YOKOO LIFE ヨコオライフ

横尾忠則さんは過去の糸井重里との対談で、
「生活と芸術は切り離して考える」と
発言なさっていました。

芸術の達成を、人格や人生の達成とするのは、
勘違いである、と。

では「美術家・横尾忠則」の生活とはなんなのか?
糸井重里とのおしゃべりのなかに、
そのヒントが見えるかもしれません。

過去のふたりの打ち合わせと対話の音声を
いま掘り起こし、探っていきたいと思います。

▶︎横尾忠則さんプロフィール

第15回 何を言いだすかわからない。
糸井
書評をそんなにまじめにやるのは、
ほんとうにたいへんだから、やめてもいいと
ぼくは思います。
横尾
まじめだけれども、
結局は自分の話にしちゃうから、
エッセイみたいなつもりで書いてればいいわけ。
本には密着してないです。
本からくみあげた、
違うことを書いているんだよ、ぼくは。
糸井
だからこそおもしろいし、
続けられるのかもしれませんね。
しかも、ご自分の興味ある本しか選んでないから、
それがとてもいいと思います。
横尾
でもさ‥‥、
書評の本が出て、自分で読んでみたわけよ。
それがまた、おもしろくって、おもしろくって。
なんでおもしろいかというと、
「次の行は何を言うんだろう?」
と、自分でわからないからなんです。
糸井
ああ(笑)、横尾さんはいつもそうですね。
次に何を言いだすのかわからない。
横尾
「次どう言うんだろう?」
「怖いな、怖いな」
「変なこと言ったら怖いな」
と、自分で読んでいっちゃうわけ。
糸井
それは全体的に、横尾さんの特徴です。
絵だってそうじゃないですか。
「次どこ行くんだろう?」
横尾
絵はもっとわかんないね、
迷ったまま出ていくからさ。
誰がどう見るかという客観性もない。
文章は編集者もいるし、
チェックする人がいる。
そこを通り抜けなきゃいけないから、まだいいよ。
絵の場合は、学芸員も文句言わない。
糸井
たしかに。
でも、おっしゃっていることも、
ふだん書いておられる文章も、
横尾さんの「次」は
いつもわからないですよ。
横尾
だから、自分で読んでいるのに、
書評もおもしろくって、
夜の2時か3時までかかって読んだ。
だけどね、もしぼくが書評をやってなかったら、
百何冊か忘れたけど、あの本は、
もし本屋さんで見つけても、
ぼくはぜったいに読んでないですよ。
糸井
それはとてもよかったですね。
そもそも本を読まない人だったんだから。
横尾
最初引き受けるときは、喧嘩でしたよ。
糸井
最初も喧嘩ですか。
横尾
ホントの喧嘩です。
あれは電話だった。
「ぼくは書評をやったことないから、できません」
「そんなことないです、できます」
向こうはぼくに自信をつけるようなことばっかり
言うわけです。
それが、だんだん腹たってくるわけ。
「そんなこと言ったって、あなた、
ぼくの書いたエッセイを全部
読んでるわけじゃないでしょう」
「いや、読みました」
延々つづいて、もうぼくは、
途中で電話を切りたいわけよ。
けれども、切ると失礼にあたるからさ。
糸井
そういうことは考えるんですね。
横尾
そのまま「うるさい!」って、
ガチャンと切ってもいいんだけど、
それは失礼でしょう。
糸井
まぁ、そうですね。
横尾
「どうしたらいいかなぁ」と思ってたら、
パッと、
「この電話は切れない。引き受けるしか」
と思った。
糸井
思うつぼですね。
横尾
引き受けないかぎりは、
彼と延々喧嘩しなきゃいけないし、
向こうもしんどい。
「引き受けて、2~3回書いて、やめればいいんだ」
と思いました。
そしたら、最初に書いたミステリーかなんかが、
けっこうおもしろかったの。
糸井
やってみたらおもしろい、と。
横尾
ミステリーなんて読んだことないからさ。
2回目も小説で、おもしろかった。
そこからはじまっちゃった。
糸井
そもそも本はほんとうに
読んでなかったんですか?
横尾
日本デザインセンターにいた頃、
お昼になると永井一正さんが
「横尾さん、食事にいこう」って誘ってくれて、
帰りに必ず本屋さんに入るんです。
ぼくにとって彼は上司だから、
本屋さんから彼が出るまで
じーっとしてなきゃいけないの。
彼はなんか探して買って帰るから、
ぼくも買わなきゃいかんかなぁということで、
買ってはいたんだけど、
本を真剣に読みはじめたのは45歳くらいからです。
糸井
絵描きさんになってからですね。
横尾
そう、画家宣言のあとです。
しかし、ぼくよりもっとさら上がいたわけ。
50歳になってはじめて、
本を読みだした人がいるんだよ。
糸井
誰でしょうか?
横尾
その人が、なぜ本を読みだしたかというと、
不眠症だったから。眠れなかったの。
友達から「本を読んだら眠れるよ」と言われて、
本を読みだした。
フェデリコ・フェリーニだよ。
糸井
映画を作ってたときも、
本は読んでなかったんですか。
横尾
50までは読んでない。
フェリーニは、なんの趣味もない人なの。
旅行も嫌い、どっか変わったところに行くのが嫌い。
映画の関係者しか会わない。
糸井
はっはぁ‥‥、映画しかやってなかったんだ。
横尾
毎日、家から出て、
近所でタクシーの運転手さん相手にお茶飲んで、
そのタクシーの運転手さんの車で
チネチッタまで行く。チネチッタは撮影所ね。
そこでスケッチブックに
漫画みたいな絵コンテを描いて。
糸井
ああ、うまいですよね。
横尾
うまいよ。
それで帰ってくる。
明けても暮れてもそればっかり。
パートナーだったジュリエッタ・マシーナは、
よう勉強する人。
いろんなことを知ってる。
フェリーニは、
ジュリエッタ・マシーナには興味あるけども、
本読んだり勉強したりするマシーナには
あんまり興味ない。
すぐ家を出て、タクシーの運転手さんと
下世話な話ばっかりしてさ。
彼は、見たり聞いたり会った人たちを、
ほとんど全部映画の中に登場させた。
そういう人もいるから、
上には上があるんだなと思ったよ。
(月曜につづきます)
2017-10-08-SUN