養老孟司×池谷裕二 定義=「生きている」

同じ東京大学で解剖学と薬学を追究し、
それぞれ「脳」を研究してきた
養老孟司さんと池谷裕二さん。
おふたりはいつからかつきまといはじめた
ある思いを拭いきれないでいます。
2019年5月15日に「ほぼ日」から発行する絵本
『生きているのはなぜだろう。』を前に話す全14回。
途中で質問をはさむのは、ほぼ日の担当、菅野です。
生きものの定義は‥‥そうです、「生きていること」!

第10回人間に見えているもの。

池谷科学って、ほんとうに、
意味わかんないんですよ。
真実を解明するのが
科学の目的ではないんです。
ぜんぜん違うんです。

──じゃあ、科学って‥‥。

池谷科学は、自然の営みを、
理解できる言葉に「翻訳」する行為です。
そんなことをしてなにか意味あるのか、
と思うことが、ぼくにはありました。
だって、自然は、科学者なんていなくたって、
もう立派にそこにあるんですよ。
脳に理解されるために自然があるわけじゃない。

養老前線で鉄砲打ってる兵隊が、
「この戦争の意味は‥‥」
とか考えたら、戦いにならないじゃない?

──そうですね。

池谷ぼくらは黙々と目の前の実験を
こなしていくしかないんだけど、
そして、それはおもしろいのですけど、
科学とは一体なにものなのか、
ほんとにわかんない。

──このおふたりに
「科学はわからない」と言われると、ちょっと‥‥。

養老でも、ほんとうにそうですよ。

池谷私は人工知能(AI)の研究も
やってるんですが、
「人工知能に学習させていることは、
いったいなんなのか」
ということをよく思っています。

たとえば、ぼくたちがりんごを見て
「りんご」だと判定できるのは、
人間の目でこの世の中がどう見えるかを
AIが学習しているからです。

ある日、はじめて人工知能に
「脳波」を見せました。
すると、その脳波の異常を
人工知能は検出することができました。
はじめて見たものを判定できるなんて! 
人工知能ってすごい! と思ったんですが、
よく考えたらそうじゃないんですよ。

脳波は、もともと波形じゃなくて、
それを人間の目で認識しやすいように
波形として表示しているだけのことなんです。
人工知能が脳波を判定できたのは、
人間にどんなふうにものが見えるかを学習したから、
というだけだった。
とんだ堂々めぐりでした。

人間の目って不思議です。
そもそも両眼視する動物はそんなに多くないし、
動物界では人間は
視覚異常であるとも言えます。

その特徴に、人工知能が近づいている、というのは、
いったいどういうことなんだろう? 

ここのところを、ぼくはずっと
堂々めぐりしてるんです。
走っている目の前に
自分の背中が見えるような感覚です。

養老ぼくも解剖やってたから、
それはよく感じました。

池谷そうですか。

養老つまり「ぼくが見てるんだろ?」って話なんです。

昆虫でいうと、擬態というのがあります。
縁もゆかりもないものが、そっくり。
なんでそっくりなのか。
でも「そっくりだ」って言ってるのは、
人間なんですよ。

池谷そうですよね。

養老鳥から擬態はどういうふうに見えるんだろう、
と思って調べると、
鳥は4原色で見るんです。
「4原色でものを見たらどう見えるか」ということが
3原色の我々に、はたしてわかるのか? 

その話をするときには、しょうがないから、
スズメを例に出すんです。
スズメの模様、絵に描けますか?

──描けません。
見て描かないと、難しいです。

養老あれね、4原色で見ると、
カタカナで「スズメ」って書いてあるの。

池谷(笑)

養老はぁー、おっかしい(笑)。

──ははぁ(笑)。

池谷モンシロチョウって、オスとメス、
なかなか区別がつかないんですけど
紫外線カメラで撮ると、メスだけキラキラ光ってる。
人間から見たら、オスもメスもただの白いちょうちょ。
これを似ているとするのは、
あくまでも人間の解釈です。
鳥は間違えない。

養老だいたい、人間の目が3原色(RGB)というのも
おもしろいんですよ。
哺乳類は、霊長類以外、ふつうは2原色です。

池谷そうそう、そうなんです。

養老印刷屋さんは、
「2色あれば印刷できます」
って言いますよね。

──はい、2色刷りってありますね。
けっこう立体的にカラー風に見えます。

養老もしかしたら、人間は2色でも充分
世界をとらえることができたかもしれませんよ。
けれども、3色目がどうしてできたか? 

光の波長で考えると、
短い波長(青)をSとして
長い波長(赤)をLとする。
これが2原色。
霊長類はその中間の波長(緑)Mができてくるんです。

ぼくはね、Mは中間だから、
SとLの真ん中あたりだと思ってたの。
でもM(緑)って、非常にL(赤)寄りなんですよ。
そんなとこに、なんで新しい色を入れたんだろう? 

実は、そのMの波長の部分というのは、
人の顔色の変化とぴったりらしいんです。

池谷ああ、そうか。
紅潮したり、青ざめたり。

養老社会生活をする猿は、お互いの顔を見る。
それが発達して、3色目に反応するようになって、
顔色を読むようになったんですね。

池谷ソーシャルということですね。

養老子どもが具合悪いと、
顔色が悪いとかって、わかるでしょ。

池谷うん、わかりますね。

養老生きていくうえで、けっこう重要なんです。
前はこれ、ぜんぜん違う説明してたんですよ。
霊長類は果物食うから、
熟し具合を判断するのに
色覚が発達したんだ、ということになってた。

池谷ぼくは、それで納得してました。
でもたしかに、赤ん坊の体調を見たり
人の顔色を読むのは、大切なことですね。

ほぼ日から、『かないくん』以来、
5年ぶりの絵本。
生きているのは
なぜ
だろう。

作 池谷裕二 

東京大学薬学部教授 薬学博士
『進化しすぎた脳』『海馬』

絵 田島光二 

コンセプトアーティスト
『ブレードランナー2049』『ヴェノム』

この本には、答えがあります。

『生きているのはなぜだろう。』を
学校の理科の先生にプレゼントします。

『生きているのはなぜだろう。』は科学の分野から
人が生きている理由を示そうとする本です。
絵本の形をとり、本文はふりがなつきですが、
子どもたちだけに向けた本にはしあがっておりません。
巻末に池谷裕二さんによる
2ページ半の解説もついておりますが、
この内容を理解するためには、雑談やおしゃべりを含めた
大人の助けが必要になることもあろうと思います。

そこで、小・中・高校の理科系の先生がたに、
この本を抽選でさしあげたく思っております。
当選は20名さまです。
ご希望の方は、下記の案内のとおり、
メールでお申し込みください。
当選の方には5月14日までにメールでお知らせします。

※当選した本のお送り先は学校宛とさせていただきます。
※同じ学校の方が重なって応募された場合、
ひとつを当選とさせていただきます。
※メール本文にお名前や住所を書く必要はありません。

メールの件名 生きているのはなぜだろう。理科の先生応募
メールの宛先 present@1101.com
メール本文 学校名
応募締切 2019年5月12日(日)24:00

当選の方にはほぼ日から
住所をおうかがいするメールを差し上げます。
落選のご連絡はいたしません。

『生きているのはなぜだろう。』を
授業で教材として使用したり、
生徒さんとのおしゃべりで
どんな話をしたのかなど、
お聞かせいただければとてもうれしいです。
ご応募お待ちしています。

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