横尾忠則さんは過去の糸井重里との対談で、
「生活と芸術は切り離して考える」と
発言なさっていました。
芸術の達成を、人格や人生の達成とするのは、
勘違いである、と。
では「美術家・横尾忠則」の生活とはなんなのか?
糸井重里とのおしゃべりのなかに、
そのヒントが見えるかもしれません。
過去のふたりの打ち合わせと対話の音声を
いま掘り起こし、探っていきたいと思います。
▶︎横尾忠則さんプロフィール
- 糸井
- 「ほぼ日」は毎日、19年間やってきています。
大昔に、横尾さんにハラマキのデザインを
お願いしたことがありましたよね。
- 横尾
- そんな大昔になるかなぁ。
糸井さんは飽きっぽくないんだね。
- 糸井
- 飽きっぽいけど、
わりと我慢強いんじゃないでしょうか。
横尾さんもそうですよ。
飽きっぽいけど絵を描きつづけています。
- 横尾
- 絵の中で飽きっぽいから、
違うスタイルになったりはするけどね。
- 糸井
- そうです、そうです。
ぼくもそうですよ。
- 横尾
- 飽きるのと忘れるのは関係がないのかなぁ。
- 糸井
- まぁ、忘れっぽいというのが
特徴としてはありますね。
飽きても忘れちゃうから。
- 横尾
- 荒俣(宏)さんはね、
どんなテーマの仕事を頼まれても、
引き受けられるんだって。
例えば「空港について」の仕事が来るとするでしょ。
そうすると、空港に関する本を何冊か読む。
そしたらもう、わかるらしいの。
仕事が終わって空港のことを忘れるのかというと、
忘れない。
全部がインプットされたまま。
そういう人が、世界に何人かいるらしいよ。
前に、荒俣さんと
和歌山の水族館に行ったことがあるの。
水族館って、魚が泳いでるじゃない?
熱帯魚かなんかがいっぱい、
見たことがないのばっかり泳いでて、
彼は全部名前を言うの。
そんで、水槽の横のネームプレートを
こっそり見たら、合ってんのよ。
- 一同
- (笑)
- 横尾
- 名前が難しいのばっかり。
それを彼は全部言えるんだよね。
「じゃ、こっちは?」と突然言っても、
「ああ、それは」って感じでさ。
- 糸井
- たぶん、荒俣さんは魚は特に
くわしいんじゃなかったかな。
日魯漁業かどこか、お魚の会社にいたんですよ。
- 横尾
- あ、そうなの? でも熱帯魚は食べないでしょう。
- 糸井
- たしかそうですよ。
- 横尾
- あげくに、泳いでる魚を見ながら、
開きにして干すとこうなって、
和えて食べたらこう、みたいな、
魚料理のことまで言うわけ。
- 一同
- (笑)
- 横尾
- 魚屋さんの軒先で言うんだったらわかるけど、
水族館だからさぁ。
魚だけじゃなくて、
荒俣さんはなんにでもくわしい。
- 糸井
- そうですね。
- 横尾
- 悲劇かもしれないけれども、
いったんインプットしちゃうと、忘れられない。
暗記だけで覚えるんじゃないんだろうね。
- 糸井
- それはきっと、ある意味で悲劇ですね。
自分の発想で物事を考えるときには、
知識が邪魔だったりするでしょう。
知識の沼を歩くよりも、何も知識がない、
平原のような場所で考えたくなります。
- 横尾
- 知ってることが邪魔になるときはあるだろうね。
- 糸井
- そうですね。
ぼくらは大草原で走るのがいいですね。
- 横尾
- でも最近は、荒俣さんがいなくっても、
iPhoneでなんでもわかるんでしょ?
iPhoneに向かって何かしゃべると、
その答えを勝手に返してくれるっていうじゃない。
- 糸井
- ありますね。
- 横尾
- ちゃんと答えます?
どんな答えが返ってくる?
- 糸井
- 「よく聞こえませんでした」って
言われます。
- 横尾
- それ、答えじゃないじゃない。
- 糸井
- しょっちゅう言われますよ。
でも、「横尾さんにメールを出したい」と
電話に向かって言ったら、
「横尾忠則さんですか?」みたいなことは
けっこうやってくれます。
- 横尾
- どうしてそういうことができるの?
どないなってんの? 宇宙では。
- 糸井
- 宇宙はちょっとよくわからないですけど、
音声を日本語にして認識するんですよね。
- 横尾
- それは、あるデータを集めてるってこと?
- 糸井
- 「横尾さんに電話をしたい」
- 横尾
- あ、それがそうなの?
- 糸井
- ああ、だめだ。失敗した。
「縦は主に垂直や前後の方向、横は主に水平」
- 横尾
- ずいぶんまじめなこと言うね。
- 糸井
- 「カバは英語でなんて言うの?」
くらいのことを訊くのがいいと思います。
- 横尾
- でもこうやって、
なんでもかんでも質問して、
答えが戻ってくると、
人間は考えることをしなくなるよね。
- 糸井
- そこまで発達していないから大丈夫でしょう。
- 横尾
- 学校に行かなくても、これさえあれば、
というところまでいかないの?
「1+1は?」とか訊くとどう?
- 糸井
- それは「2」と答えるでしょうけれども、
学校に行かないと、
「1+1」という概念が、
質問する側にないでしょうからね。
辞書的なことを調べるのには使えますよ。
- 横尾
- 例えば「生きる目的はなんでしょう」って。
- 糸井
- やってみますよ。
- 横尾
- なんて答えてくれるか。
- 糸井
- 「生きる目的はなんでしょう」
あ、ウェブ検索で、
かつて答えた人のことが出てきました。
「生きる目的はなんだと思いますか?
私は男性を恋愛対象として見ていません。
友達や親類としてなら好きになります」
- 横尾
- 訊かなかったほうがよかった。
- 糸井
- 申し訳ないです(笑)。
- (月曜日に続きます)
2017-10-01-SUN
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN