個人差はもちろんあるけれど、
人はだれでも、おおむね、
生活の3分の1近くをふとんの中で過ごします。
みんな、どんなふうに過ごしているんだろう‥‥?
寝つきは? 目覚めは? 快眠法は?
100人にたずねれば100種類の答えが返ってきそう。
様々な方々に、聞いてみることにしました。
「あなたの、眠りとのつき合い方を教えてください」
シリーズ3回目にお招きしたのは、
オリンピック女子スピードスケート史上、
日本初の金メダリスト、小平奈緒さんです。
人生の3分の1は、ふとんの中。1/3LIFE
![ほぼ日「ねむれないくまのために」PRESENTS](./images/interview03/btn_presents.png)
- ──
- アスリートだったときと引退されてからと、
睡眠は変わりましたでしょうか?
- 小平
- そうですね、変わりました。
- ──
- どんなところが変わりましたか?
- 小平
- アスリートのときは、
しっかりと身体が疲れていましたので
すぐに眠ることができました。
ですが、今は頭は疲れていても
身体はそれほど疲れていないので、
眠りに入りづらいんです。
- ──
- なるほど。
現在は激しいトレーニングもないでしょうから。
- 小平
- そうですね。
朝はわりとすっきりと目覚められるのですが、
とくに現役を引退してすぐのころは、
なかなか新しい仕事に慣れずに、
眠れない日も多かったです。
![](./images/interview03/img07.jpg)
- ──
- これまでとはまったく違うお仕事ですものね。
- 小平
- はい。
文章を書くようなお仕事も増えてきて、
夜遅くまでかかってしまうことも多くなりました。
- ──
- 文章。
気がつくと、あっというまに
時間が経っているタイプのお仕事です。
- 小平
- そうなんです。
あとは、講演活動もたくさん
させていただいているので、
そのスライドを作ったりとか。
- ──
- えっ、スライドをつくるようなことも
ご自身でされているんですか。
- 小平
- はい。
やはり、考えれば考えるほど、
伝えたいことがでてくるので、
それをうまく60分とか90分の
講演時間に収めるのがたいへんで。
- ──
- わたしたちのような、
デスクワークの悩みと
近いところがあるかもしれません。
- 小平
- そうかもしれないですね。
最近は、すこしずつやり方も分かってきて、
仕事は夜9時まで、というふうに
あらかじめ決めています。
なるべく時間内に、
集中して終わらせるよう心がけています。
- ──
- とんでもない集中力なんでしょうねぇ。
途中で眠くなってしまうことはないんですか?
- 小平
- 昼間に眠くなることがありますが、
コーヒーで耐えます(笑)。
- ──
- 耐える。
親近感が湧いてきました(笑)。
コーヒー、飲まれるんですね。
- 小平
- はい、コーヒー大好きなんです。
ですが、やはりカフェインがたっぷり
含まれていますから、
コーヒーは15時までと決めています。
- ──
- そこは、きちんと。
さすがです。
- 小平
- それでも、新しい環境の中で
今までとはまったく違うお仕事をしていると、
夜になっても頭が働いている状態が
続いてしまっています。
- ──
- 眠りたいのに、脳は覚醒しているような。
- 小平
- そうです。
うまく睡眠モードに入れないことがあります。
- ──
- あの‥‥
またもやおこがましいのですが、
そういうときに、
ぴったりな方法をお教えしてもいいですか?
- 小平
- え、知りたいです。
![](./images/interview03/img08.jpg)
- ──
- 三橋先生に教えていただいた方法です。
まず、目を閉じます。
次にこうやって、指で耳をふさぎます。
そしたら、「ん~~~」と長く声を出して、
頭蓋骨に音を響かせるんです。
頭の中を音で満たすイメージで。
そうすることで雑念をそとに追い出して、
頭のなかをしずかにする、という方法です。
具体的な方法を動画で撮っていますので、
あとでご覧になってみてください。
- 小平
- はい、ぜひ。
- ──
- 「ん~~~」って、やるだけなんです。
- 小平
- わかる気がします。
「音で頭の中を満たす」っていうのを
今うかがって、「無意識の感覚」
という言葉を思い出しました。
- ──
- 「無意識の感覚」?
- 小平
- はい。
アスリートの中では、
よく出てくる言葉なんですが、
極限まで集中している状態というのでしょうか。
音で頭の中を満たして雑念をなくすということが
それとリンクしました。
- ──
- なるほど。
一流のアスリートの方は、
「ん~~~」ってやらなくても
できてしまいそうですね(笑)。
それではもうひとつ、
おすすめの入眠方法を
ご紹介してもいいでしょうか。
- 小平
- おねがいします。
- ──
- 「カウントダウン法」です。
- 小平
- 「カウントダウン法」?
- ──
- これも詳しい動画があるので
後でチェックしてみてください。
簡単な方法です。
頭の中で、
100からゆっくり1ずつ引いていくんです。
100,99,98‥‥という具合に。
- 小平
- なるほどぉ。
- ──
- 眠れないときに、よく羊を数える方法があります。
- 小平
- ありますね。
- ──
- しかしそれだと、1,2,3,4と、
ほとんど頭を使わずにできてしまうので、
脳が他の余計なことを考えてしまいます。
ですが、1ずつ引き算するときは、
すこーしですが頭を使います。
この、すこし考えるというのがポイントで、
他の余計なことを考えずにすむんだそうです。
- 小平
- なるほど!
- ──
- ちなみに、わたしにはこの方法がてきめんで、
ほんとうにすぐに眠ってしまいます。
70までいったことが一度もないくらいで。
- 小平
- へえー、試してみたいです。
- ──
- ぜひ、簡単なので。
- 小平
- 今のそのお話でも、
思い出したことがありました。
わたしが働いている病院で
リハビリをされているおばあちゃんが、
眠るときに「九九をしている」って、
おっしゃってたんです。
- ──
- 九九? 掛け算の?
- 小平
- はい。1×1から順番に。
わたしはおばあちゃんに、
「羊を数えるのといっしょですね」と言ったのですが、
今思えばそれは、
「カウントダウン法」のような
もう1ステップ進んだ方法だったんですね。
![](./images/interview03/img09.jpg)
- ──
- おお、そうかもしれません。
- 小平
- 93歳くらいの、ほんとうにお元気な方で、
わたしともたくさんお話ししてくださるんです。
- ──
- 実際に患者さんと関わる
お仕事もされているんですね。
- 小平
- はい。
基本的には広報企画室で働いていますが、
リハビリ室やスポーツ運動施設に
うかがったりもしています。
- ──
- 小平さんに会えるだけで、
うれしくなっちゃいますね。
- 小平
- あとは、病院内の事務的なお仕事を
することもあります。
職員の方に
「小平さんが、これやってくれたんですか」
と言ってもらえたり。
まだ半年くらいですけれど、
徐々にみなさんと交流できるように
なってきたのが、うれしいんです。
- ──
- みなさんたすかるし、うれしいでしょうねぇ。
小平さんといっしょに働けるなんて。
- 小平
- 信州でうまれて、信州で育って、
そして、アスリートとして信州で支えてもらって。
引退したからといって、
これだけ応援してくれた地域の方々との
関係が途切れてしまうのは、
あまりにもかなしいな、と思っていました。
ですから、引退後は
あたらしい場所へ行くよりも、
いままで応援してくださった地域の方々と、
さらにつながっていきたいんです。
そのほうがうれしいですし、
わたしのこれからの人生も豊かになると思ったんです。
- ──
- すてきです。
- 小平
- わたし、病院で何人もの
おじいちゃん、おばあちゃんを
泣かせちゃってるんです(笑)。
「なおちゃん、まだ相澤病院にいてくれたの」って。
- ──
- わー、それは泣いちゃう(笑)。
- 小平
- そういうときには、
スケートがんばってきてよかったって思います。
- ──
- ‥‥はああ~。
小平さん、ありがとうございます。
きょうは眠りのことだけでなく、
たくさんのお話をしてくださって、
ほんとうにありがとうございました。
- 小平
- いえいえ、こちらこそありがとうございました。
‥‥(ねむくまを手に取り)
ねむくまさんも、ありがとうね。
- ──
- おお、よかったね、ねむくま(笑)。
- 小平
- ‥‥ねむくまさん、手足が動くんですね。
(ねむくまの手足をうごかす)
- ──
- はい、動かせます。
- 小平
- ええと‥‥これを‥‥こうして‥‥。
- ──
- それは、もしかして‥‥。
- 小平
- よいしょ。
こんな感じでしょうか。
![](./images/interview03/img10.jpg)
- ──
- わわわ!
- 小平
- スピードスケートのフォームです。
- ──
- すごーい(笑)、
ほんとうに滑っているみたいです!!
(それから小平さんとねむくま編集部は、
このインタビューのメインビジュアルを撮影しに、
近くの公園までみんなで出かけました。
その時間がとてもたのしかったので、
エピローグのように最後に記します。)
![](./images/interview03/img11.jpg)
- カメラマン
- はーい、いいですねー!
- 小平
- 風が強いですねー(笑)。
- カメラマン
- ねえ。
そんななかごめんなさい、もう一枚!
こんどは、ねむくまを頭の上に、
おねがいします。
- 小平
- こうでしょうか?
![](./images/interview03/img12.jpg)
- カメラマン
- バッチリです。
はい、十分に撮れました。
ありがとうございました!
- 一同
- お疲れ様でしたー!(拍手)
- ──
- 風は強いけど、いいお天気でよかったです。
ねむくまも、
スケートのフォームでがんばったね(笑)。
- 小平
- あ、じゃあ、せっかくなので、
わたしもいっしょに同じフォームを。
![](./images/interview03/img13.jpg)
- ──
- す、すごい‥‥!
- カメラマン
- それ、撮らせてください!!
- ──
- 一瞬にしてフォームが決まって。
ちょっと感激がすごいです。
こんなことまでしていただけるなんて‥‥。
小平さん、あらためまして、
今日はほんとうに、
ほんとーに、ありがとうございました!
- 小平
- こちらこそです。
こんなに穏やかで
ゆったりできた取材は初めてです。
ピクニックみたいで(笑)。
どうもありがとうございました。
(小平奈緒さんの眠りのお話、終わります)
撮影:池ノ谷侑花(ゆかい)