YOKOO LIFE ヨコオライフ

横尾忠則さんは過去の糸井重里との対談で、
「生活と芸術は切り離して考える」と
発言なさっていました。

芸術の達成を、人格や人生の達成とするのは、
勘違いである、と。

では「美術家・横尾忠則」の生活とはなんなのか?
糸井重里とのおしゃべりのなかに、
そのヒントが見えるかもしれません。

過去のふたりの打ち合わせと対話の音声を
いま掘り起こし、探っていきたいと思います。

▶︎横尾忠則さんプロフィール

第14回 2度読む。
糸井
横尾さんの展覧会は、
前の町田(町田市立国際版画美術館)もよかったし、
神戸(横尾忠則現代美術館)の
旅のテーマのもよかった。
それぞれの美術館のキュレーターの方が
楽しんでやってる感じがしました。
横尾
うん。
「何をやってもいいんだ」ということを、
最近わかってもらえたと思います。
糸井
ああ、きっとそうですね。
横尾
学芸員は本来、
「何をやってもいい」という考えはないんですよ。
なんでも白黒つけないといけないし、
その根拠がないとダメです。
けれどもぼくの作品には、根拠は要らない。
目的も結果も考えなくっていいんだから、と、
彼らにその都度一所懸命言うんだけど、
なかなかわかってもらえなかった。
糸井
それがいまはもう、
すっかりわかったんでしょうね。
横尾
わかったというより、
「ちょっと暴走してんじゃない?」
と言いたくなるときもあるよ(笑)。
糸井
神戸の美術館の展示では、
横尾さんの持ってるレコードを飾ってるだけの部屋も
ありましたよ。
あちこちまったく違う展開をしてて、
よくアイディアが出るなぁ、と感心しました。
横尾
学芸員の人たち、おもしろくってしょうがないんだよ。
糸井
そりゃあ、おもしろいでしょう。
横尾
よその美術館じゃ、
あそこまで遊べないかもしれないね。
以前、温泉をテーマにした展示のときは‥‥。
糸井
ああ、ありましたね。
横尾
ぼくは温泉地ではいつも、
行く先々でソフトクリームを買うわけ。
ほら、温泉に行くとあちこちに
ソフトクリームの看板があるでしょ?
あれ見るとすーっと引きずられてしまう。
だから、温泉がテーマのぼくの展示に
ソフトクリームがないのはおかしいじゃないか、と
彼らに言ったの。
糸井
それは「作品」じゃなくて「看板」ですよね。
横尾
そう。
でも、ソフトクリームの看板を飾ると、
雰囲気が出るわけよ。
糸井
いいですねぇ。
そのくらい自由にやっていい、と。
そういえば‥‥横尾さんは
「アリを踏まないように」の活動は、
まだやってらっしゃるんですか?
横尾
やってるよ。
アリは、今年はあんまり出なかった。
糸井
横尾さんのアトリエの入口にアリの巣があって。
横尾
そう。
糸井
それを知らない人が
横尾さんのアトリエを訪問すると、
アリの行列を踏んでしまう。
だから、人が来そうな時間になると、
横尾さんはあらかじめ入口で待ってて
「踏まないで、踏まないで」と言うんですよね。
横尾
しかも、アトリエの入口には
アリに注意の交通標識もかけてあるからね。
糸井
帰りも踏まないように、見送ってくれます。
横尾
そういえば、ヒアリ、あれどうなった? 
あんまり最近は言わないね。
糸井
そうですね。
横尾
全部絶滅したのかな。
糸井
そうはいかないでしょう。
ニュースのネタとしての時期を
過ぎたということなのかなぁ。
横尾
アリじゃあんまりニュースにならないってこと?
糸井
テレビはひところ騒いでいましたね。
横尾
週刊誌だと、アリじゃトップニュースにはならない。
糸井
週刊誌向きではありませんね。
横尾
入院しているときは時間があったから
週刊誌をよく読んだよ。
書評もしなくちゃいけないから、本も読むけどさ。
糸井
横尾さんの書評については、奥さまが
「あれだけ本を読まなかった人が読むなんて」
とおっしゃってましたよ。
横尾
月に1~2冊、
書評用の本を読むだけであっぷあっぷなのに、
年末になるとさらに
「今年読んだ本でよかったやつを3冊挙げてくれ」
なんて言ってくるんだよ。
だから、書評した本をもう1回出すことになる。
そんなことする人、ほかにいないでしょ。
糸井
横尾さん、ものすごくまじめに読んでますよね。
横尾
まじめに1冊、まず読むでしょ?
ところが、読み終わったというのに、
内容を覚えてないわけ。
だからもういちど読みます。
2回目には、線を入れていったりする。
糸井
ああ、それはたいへんでしょう。
横尾
書くよりも、読むほうに
ものすごくエネルギーを取られちゃう。
糸井
あの書評の本は、ものすごく立派です。
横尾さんはまじめな人だと思いました。
あんなたいへんなこと、ふつう引き受けませんよ。
横尾
だけど、書評家の人って、
みなそれをやっているわけでしょう?
新聞の書評を引き受けて、
1か月に4回掲載されるとして、1年に50回。
2年単位で引き受けるから、100回だよ。
糸井
ま、みんなはそれが仕事なんでしょうけどね。
横尾
仕事というのは
自分で決めるものだけれども、
よっぽど暇なのか、
書くことでギャランティがほしいのか。
糸井
でも、書評をする人たちは、
あんまり全部は読んでないかもしれませんよ。
少なくとも、横尾さんみたいに、
そんなにまじめに読んでない。
ときどき「ここ読んでないな」なんて
わかるときもありますよ。
横尾
そうだよね。
ある批評家に
「読むのがたいへんだ」とこぼしたことがあるの。
そしたら彼はやっぱり
「そんなまじめに読む必要ないですよ」
と言ってた。
「あなた読まないの?」「読まない、読まない」
糸井
アドバイスとしては、そう言いますよ。
2回も読んでたら無理ですよ。
横尾
本を読み慣れている人は、
めくっただけでパッパッパッとわかるんだろうね。
糸井
あの仕事を、本業をしながら、
よくやりましたね。
横尾
やめさせてくれないんだよ。
2年終わるたびに、何回も喧嘩状態です。
糸井
わはははは。
横尾
だけど8年間続いてるの。
もうここまでくるとクセとしか
いいようがない。
(日曜につづきます)
2017-10-05-THU