だよ。
- 糸井
- でもそれは、要するに、
人間同士の関係だからこそ、ですね。
- 横尾
- そうなんだよね。
絵の値段を誰が動かしているかというと、
ディーラーとコレクターなんだよ。
コレクターが「要らん」と手放したとたんに
市場がコロッと変わっちゃうんです。
評論家なんてぜんぜん関係ない。
評論家がいくら「これがいい」ったって、
誰も信用しないからね。
- 糸井
- 絵描きさんはみんな、
そういうことはだいたい知ってるんでしょうか。
- 横尾
- 知ってる。
でも、数点描いていいところで死んでしまうよりも、
選ばれて、頂点に行って、
落ちるところまで落ちる人になりたいと
みんな思ってるんじゃないかな。
そうなれる人って、そんなにいないから。
- 糸井
- その話は、芸能にも似てますね。
「人が価値を決める」というところが似ています。
- 横尾
- ああ、そうね。
金銭トラブルや不倫で評判が下がって
急に出てこられなくなる人もいるけども、
歌が下手だからという理由で消える人もいるでしょう。
けれども、歌も下手なのに、なんの取り柄もないのに、
ずっと「いる」人がいるよね。
あれは、レコード会社とつながってるとか、
政治的な理由があるの?
それか、よっぽどその人がいい人なの?
- 糸井
- あ、それはありますね。
- 横尾
- みんなから愛されてる人は、残ることがある。
美術の世界は愛されたって、
残らないけども。
- 糸井
- (サルバドール・)ダリはどうでしょう?
ダリがやっていたことは、
そうとう戦略的だったのではないでしょうか。
- 横尾
- 彼は戦略的ですよ。
だけど、技術があるからね。
- 糸井
- そうか、おおもとの。
- 横尾
- うん、おおもとの技術がある。
だから、誰かがダリの真似をしようったって、
そううまくはいかない。
「あんなに人気だったのに、
そういえば最近展覧会がないなぁ」
というアーティストはたくさんいると思う。
それは人気というより、
技術が関わっているんでしょうね。
- 糸井
- でも、展覧会なんていうことだと、
もしかしたら
人間性も関わってくるんじゃないですか?
- 横尾
- 美術館の人が毛嫌いするアーティストだって
いるだろうね。
- 糸井
- 同じことだったら組みやすい人と
楽しくやりたいですよ。
- 横尾
- そうね。
「そんなに売れてないけど、
あの人は人間的に気持ちいいなぁ」
とか、きっと思うよね。
- 糸井
- わりとね。
- (日曜につづきます)
2017-09-28-THU
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN