よしながさん、この先、 今やってる仕事がどっかで終わりますよね? |
|
終わります。 |
|
そのアテというか、予定はあるんですか? |
|
終わるのはもう絶対終わります。 |
|
いつとかはない? |
|
いえ、いつもだいたい決まってます。 でも思ったより絶対長くなっちゃうので 延びちゃってます。 『大奥』もほんとは8巻で終わりにしたかったけども、 もう到底終わらないので、たぶん10巻超えちゃいます。 でも、こうなってこうなって、 こうなって終わるっていうのはもうわかってるので、 その終わりは来ますね。 |
|
うん、うん。 |
|
終わらせるのが楽しいです。 |
|
ああー! |
|
多頭引きしてる馬車の手綱が、 だんだん引っぱって 1本にしぼられていくみたいな。 |
|
「終わらせるのが楽しいです」。 何に似てるんだろう。 いや、ぼくら、そういう経験って あんまりないんですよね。 |
|
そうですか! |
|
うん。めんどくさくなって終わるしかないんですよ、 ぼくら、たぶん。 敢えて言えば死ぬことだけかな。 終わらせる楽しみあるのかもなっていうのは。 |
|
あ、ああ、そっか。 でもそういうことを擬似的に やってるということかもしれないです。 |
|
そうかもね。 |
|
で、きれいに死にたいっていうか。 ここを回収して、回収して、回収して、 ここはわざと回収しないで、っていうことを 自分は自由にできるわけなので。 |
|
わざと整合性なんかどうでもいいっていうとこを 作るとかって楽しいでしょうね、また。 |
|
楽しいですね。 もちろんさじ加減のとこでは悩みますけど、 何かあんまりにもきれいな 曼荼羅みたいになっちゃうよりも、 もうちょっと生っぽくしたいみたいな。 |
|
マンガ家って、みんな、 嘘付く商売じゃないですか、根本的に。 嘘付く商売の人のいちばんの楽しさは、 人よりも自由だってことですよね。 読者はこことここが矛盾してるじゃないですか みたいなことを思っちゃうんだけど、 そうじゃないっていちばん言えるのは 読者なんじゃなくて作者だっていうことが、 ぼくは、かっこいい商売だなぁーと思う。 |
|
はい、ほんと、好きにやらせてもらって 暮らしていけるって ちょっと奇跡みたいなことだなってことは、 日々、読者のみなさんに感謝して過ごしてます。 心からほんとにありがたいと思ってます。 |
|
『大奥』もね、ぼくは、 嘘の豪華さにやられちゃったんです。 スタートから大嘘ですから! SFのジャンルですよね。 それをみんな知ってて読み始めるわけだから、 その、嘘付いてる人の口元を楽しんでる。 ぼくは2巻が出たあとに読みはじめたので、 1巻を読み終えて、次があるっていうことの喜び、 それはすごかったです! これ以上は説明しないんだよ、 みたいなとこも楽しいんですよ。 『きのう何食べた?』のときには、 読者が読んで料理を作るぐらい、 地続きだったけど、 『大奥』は、たとえば登場人物たちの出身地は 生活に根ざしてるはずの場所なんだけど、 その描き方の分量っていうのが ものすごくちょうどいいんです。 ほんとは貧しい育ちだったとか、 ほんとは言葉もちゃんと使えないんだとか、 みたいなところを描き過ぎない。 そしていつでも大奥に戻す。 あの回収のし方を見ていて、 この人は大嘘付くの好きなんだなぁーって。 |
|
そうですよね(笑)。 |
|
あれ、回収しないで こっち側(生活側)に 引きずられるってことだってあったはずで、 |
|
それが多少あるからこそ、 たぶん延びちゃってるんだと思うんです。 引きずられちゃうぐらい吸引力があるときは それもよしかなぁとも思ったりもするんですけど。 |
|
戻ってほしいんですよ、読者は、やっぱりね。 そちらに行き過ぎちゃう話だとしたら、 この大嘘は成り立たないような気がして。 恐ろしいなぁと思いましたよ、嘘を付くって。 その嘘が気持ちいい。 ぼくもハリウッドものを楽しめるタイプですから、 素直に「いいね」って言います(笑)。 |
|
ありがたいです。 『大奥』は、わたしにしては珍しく 見栄を切ってる場面が多いんです。 あと、かっこいい人が素直にかっこいい。 こういうことは時代劇じゃないと描けないです。 たとえば、シケ(鬘)って言いますけど、 ほつれ髪を出してると色っぽいみたいな、 ああいうひじょうに記号的な表現も。 |
|
▲『大奥』第8巻より、お幸の方 /(c)よしながふみ/白泉社(MELODY) |
|
止めた目とか描けますもんね、 歌舞伎とかと一緒で。 でも、着物を描かなくちゃいけないね。 時代劇だから。 |
|
着物は逆に言うと、 シルエットが一緒なんですよ。 柄さえ違えば全部同じかたちをしてるので、 現代ものの女性のファッションよりは 全然らくなんです。 |
そうか、そうか。だけど努力は要るよね。 よしながさんは、手で塗ってますよね? |
|
はい、わたしは手描きの方が早いので。 ていうか、パソコンは使えないんです。 |
|
パソコンを使うときは助手の方がいるんですか? |
|
いや、もう使わないです、マンガ、全く。 |
|
使わないんですか。 へぇー! |
|
もういろんな人に、あなたの場合は こんだけパソコンができないと、 手の方が早いよって言われて。 これから技能を習得する方が大変だって。 諦めました、そこで。 |
|
いろいろ今日、わかったことがありますね。 テレビドラマ好きだってわかってから、 よしながさんのマンガを読むと、 目の表情とかのおもしろさは、 そうか、ドラマだーっていうこととか。 テレビのアップにしてる画面を よーく見てた子の表現なんだってわかりますね。 |
|
そうです、そうです。 ほんとに役者さんの演技を ずーっと見てました。 |
|
役者は役者で、 そこでクリエイティブしてるわけだから、 そこを拾って、お客さんはじーんときてるわけだから。 『大奥』の映画を見たときに、 若い役者さんたちがマンガの目玉をヒントに 演じているような気がしましたよ。 |
|
はい。でも堺雅人さんとかは、 いい意味で全然違うことを やってくれるんじゃないかなって思いつつ、 ヴィジュアルがびっくりするぐらい マンガと似ててびっくりしました。 いつもとちょっと違う感じになってて。 |
|
堺さんは“似た”んじゃないですかね。 |
|
あ、そうなんですかね。 |
|
もともとはそんなに似てなかったと思います。 演って、似たんだと思います。 撮影に入る前に会ったときは、 今、その歩き方を練習してるって言ってました。 |
|
ご本人は憑依体質じゃないんだって仰るけれど、 言えば言うほど(笑)、 そうなんじゃないのかなって。 |
|
憑依したい部分だけ 憑依するんじゃないかな? 堺さんも複数の映画を ぽんぽんぽんぽん飛び跳ねてるわけだから。 言う通り、憑依体質じゃないとは思うけれど、 この映画は憑依したくてやってるんじゃないかなぁと 思いました。おもしろそうに演ってますよね。 あの、マンガの話に戻るんですが、 ぼくは家庭内で置いといてほっとかれるマンガと、 かみさんに引き継がれるマンガと2種類あって、 『大奥』はすっと引き継がれましたね。 しかも読む速度はかみさんの方が速い。 だから先を越されたりして。 たぶん、ぼくは慣れてないんですよ、味わうのに。 よしながさんがのっけてる分量、その重量感を ぼくはもっと楽しむことにします。 (つづきます) |
|
2013-01-28-MON |