YOKOO LIFE ヨコオライフ

横尾忠則さんは過去の糸井重里との対談で、
「生活と芸術は切り離して考える」と
発言なさっていました。

芸術の達成を、人格や人生の達成とするのは、
勘違いである、と。

では「美術家・横尾忠則」の生活とはなんなのか?
糸井重里とのおしゃべりのなかに、
そのヒントが見えるかもしれません。

過去のふたりの打ち合わせと対話の音声を
いま掘り起こし、探っていきたいと思います。

▶︎横尾忠則さんプロフィール

第11回 絵の価値。
糸井
いま、個人の家や事務所で
絵を置く場所を考えるのは、やや難しいですね。
公共の場所でも、絵が大きければ大きいほど、
飾る場所がなくなってきているかもしれないです。
横尾
そういう、
置く場所を考えて絵を買うなんていう場合は、
物質としてしか絵を考えていないんですよ。
そうじゃなくて、
「置くとこなくても買いたい!」
っていうのがないとさ。
糸井
ダメですか。
横尾
まぁ、なんというか、もっと精神的なものだよね。
「この絵を買ってトイレに置こうかな? 
玄関に置こうかな?」
なんて思いながら絵を買うんじゃなくてさ。
糸井
でも、具体的に、たとえば
(アトリエの絵を見て)
あの大きさがあるわけでしょう?
横尾
うん。
しかし、絵をほんとうに欲する人というのは、
自分の家のサイズなんて、
そんなのぜんぜん考えてないよ。
とにかく絵が欲しいんだよ。
糸井
じゃ、下手したら、
絵を横向きに置いてる人もいたりするんでしょうか?
横尾
ああ、ぜんぜんかまわない。
裏向けてても、どうしてても、かまわない。
ただ、倉庫作ってそこに放り込むのはダメだよね。
それはつまり、絵を投資の対象としてしか
見てないから。
投資の対象ったって、
絵の値段は上がり下がりが激しいんだよ。
売れてる人の絵ばっかり狙って買っていても、
それは明日、暴落する場合があるんです。
なぜ暴落するかというと、
コレクターがある作家のものを
一気に手放すことがあるから。
糸井
ひとりのコレクターが、ですか?
横尾
そう。
ひとりの人が「もう◯◯◯は要らん」と、
仮に言うとします。
そうすると、◯◯◯の絵を持っている人が
危機を感じて、あわてて手放すんですよ。
それらの絵が、市場にすごい勢いで出てしまうと、
オークションで、一気に安値になります。
そうなると、アーティストはすごく困る。
30年前に世の中を席巻したアーティストであっても、
いまはまったく買う人がいないこともある。
「あげる」って言ったって、
「えー、こんなの持ちたくない!」
みたいなことが起こるし、
そういう人はたくさんいるよ。
糸井
キャリアが長いと、
いろんなことがあるでしょうね。
横尾
(ジャン・ミシェル・)バスキアなんかは、
ものすごくいいときに死んじゃってるからね。
絵の数もうんと少ないから、値段が高いよ。
糸井
不思議な世界ですね。
横尾
ほんとうに不思議だし、
怖い世界だよ。
糸井
でもそれは、要するに、
人間同士の関係だからこそ、ですね。
横尾
そうなんだよね。
絵の値段を誰が動かしているかというと、
ディーラーとコレクターなんだよ。
コレクターが「要らん」と手放したとたんに
市場がコロッと変わっちゃうんです。
評論家なんてぜんぜん関係ない。
評論家がいくら「これがいい」ったって、
誰も信用しないからね。
糸井
絵描きさんはみんな、
そういうことはだいたい知ってるんでしょうか。
横尾
知ってる。
でも、数点描いていいところで死んでしまうよりも、
選ばれて、頂点に行って、
落ちるところまで落ちる人になりたいと
みんな思ってるんじゃないかな。
そうなれる人って、そんなにいないから。
糸井
その話は、芸能にも似てますね。
「人が価値を決める」というところが似ています。
横尾
ああ、そうね。
金銭トラブルや不倫で評判が下がって
急に出てこられなくなる人もいるけども、
歌が下手だからという理由で消える人もいるでしょう。
けれども、歌も下手なのに、なんの取り柄もないのに、
ずっと「いる」人がいるよね。
あれは、レコード会社とつながってるとか、
政治的な理由があるの? 
それか、よっぽどその人がいい人なの? 
糸井
あ、それはありますね。
横尾
みんなから愛されてる人は、残ることがある。
美術の世界は愛されたって、
残らないけども。
糸井
(サルバドール・)ダリはどうでしょう?
ダリがやっていたことは、
そうとう戦略的だったのではないでしょうか。
横尾
彼は戦略的ですよ。
だけど、技術があるからね。
糸井
そうか、おおもとの。
横尾
うん、おおもとの技術がある。
だから、誰かがダリの真似をしようったって、
そううまくはいかない。
「あんなに人気だったのに、
そういえば最近展覧会がないなぁ」
というアーティストはたくさんいると思う。
それは人気というより、
技術が関わっているんでしょうね。
糸井
でも、展覧会なんていうことだと、
もしかしたら
人間性も関わってくるんじゃないですか?
横尾
美術館の人が毛嫌いするアーティストだって
いるだろうね。
糸井
同じことだったら組みやすい人と
楽しくやりたいですよ。
横尾
そうね。
「そんなに売れてないけど、
あの人は人間的に気持ちいいなぁ」
とか、きっと思うよね。
糸井
わりとね。
(日曜につづきます)
2017-09-28-THU