よしながさんが描いてる、ある種のねじれなんかも、 アメリカにも「待ってましたーっ!」て思える人が いるんですよ、きっと。 そう考えるとちょっと嬉しいですよね。 |
|
嬉しいです。ほんとにいるのかわからないですけど。 |
|
世代が違うんだけど、ビートルズが流行ったときに、 ジョン・レノンていう人の居方(いかた)が 何かすごく変でよかったんですよ。 イギリス人だからというのもあるけど、 いわゆるアメリカ人の挙動じゃないんですよね。 ちょっとひねってるというか、 まともに自分の思ったことを言ってない感じが とってもよくて、ぼくらの世代の人って 結構そこんところで影響受けてるとこありました。 |
|
わたしも子どものころ、 欧米としてすごいひとくくりに考えてたんですけど、 ヨーロッパ映画が観やすいなって思ったんです。 たとえばイギリスの人は、男の人の胸板が 日本人みたいに薄いし、 そんなに鍛えてないんですよね。 ときに、誰かが、 「こういう(ムキムキに鍛える)ことやるのは 世界中でアメリカ人だけだよ、むしろ」 って言って。 だから日本人とヨーロッパ人は わりと似た感性だって考えると、 むしろアメリカの方が すごい特殊な文化じゃないのかなぁ。 |
|
江戸の吉原って、日本中の田舎から 女の人を連れてきたから 「ありんす」っていう吉原言葉を 作ったっていうじゃないですか。 あれと同じように、世界中から いろんな人が集まったんで、 ありんすに近いような、 こうやった方がわかるんじゃないかという 人造国家を作ったんじゃないですかね。 |
|
それはそれですごく強大な力ですね。 おもしろいですよね。 わたし、アメリカのドラマも 映画も大好きなんです。 |
|
行為で表現することの快感みたいなのものを表すの、 ものすごく上手ですよね。 危ないとこっていったら高いとこ。 どろどろしてるとこは怖い。 みんなが納得する記号みたいなものの使い方は アメリカ映画に一日の長がありますね。 |
|
そうですよね。それもおもしろい。 どっちもおもしろい方がいい。 |
|
よしながさんは、お客さんというか、読者が、 どこでどう何を感じてるかっていうのは 何か仕入れる道はあるんですか? |
|
何もないです。 |
|
何もないんですか。 |
|
まず手紙は減りましたね。 それこそ同人誌で直接売ってたときには 直接お客さんの反応があって、 あれはすばらしいと思いましたけど。 それこそ、その日売ったら夕方、来て。 |
|
「おもしろかったです!」って。 |
|
商業作品だともうそんなの あり得ないことなので。 商業誌の場合は、編集さん(担当編集者)が、 わたしにとっての神だって思います。 いっぱい背負わせて本当に申し訳ないんですけど、 編集さんが「おもしろかった」って言うのは、 「商売として通用します」っていう意味も含まれると わたしは思ってるので。 でも逆に言うとそういう意味では その方が1人いらっしゃるから、 すごく伸び伸び描けます。 |
|
編集さんの代替わりみたいなはないんですか? |
|
あります、もちろんあります。 |
|
でも平気なんですか? |
|
今のところは。 |
|
へぇー。 |
|
最初はその信頼関係をつくるのが大変ですけど。 代替わりしたって向こうもそうやって 今まで何年もマンガの仕事をなさってきた方なので、 ご飯食べたり、雑談したりして築いていきます。 わたし、自分ではジャッジできないタイプなんです。 できるタイプの方もいると思うんですけど、 わたしはもう、 わたしがおもしろいと思ったものしか描けないから。 絶対おもしろいって勝手に盛り上がって描いて、 あとのジャッジは編集さんに委ねて、 ここ、直した方がいいっていうところを 直して出します。 |
|
編集さんのジャッジで 「いちばんいいです」 っていうのに当たる言葉は何ですか? |
|
どうだろう、何かこの一言とかは、 ないかもしれないんですけど、 詳しく言っていただけるときが嬉しいですね。 このコマ、このコマ、このセリフ。 全体的に見ておもしろかったですっていうのも 嬉しいけど、ここの展開、ここが ぐっときましたみたいな、 そういうのはやっぱり嬉しいです。 あ、でも嬉しかった言葉がありますね。 それは「明日も会社、頑張ろうって思いました」。 |
|
ああー(笑)! それはとっても嬉しい言葉ですね。 |
|
言われたとき嬉しかったです。 全然、明るい話でもないし、 ハッピーエンドでもないし、 しかも担当さんは男性で、 わたしが描いたのは女性の話だったんですけど、 読んだ後に、そう言ってくださって。 |
|
それ、たまにぼく、メールでいただくことがあって。 「え、そーお?」っていう気持ちと、 「わかんないけど言ってくれるんだったらよかった」 って思ってます(笑)。 |
|
『きのう何食べた?』は 『モーニング』って雑誌に連載してるんですけど、 決まりのあおり文句があって、 それは「読むと元気になる」って 必ず書いてあるんですね。 わたし、あれが大好きで。 悲しい話でも確かに元気出たりするので。 そうか、そうか、わたし、 元気出してもらいたくって書いてんのかなぁ、 って思うんです。 |
|
悲しい、どろどろした話でも元気になりますよね。 |
|
なります。 |
|
それは、負の意味も含めて 人間の可能性がおっきいってわかるからですよね。 人がちっちゃくつまんないものに見えたら、 明日頑張れないですもん。 悪党なら悪党で、たとえば、死んじゃった、 ヒース・レジャー(『ダークナイト』のジョーカー)。 あれ見て元気になるもんね、やっぱり。 ちっぽけさも含めた、あの大きさの悪党って、 俺は生まれて初めてお前を見たよって思って、 嬉しくって、帰って、みんなに、 見た方がいいよって(笑)。 |
|
そうですよね。わかります。 わたしは、つげ義春さんのマンガが好きで。 年下の子に、 おもしろいマンガないですかって言われたときに、 「つげ義春さん、わたし好きなんだけど読む?」って。 どこが好きなのかって聞かれて咄嗟に出たのが、 「元気出るよ」でした。 その子が、就職活動をやる時期になって、 別件だったと思うんですけど、電話してきたときに、 「元気出た、ほんとに!」って。 でもわたし、逆にその電話聞いて、 じゃ、わたしはいつも就職活動みたいな 気持ちなのかなぁって思って。 つげさんのマンガの中で、 売ろうとしていた石が全然売れなくて、 奥さんがばーんてその石を投げて、 もう、こんなのやだーっ、 あんたにはマンガしかないのよって言って、 後ろに喘息の子どもがうぇーって泣いてて、 最後にお寺の鐘がゴーン。 あれ、元気出るんです、すっごい。 もう何度読んでも、このゴーンてとこで元気が出ます。 |
|
その、頼りになんないつげさんを 頼りにしてる自分ていましたよね。 若いときはね。 ああ、あれは何だろう、 絵のせいもあるし、全部なんですよね、 マンガってやっぱりね。 つげさんは、仕事として水木しげるさんの アシスタントをして、そのおかげで、 生活のために仕方なく身につけたペンタッチが、 人に何かを伝えたんだよね。 俺、そこんところがじんとくるんです。 |
|
ああー、そっか、なるほど。そうですね。 |
|
だってしょうがなく身につけたんですよ、あれ。 で、ああなったから描(えが)けたんですよ。 おそらく水木さんの楽天的なニヒリズム。 そこにも影響受けてますよね。やっぱり。 そこんところ抜きにして、 「俺、こういうマンガ描こうと思うんだよね」って つげさんを目指す生意気なやつがいたら、 じゃあ描いてみろよって言いたくなる。 つげさんはもう早くお金がほしくて しょうがなく描いてる時間が 全部あの中にこもってるから、 読んでいるぼくらも元気になるんだと思うよ。 (つづきます) |
|
2013-01-23-WED |
|