糸井 |
社会学者の人たちが、 人類の生物としての集団の数は、 その発生の歴史から、 最初、だいたい120、130人だった。 だから考え方の構造として 集団というのは120人以上は無理だよ、 って説明をしてくれたことで、 ぼく、だいぶ楽になったんです。 にもかかわらず、逆に 文明の形としては、 どんどん、どんどん、 何十何億の単位での幸と不幸について、 一人の個が考えるようになってますよね。 もう、そこでパンクですよね。 |
---|---|
養老 |
パンクですね。 サイズは非常に問題ですよね。 |
糸井 |
そのサイズ感の問題と、 養老さんの右脳、左脳の話を一緒に考えると、 どうしたらいいかわからなくなりますよね。 |
養老 |
だからさ、「どうしたらいいか」、論理的に、 リーズナブル(理性的、分別があるふう)に 生きようとするのが、左脳なんですよ。 |
糸井 |
そうですねぇ‥‥。 そうですよね。 |
養老 | そうそうそう。 |
糸井 |
ぼく、若いときに考えた、 「“と”の理屈」っていうのがあるんです。 例えば「青春と殺人者」って言うと、 なんの関係もないのに、セットになる。 だから「芸術と科学」っていうのも なんの関係もなくても 「と」でつなげられるんですよ。 セットで認識できるようになる。 これは全部いけちゃうなっていうのを、 ずるいけど、やって、 けっこう、ぼく、しのいでるんですよね。 |
---|---|
養老 | でも、それは正しいと思うね。 |
糸井 | つまり、抱えちゃうってことですよね、そのまま。 |
養老 |
別な見方をすると、 世界は網の目でできているということですよ。 |
糸井 | ああ‥‥! |
養老 |
左脳が、非常に扱いにくいのが 網の目なんですよ。 よく、従来、生物進化を 木の枝のように描くでしょう。 「系統樹」です。 どんどん枝分かれするというのは、 たぶん嘘で、 生物進化というのは 網の目じゃないかと思うんですよ。 |
糸井 | ほんとは網の目。 |
養老 |
系統樹で考えると、 「こっちの枝とこっちの枝は、 つながってません」って、 がんばんなきゃいけないんです。 で、がんばるのはめんどうくさいから つながってないことにしちゃうんですよ。 そうすると、つながってる部分が全部 意識から落ちてしまうんですよ。 |
糸井 |
そっか。 そうだ。 「と」ですね、それは。 |
養老 |
細胞のレベルでだって、 全部一緒になっていますからね。 つまり、ミトコンドリアと中心体と葉緑体は 全部、細胞に住みついた他の生物なんですから。 |
---|---|
糸井 | (笑) |
養老 | そもそもの起源からして、混合なんだから。 |
糸井 | うんうん。 |
養老 |
完全に混ざっちゃったかと言えば、 いまだにちゃんとがんばって それぞれが細胞内で独立しているんです。 自前の遺伝子まで持っていますよ。 たとえばミトコンドリアは 自分じゃない、「他人」です。 他人様が住んでるわけなんです。 |
糸井 | 他人であり、他人でないものですよね。 |
養老 |
そうです。 たとえば、精子は鞭毛(べんもう)でしょう。 鞭毛の根元に中心体があって、 その中心体に一番近い生き物っていうのは、 遺伝子で見ると、 発疹チフスの病原体の「リケッチア」 という細菌の一種なんですよ |
糸井 | ほう? |
養老 |
だから、人間の遺伝子は リケッチアが運んでるんですよ、 発疹チフスから。 |
糸井 | (笑) |
---|---|
養老 | ね、いいじゃないですか、別に。 |
糸井 | いや、いいですよ。 |
養老 | クロネコヤマトに頼んだようなもんですから。 |
糸井 | 認めます。 |
養老 | だから、網の目に決まってるでしょ。 |
糸井 |
網の目、網の目。 アミノミズムですね、ぼくら。 |
養老 | (笑) |
糸井 |
これからは、 アニミズムの先に、アミノミズム。 |
養老 |
いま、箱根から来たんですけど、 途中新緑がすごくきれいでね。 |
糸井 | 新緑いいですねぇ。 |
養老 |
あの新緑だって、 根元で絶対関係してるんです、お互いに。 この木はこの木、あの木はあの木、 人間はそういうふうに見て、 一本一本別だって言うんだけど、 根っこをみたら絶対引っ絡まっているんですから。 |
糸井 | はいはい。 |
養老 |
直接絡んでいないにしても、 あれだけ木があって、 あの勢いで根が伸びたら、 その先っぽがどうなるかを考えたことあります? 絶対お互いぶつかるでしょう、どこかで。 |
糸井 | ぶつかるでしょうね。 |
養老 |
そうするとお互いに話し合ったりする。 「ここまでは俺ね」とか。 しかも、彼らは独立していなくて、いま言ったように、 その周りにもう松茸のような茸やら雑草やら、 松の根の伸びるところに生えていくんですよ。 |
糸井 | 外界も含めて自己ですよね。 |
養老 | そうそう。 |
糸井 | どう考えてもね。 |
養老 |
それ、ぼくよく言うんですよ。 自分というのを作った瞬間から、 「環境」ができちゃったんですよ。 |
糸井 |
そうなんですよねぇ。 ぼくは、タコがスミ吐くことについて、 昔っから大好きなんです。 相手が見えなくなるってことを タコはわかってて吐くんだ、 っていうことを、ずーっと好きで、 そのままにしてるんですけど、 これはアミノミズムですよね。 まさしく。 |
養老 |
ぼくも、フグが 膨らむっていうのが好きですねぇ。 |
糸井 | それもそうですねぇ。 |
養老 |
あれも不思議でしょ。 あれね、膨らまないと 確かに困るなぁと思った。 フグ食べようと思った魚が、 フグが膨らむとね、 「あ、これ毒だ」 ってわかるじゃないですか。 |
---|---|
糸井 |
うんうん。 だから、相手の心を 予想しているとしか思えない。 |
養老 |
アジとかイワシが フグと同じように 毒を持っていたらどうします? どの魚を食べていいかわからなくなるでしょうね。 |
糸井 | ちょっと困りますね。 |
養老 |
だから、フグはやっぱり膨らむんですよ。 あれ、世のため人のためなんですよ。 |
糸井 |
昆虫の葉っぱに似てるやつとかも、 自分が見えないはずなのに、 葉っぱそっくりになるっていうのは、 あれはアミノミズムですよね。 |
養老 | そう。 |
糸井 |
俺、もう今日からアミノミストとして、 もうね、心を入れ替えたよ。 もともと俺はアミノミストだもん。 「と」でつなげてきたんだもん。 なんとかごまかして。 |
養老 |
21世紀の生物学はね、 絶対それになりますよ。 |
糸井 |
商売もたぶん網の目だなって、 うすうす思うんです。 消費と生産が一体だってよく言うけど、 経済学者、そのことを信じて言ってないんですよ。 |
養老 | うん。 |
(つづきます)