個人差はもちろんあるけれど、
人はだれでも、おおむね、
生活の3分の1近くをふとんの中で過ごします。
みんな、どんなふうに過ごしているんだろう‥‥?
寝つきは? 目覚めは? 快眠法は?
100人にたずねれば100種類の答えが返ってきそう。
様々な方々に、聞いてみることにしました。
「あなたの、眠りとのつき合い方を教えてください」
シリーズ3回目にお招きしたのは、
オリンピック女子スピードスケート史上、
日本初の金メダリスト、小平奈緒さんです。
人生の3分の1は、ふとんの中。1/3LIFE

- ──
- 様々なジャンルでご活躍の方々に、
眠りについてお話をうかがっております。
今回はオリンピック女子スピードスケートで
日本初の金メダリスト、
小平奈緒さんにお越しいただきました。
- 小平
- よろしくおねがいします。
- ──
- 小平さんに眠りのお話をうかがえるとは‥‥。
たいへん光栄です。
ほんとうにありがとうございます。
- 小平
- いえいえ、こちらこそありがとうございます。
あ、
このくまちゃん、「ねむくま」さんですね。
- ──
- えっ!
知ってくださっているなんて‥‥
うれしいです。
※わたしたちは「ねむれないくま」を
略して「ねむくま」と呼んでいます。
- 小平
- Twitterを拝見しました。

- ──
- わー、ありがとうございます。
さっそくお話をうかがいたいのですが、
まずは、現役を引退されたということで、
ほんとうにおつかれさまでした。
- 小平
- ありがとうございます。
- ──
- もう、引退されてから7ヶ月くらいですか?
- 小平
- そうですね。
10月22日がラストレースでしたので、
ちょうど7ヶ月が経ちました。
(このインタビューは6月上旬におこなわれました)
- ──
- ラストレースを、マックススピードのままで
かけ抜けていかれたような印象があります。
- 小平
- そうかもしれません。
おかげさまで、
ベストな状態で現役生活を終えることができました。
「スポーツは人生を豊かにする文化である」
ということを、自分の身体で表現したかったんです。
やはり、引退していく姿が
心身をボロボロに削られた状態ですと、
スポーツの豊かさが伝えられないですから。
- ──
- ご自身の身をもって表現されたわけですね。
おこがましいのですが、
「ほんとうにかっこいい」と思いました。
- 小平
- ありがとうございます(笑)。
- ──
- 現役でいらしたときは、眠りについて
たいへん気を使われていたとうかがいました。
- 小平
- はい。
アスリートって、
トレーニングしているときに強くなるのかというと、
そうではないんです。
- ──
- え、トレーニング以外でなにか‥‥。
- 小平
- 休んでいるときに、強くなるんです。
- ──
- 休んでいるときに、強くなる。
- 小平
- トレーニングはもちろん大切なのですが、
いかに上手に休めるかが、もっと大切です。

- ──
- ほう。
- 小平
- 身体はトレーニング中ではなく、
トレーニングの後に筋肉の合成などが
行われることで成長します。
- ──
- はい。
- 小平
- ですから、そのタイミングでしっかりと
睡眠をとって身体を休めると
成長ホルモンなどが正常に働くようになり、
より成長が促されるんです。
- ──
- なるほど。
- 小平
- どんなに練習しても、
身体を成長させる時間をしっかりとってあげないと、
強くはなれません。
- ──
- 寝ることで、強くなる。
- 小平
- はい。
さらに、睡眠が不足すると
疲労も抜けず、次の日のトレーニングに
集中できなくなってしまいます。
- ──
- 悪循環ですね。
- 小平
- ですから、睡眠はアスリートにとって
ほんとうに大切なことなんです。
- ──
- それは、ご自身の経験で学ばれたんですか。
- 小平
- そうですね。
いろいろと勉強はしてきたのですが、
やはり、自分がどんな状態がいいのかを
実際に経験してきたことが大きいです。
- ──
- なるほど。
- 小平
- 眠れていないときは、
はっきりと数値やデータに現われます。
- ──
- 競技のタイムなどで?
- 小平
- はい。
よく眠れていないな、というときには、
代謝がうまく行っていなかったり、
メンタル的にも焦りが出てしまったり。
そうすると
SpO2や体温、脈などのスコアに現れます。
SpO2の数値が下がったり、
起床時の脈がいつもより高かったりするので、
パフォーマンスが低下してしまいます。
※SpO2:体内のヘモグロビンと結合した酸素量の割合
- ──
- そんなにすぐに影響が出てしまうんですか。
- 小平
- そうなんです。
反対に、睡眠のリズムが整ってきたときには、
内臓やメンタルが整って、むくみもとれ、
全身の循環が良くなります。
そうすると、スコアも良くなってきます。
- ──
- はあー、
やはりそういうものなのですね。
- 小平
- とはいってもわたしの場合、
現役時代はトレーニングで
身体が疲れていましたから、
ほとんどまいにち
バタンキューという感じでした(笑)。

- ──
- そうですよねぇ。
- 小平
- 白目になって寝るような(笑)。
- ──
- 白目‥‥?!
- 小平
- はい、もう、そういうイメージです(笑)。
9時に寝ようと決めていても、
8時ころには
「もうだめだ‥‥」という感じで。
- ──
- 前回お話をうかがった
バレエダンサーの宮尾俊太郎さんも、
レッスンの日々だった期間は
毎晩バタンキューだったと
おっしゃっていました。
- 小平
- きっと同じですね。
- ──
- 白目を剥いてしまうほどの眠りは、
やはり深い睡眠なんでしょうか。
- 小平
- 深い睡眠ですよね。
でも、そもそもそんなになるまで
身体に負荷をかけるのは良くないことです。
気絶とおなじですから。
(つづきます)
撮影:池ノ谷侑花(ゆかい)