養老孟司×池谷裕二 定義=「生きている」

同じ東京大学で解剖学と薬学を追究し、
それぞれ「脳」を研究してきた
養老孟司さんと池谷裕二さん。
おふたりはいつからかつきまといはじめた
ある思いを拭いきれないでいます。
2019年5月15日に「ほぼ日」から発行する絵本
『生きているのはなぜだろう。』を前に話す全14回。
途中で質問をはさむのは、ほぼ日の担当、菅野です。
生きものの定義は‥‥そうです、「生きていること」!

第2回物理って、これでいいの?

──『生きているのはなぜだろう。』は
生物の話じゃないんですか? 
熱力学ということは、物理でしょうか?

養老そうそう、物理だね。
熱力学ってのは、残念ながら
高校では教わらないんですよ。
学習範囲に入ってませんから。

池谷熱力学は数学、
それも高度な偏微分や重積分が必要だから、
そもそも難しいんだと思います。
概念くらいは知っておいてもいいのかな、
と思いますが。

──大学で理系に進学しないと出てこないんですね。

養老ぼくもこれ、
一所懸命説明しようとするんですけど、
よくよく考えると難しいんです。

池谷おっしゃる通りです。
熱力学だけじゃなく、
物理全般に言えることなんですけれども、
物理って、改めて、よーく考えると、
「え、いいのかな」となってくる。

養老そう。

──「いいのかな」って、どういうことですか。

池谷例えば、飛行機がなぜ飛ぶか。
熱力学や航空力学で考えてみてください。
考え出すとわかんなくなるんですよ。

養老ぼくはいまもわかんないです。
飛行機がどうして飛ぶのか、
考えたことあるよね? 

──あんまり考えたことないですけど、
たしか、羽根で空気が上下に分かれてて‥‥。

養老そうそう。要するに、
翼の上を通る空気と、下を通る空気で
気圧が違うんですよね。

池谷流体力学でいうベルヌーイの原理です。
‥‥と、とってつけたように説明されるけど、
その原理がいったいなんなのかはわからない。

養老それを分子レベルにまで落として、
実際に分子がぶつかっているように考えるとね。
飛行機は下から持ち上げられるわけですから、
翼の上のほうが少ないはずでしょ? 
でも、どうしてそうなるかを考え出すと、
そのうちわかんなくなるんですよ(笑)。

──どうしてそうなるか‥‥?

池谷空気の分子がぶつかって、
機体を上げてくれるんですよね? 
こんなちっちゃい粒で、
なんであんな鉄の塊が浮くのか、
よくわかんないんですよ。

養老そう。
あんな重たい金属の塊が空を飛ぶはずがない。

池谷そうですよ。

養老だから、飛行機がそれに気がつくと
落ちるんですよ。

池谷「ちょっと待ってよ、なんで飛んでんだろう」
「物理の法則に反してる!」
と飛行機が思うと、飛べなくなっちゃう、と。
物理の法則って、ほんとに不思議なんです。

古典的なニュートンの法則とか、
ちょっと進んで相対性理論とか、
量子力学とか、マクスウェルとか、
有名な方程式はたくさんあるんですが、
私がわからないのは、
「なぜ時間の存在を前提に与えているのか」です。
そこがまず、わからないんです。

「時間」というものを疑わずに、
時間は存在するものとして、時間で微分する。
「そもそも時間とはなんぞや」ということを
物理は考えてないんですよ。

──時間はあるもの、と
最初に決めちゃってるんですね。

池谷「時間」というものはある、
そして前に流れている。
その前提で時間微分するんだけど、
式を見てみれば、時間の存在について
なにも説明されていないのです。

極論言っちゃうと、物理学の式では、
時間が前に進むかどうかすらわからないんです。
時間が後ろに向いてもいい。

養老物理の方程式では、
どっちに進んだっていいんですよね。
tはプラスになったりマイナスになったりできます。

──でも、時間は前に進むと決まっているんですね。

養老「時間は前にしか進まない」
ということについて、
思い出すエピソードがひとつあります。

これは渡辺慧さんという、
ハワイ大学で物理を教えていた先生が
日本に帰ってこられたとき、
雑誌に書いておられたことなんですがね。

「生物の時間は一方向にしか進まない」
「それは、生物の合目的性と関係がある」

──どういうことですか。

養老どんぶりのヘリから、
パチンコの玉を底へすべり落とすとします。
だんだん振幅が小さくなって、
玉は底で止まりますよね。

──はい。

養老脇からそれを動画で撮るとしましょう。
玉は最初、高いところにあって動き出し、
最後は必ず底で落ち着きます。これはわかる。
そして、その動画を逆回ししたら、
玉がどこに止まるかわかるか? 
と、渡辺さんはこう言うんです。

──逆回しにしたら‥‥。

養老逆回しすると、まず、
底にある玉が動き出すわけじゃないですか。

池谷そして、だんだん振幅が大きくなって。

養老その玉がどこで止まるかわかりますか?

池谷わからないですね。
終点は当てられないです。

養老そう、わかんないんです。
結局、どこから落としても
最後はそうなるんだから。

──時間が経ったあとの結果はわかっても、
時間をさかのぼって「はじまり」を予測できない。

養老予測がつかないでしょ? 
そうすると、
逆の方向に対しては、
私たちの合目的性が
成り立たないということなんです。

だから、生きものは、
逆向きじゃ生きられない。
渡辺さんはこういう議論を書いておられました。
若いときにこれを読んだぼくは、
まずは「うーん?」と思ったんです。
これはいったい、なにを言ってるんだろうか、と。

ほぼ日から、『かないくん』以来、
5年ぶりの絵本。
生きているのは
なぜ
だろう。

作 池谷裕二 

東京大学薬学部教授 薬学博士
『進化しすぎた脳』『海馬』

絵 田島光二 

コンセプトアーティスト
『ブレードランナー2049』『ヴェノム』

この本には、答えがあります。

『生きているのはなぜだろう。』を
学校の理科の先生にプレゼントします。

『生きているのはなぜだろう。』は科学の分野から
人が生きている理由を示そうとする本です。
絵本の形をとり、本文はふりがなつきですが、
子どもたちだけに向けた本にはしあがっておりません。
巻末に池谷裕二さんによる
2ページ半の解説もついておりますが、
この内容を理解するためには、雑談やおしゃべりを含めた
大人の助けが必要になることもあろうと思います。

そこで、小・中・高校の理科系の先生がたに、
この本を抽選でさしあげたく思っております。
当選は20名さまです。
ご希望の方は、下記の案内のとおり、
メールでお申し込みください。
当選の方には5月14日までにメールでお知らせします。

※当選した本のお送り先は学校宛とさせていただきます。
※同じ学校の方が重なって応募された場合、
ひとつを当選とさせていただきます。
※メール本文にお名前や住所を書く必要はありません。

メールの件名 生きているのはなぜだろう。理科の先生応募
メールの宛先 present@1101.com
メール本文 学校名
応募締切 2019年5月12日(日)24:00

当選の方にはほぼ日から
住所をおうかがいするメールを差し上げます。
落選のご連絡はいたしません。

『生きているのはなぜだろう。』を
授業で教材として使用したり、
生徒さんとのおしゃべりで
どんな話をしたのかなど、
お聞かせいただければとてもうれしいです。
ご応募お待ちしています。

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