ぼくは「ほぼ日」ていうものを続けてて、 最初は毎日って大変じゃないですかって 盛んに言われたんですよ。 で、だんだんと偉いですねって 言われるようになって。 で、とうとう、今、もう 15年目に入ってるんですね。 1日も休んでないんですよ。 |
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「ほぼ」と言いながら、 ほぼは要らなかったんですね、本当は。 |
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いつか休んでやるとかいろんなこと言いながら。 で、とうとうですね、この1年ぐらい、 気付いてみたら、誰も大変ですねって言ってない。 |
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はい(笑)。 |
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自然現象のようになってしまうんですね。 今日は天気とか雨とかって毎日あることだから、 ほめたりしないじゃないですか。 あ、そこまでいって本物なんだって、 俺はちょっと自慢したい気持ちと、 ちょっと寂しい気持ちと。 |
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ちょっとはねぎらってほしい気もしますね(笑)。 |
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マンガを買ってる、よしながさんの姿も同じですね。 読んでるときは酒を飲んでるような感じ? |
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はい、そういう感じですね。 だから読むものが何もなくなっちゃうと うろたえるっていうか、 |
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それ用のスペースがあるんですね。 |
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わたし、ほんとにマンガだけに特化した中毒で、 活字は書くのも読むのも苦手なんです。 もちろん何かきっかけがあれば読むし、 読むのが遅いわけでもないし、楽しいし、 おもしろかったってなるんですけど、 飢餓みたいな状態とはちょっと違う。 映画観に行くのもそうで、 「よしっ」て思わないと行動できない。 |
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じゃあ頭の中にある材料っていうのは 今までに見たテレビドラマとか、 マンガが主なんですね。 |
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そうですね、あとはもう事実。 自分が見てきたことですね。 友だちのこととか。 ぶつかったり、 あるいはぶつからないまでも、 そこはちょっと踏み込めないなって部分が あったりっていう交友関係が続いてく中で、 ふとした瞬間に家族のことを聞いたり、 お家に遊びに行ってみたりして、 突然その子の取ってきた行動の、 全部や、あるいは特別なひとつがわかる瞬間があって。 自分の家族でもあります。親でもそうですね。 何でこうなのかなと思ってたことが ふとした瞬間にわかるとき。 おもしろいなと思って。 |
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よしながさんがのマンガって、 「俺はわかるけど、他の人はわかるんだろうか」 ってみんなが思ってるみたいなとこあるんですよね。 波瀾万丈だったりすると誰だってわかるんだけど、 波瀾万丈じゃないところで、 「たまたまこの側から見るとこう見えるよね」 っていうところがちらっとこう見つかったりして。 |
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逆にわたしにとっては すごく普通のことなんでしょうね。 そういうことの喜びで 生きてきたみたいな部分もあるので。 自分としては『きのう何食べた?』も すっごくドラマチックな話のつもりで 描いてるんですけど、 人からは淡々とした話だって言われます。 さすがに今は人からそう言われても 驚くことはないんですが、 自分としてはいつも、とっても盛り上げて、 ああ、何か、人生って大変だよね、ふぅ、 みたいなぐらいの気分でエピソードを描いてます。 こんなすごいこと、自分の身に起こったらやだな、 大変だなぁとか思って。 描いてるときは絶対おもしろいと思うんだけど、 できあがってみると 「あれ? やっぱりこれって あんまりドラマチックじゃないのかな」 ってしょんぼりします。 |
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テレビドラマのサイズで 向田邦子さんが描(えが)くものとかって、 じつはそうですよね。 「うん、いろいろあってよかったね」 っていうもの。 家族の中であったできごとで、 そのときには誰の口からも語られなかったんだけど、 15年ぐらい経ってから、 今さらに言うのも何なんだけどさぁ、 あんときのあれってあれだよねって言うと、 そうそうそう、 それはわたしも言おうと思ったんだよみたいな。 |
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そうそうそう、そうです! たとえば、叔母さんが Aさんていう男の人と仲良くしてて、 でもなかなか結婚できなくて、 結局全然別の人と遅い結婚をしたんだけど、 Aさんとはどうして 結婚しなかったのかって言ったら、 おばあさんが「だってAさんホモだもん」 って言ってたことを、 父親から聞いた時とか。 |
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ああ(笑)。 |
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そういえばAさん髭生やしてたなとか、 素肌にVネックのセーターを着ていたなとか。 |
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ああ。何だろうね、 それは生きててよかったっていうか、 元気が出るっていうのとイコールなんですよね。 |
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そうなんです。別に嬉しいエピソードっていうわけでも ないんですけど、 「そうなの!」とわかったことが快感みたいな。 |
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それをものすごく単純化したのがペットなんですよ。 犬や猫っていうのはまた複雑だから 今の話にちょっと近くて。 こうなんだよねっていうところが、 自分の目だけに見えてくるときがある。 |
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何でもそうですが、 何かの断片的な事実が、 物語になったときですよね、 そのとき、人って、わぁーって思います。 |
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それはもう人間が生きる栄養素なんだね。 |
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そうだと思います。 「生きること」を円滑にしてくれる、 何かなんですね。 |
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よしながさんは、 それをものすごく取り込む体質になっちゃった。 |
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描くようになると、よりエピソードが 必要になる気もするし。どうなんでしょう。 |
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出すからより必要になるんじゃないですか。 |
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やっぱりそういうことなんですね。 アウトプットしてるからっていうことなのかな。 |
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アウトプットでしか脳は育たないそうですよ。 |
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むしろ出さないと苦しかった時期があって、 楽にはなった気がしますね。 |
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たとえば10年あげるから 大傑作を1本だけ書きなさいって言われても 絶対作れないと思うんですね。 けれど出しつづけてることで どれかが大傑作になるっていうことはある。 そこんところをぼくはやっぱり若い人は 誤解してると思うんですよ。 |
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はい。 |
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だから打席に立った数の多い 手塚治虫先生はやっぱりすごいですよね。 |
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そうですね。 それはほんとにそう思います。 |
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夭折はありますよ。 21才で死んじゃった人が 大傑作を作ったっていうことはある。 でも、その1回作ったっきり、 ずーっと次の作品をずっと構想してますっていう人が 作ったなかに大傑作は、基本的にはないですよね。 |
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確かに寡作の素晴らしい方ってのは 本業があります、だいたい。 |
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そうですね。 そこで何かアウトプットしてるんでしょうね。 |
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わたしの大好きなマンガで、 何かに感動したり、人を好きになったときに 音楽を作れる青年がいて、 自分には音楽があるからよかったけど、 はけが悪い人たちが問題だって言ってるんです。 |
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はけが悪い人ね。 |
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はけ。 うまいこと言ったなぁと思いました。 思っても上手に出せないっていう。 その舞台が刑務所なんですが、 うまくいかないと こういうとこ来ちゃうんだよねって。 |
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なるほどなぁ。 (つづきます) |
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2013-01-25-FRI |