『きのう何食べた?』って、 “愛は終わっちゃった後の話”だと よしながさん、おっしゃったけれど、 思えば何でこういうシチュエーションなんだろうって 今になって不思議に思うんです。 |
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あ、そうですか? わたし、もう、前っから描きたくって。 |
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食べ物でってことですか? |
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食べ物で、ゲイの人がいる話です。 この細かさっていうか、 これぐらいの年の人たち2人で暮らしてて、 もうあんまり‥‥ |
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いわゆる恋愛関係じゃなくなって。 |
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はい。それで親とちょっと すったもんだとかもあって、みたいな話です。 1巻の3分の2ぐらいまではもう全部話考えてて、 いろんな編集さんに、 こんな話をやりたいんですけどって言って、 載せてくれるって言った雑誌が 『モーニング』だったんです。 |
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ほぉー。 |
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「やりましょう!」ってすぐ言ってくださった 編集さんが『モーニング』のかただった。 けれどもわたし、青年誌の『モーニング』じゃ できないだろうという前提で話していたんですよ。 ところが次の日、電話かかってきて、 「企画、通りました」って。 自分で言っておきながら、 これ『モーニング』で描くの? 本当に『モーニング』で?! って、ちょっと自分でも。 |
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よしながさんって、 あり得ないこと考えて人にやらせようとしたり、 そもそも無理だろうっていう話をしてみたりとか、 スタートがいつも違う角度ですね。 |
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別に駆け引きで使ったわけじゃなくて、 本当にできないと思って話していたので。 |
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とてもよく分かる。 ぼくもよくこういうのがあればいいのにって言って、 「あ、俺がやるのか」ってなったことが結構あります。 そもそもデビュー作がそうです。 |
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そうですか。 |
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ぼくはデビュー作って、 『スナック芸大全』ていうものなんですけど、 飲み屋でしょうもない遊びしてるのを、 民間伝承として集めたらどうかっていうのを、 それこそ飲み屋で言っていたんです。 俺は幾つも知らないけど、 集めたらいっぱいあるよって言ったら、 「それ、おもしろいですね。 糸井さん、自分でやりませんか」って。 そうして『スナック芸大全』ができたんです。 ネタ、足りなくなったんで考えたんですよ。 自分で、ホテルに缶詰になって。 |
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もう民間伝承じゃなくなってるわけですね(笑)。 |
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ほんとにもう死にものぐるいで しょうもないこと考えて! |
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ほんとに、そういうひょんなことから 始まるんですよね。 |
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そういうのって自分の体質として、 受け手体質なんだなと思うんですよ。 よしながさんの話を聞いてると、 同じじゃないかなと思ったんです。 いろんな人のマンガを見ましたっていう 時代のわたしがまだ生きてて、 わたしなら買うから作ってよ、みたいな。 |
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そうかもしれないです。 わたし、マンガを今、仕事で描いてて すっごく楽しいけど、 やっぱり読んでる方が楽しいです! |
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ちょっと今、本気で言ってますね。 |
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たまにすっごい恨めしい顔で、 「いいですよねぇー、編集者って」 って編集さんに言うんです。 担当さんにはすっごい迷惑かけてるし、 大変な仕事なのは分かってるんですけど、 いちばん最初に自分の大好きなマンガ家さんの マンガ読めて、しかも先はこうしましょうよとか、 自分の希望をさもプロっぽい顔で、 ただ自分が読みたいだけなのに言えて! で、しかも、自分でマンガ描くのと違って、 たくさんのマンガ家さんと お付き合いができるわけですよね。 自分は自分のマンガしか描けないけど。 「次はこの人だなっていう人に、 すっと移っていったりとかさ!」なんて つい言っちゃったりするときもあります。 |
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いじわるするわけですね(笑)。 よしながさんは自分が編集者になりたいっていう 気持ちもあるんですか? 憧れのマンガ家さんを集めた短編集とか 作れるんじゃないかな? |
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そうですねえ‥‥。 そういうふうにあんまり 思ったことはないんです。 編集者って、最終的に、 自分の大好きっていう気持ちが、 商業作品として通用するっていうことと、 ある程度一致してないとできない 職業だと思います。 そこがちょっと自分だとできない部分ですね。 そこも才能の1つだと思うんです、編集さんの。 |
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自分にはそれはない? |
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ないと思います。無理してるとかじゃなくて、 自然とそこが、人の求められるものとマッチする、 その感覚。わたし、そこはだめですね。 |
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受け手としては寛容な読者なんです? |
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受け手としては‥‥そうですね、 それについてはほんとに描いてよかったと思います。 描くようになってから、もっと前より 何でも読めるようになりました。 何でも面白くなって。 |
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京極夏彦さんがね、つまらない本なんかないって、 あれは名言だと思う。 |
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はい、わかります。ほんとにそうです。 しかもこうやって本屋さんに並んでる本は、 ある程度の網目を通ったものが出てるわけです。 なのでほんとにもう何読んでもおもしろいです。 だからやっぱりマンガ読んでる方が おもしろいんだけれど、 前よりずっと面白くマンガを読めるようになったので、 マンガ家になってよかったって思います。 |
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描いてる喜びとは全然違うんですか? |
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似てます。 |
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似てますか? |
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はい。 |
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ワクワクするんですか? |
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ワクワクします。 あと何だろう、つらいことが一瞬‥‥、 それは逃避とは違うんです。 現実がこんなにせちがらいので せめて物語の中ぐらいみたいな気持ちで 読んだことは1回もないので 逃避ではないなって自分で思います。 むしろつらい現実に立ち向かうために読んでる。 ‥‥のだけれど、でもやっぱり没頭してる間、 他のことは何も考えていないみたいな、 何かそういう不思議な世界っていうか。 わたしにとっては、さっき言ったドラマとかも 大好きなんですけれど、 やっぱりマンガがいちばんその体験を強烈にできる。 思春期のつらかった時期とか、 全部マンガのおかげで乗り越えてきました。 |
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アルコール依存の話してるみたいですね、まるで。 |
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でもそうです、中毒です。 わたし、お洋服とか買うときはもう、 たぶん目もキラキラしてて、 かわいいな、このお洋服を買いたいな、 連れて帰りたいなみたいな気持ちなんですけど、 本屋さんでマンガ買うときは 生活必需品というか、たぶんもう目は死んでて、 新刊とか出ると、楽しいとかじゃなくて、 ないと死んじゃうからしょうがないって思って買う。 |
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やっぱり酔っぱらいが酒を語ってるみたいだ(笑)。 |
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新刊が出てると「わあーっ!」とかじゃないんですよ、 普通にすぅって手が伸びて、 しょうがないよなみたいな。 |
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目がマジなんだね。 |
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そういう感じです。 |
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いいですね、今の話は。 |
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あ、そうですか(笑)。 本当に必要なものって人間、 そういう感覚になっちゃうと思うんですよ。 |
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うん、なると思う。 (つづきます) |
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2013-01-24-THU |