第2回 ブタフィーヌさんの設計図。
糸井

たかしまさんは
「ブタフィーヌさん」という作品を
「ほぼ日マンガ大賞」という企画に
プロのイラストレーターでありながらも
普通に公募で応募してくださいました。
卓さんが感じたような
この作品の魅力は
ぼくらは応募作品だった状態で見てるわけです。

思えばそのときから、
何だか知らないけど引きつけられて。
この魅力をうまく伝える方法がないから
逆に連載してもらったほうが
手っ取り早いと思いました。
たくさん積み重なっていったら
どうなるだろうということは
きっと本人も分かんないはずだと思ってたんです。

たかしま

まったくそうですね。
あの時点では
7本ぐらいしか話は考えてなくて。
連載をさせていただけるというのは
すごく嬉しかったんですけど、
平日毎日連載です。
正直、そんなに
たくさん作れるのかなという
心配をしていました。
ですから、1年後の状態なんて
まったく想像もつかなったですし、
ほかの登場人物が出たりすることも
考えてませんでした。
でも、始めてみれば
どんどんどんどん
動いていってくれて
あっ、ブタフィーヌさん自体は
あまり動きませんが(笑)。

佐藤

あまり動かない、いいな、それ(笑)。

たかしま

「ブタフィーヌさん」は
寝てばかりですから(笑)。

糸井

「あまり動かない」というあたりも含めて
「ブタフィーヌさん」には
意外にロジカルな計算があるようなんですよ。
例えば、
「ある時期にはこのエリアから1歩も出ない」
「この日を境にここまでこう行く」とかね、
多分、たかしまさんの設計図が実はあるんですよ。

たかしま

普段のお話を描いてるときというのは、
僕もブタフィーヌさんを
見に行ってるような感覚なんです
「今、何してるのかなあ」
なんて散歩しながら考えると、
ゴロッとしてたりとかご飯食べたりしてて、
その後おじさんのとこに駆け寄ったりしてる。
その様子をなんとなく持ってきて
4コマにする。
そんな感覚なんです。
散歩してるときの風景が
なんとなく頭に残ってて、
それがブタフィーヌさんとリンクして
お話になるときもあります。
日々、そういう感覚で描いてます。
ただ、バックボーン的なストーリーみたいなものは
あのお話を応募する前から持ってて、
ブタフィーヌさんの過去は
けっこう衝撃的な過去で(笑)。

糸井

これは言わないでね(笑)。

たかしま

はい。
それももしかしたら
本人の口から
徐々に出てくるのかもしれません。

糸井

つまり、ブタフィーヌさんが
こういうことをこうする理由というのは
どうしてなんだろうとは
だれも思わないはずなんだけど、
たかしまさんは理由があってやってるんですよ。
なんで立つんだとかだって。

たかしま

そうですね。
おじさんもけっこう手先が器用なんですけれども、
あれは過去の経験から来てるという部分で。

糸井

いいでしょう?

たかしま

本当?と思われるかもしれないですけど
本当なんですよ。
でも、今はブタフィーヌさん自身も
明かしたくないみたい(笑)。

糸井

その大きな背景がないと
自信を持って何でもないあの日を
作れないんだと思う。
つまり、寝てて、
ごろん、ごろん、ごろん、ごろん
と4回したら
1日分ができちゃうじゃないですか。

佐藤

あ、そうですね。

糸井

そのように作れる漫画って、
いまだかつて多分ないと思う。

糸井

その前提があるから
何でもいいわけですね。

糸井

そう。だから、
「ある日見に行ったんだよね。
 そしたら、ごろごろしてたんだよね」
それだけで、たかしまさんとしてはOK。

たかしま

過去からつながって
その場面に至ってるので
それでいいんです。
僕も本当に読者気分で、
「あ、今日かわいい格好で寝てるなあ」
という感じでそれを描く。
そんな感じなんです。

糸井

もう完全にたかしまさんにとって
ブタフィーヌさんは、
外部というような感覚ですか。

たかしま

そうですね。
外部ですね。

糸井

僕もストーリーがあるものを
手がけてるときは
どう動くか分からない
という気持ちはいつでもあります。
詰将棋みたいに
ここ打って、ここ打って、
というふうにはできないと思うけど、
でも、当然定石もあるし。
たかしまさんとかも定石を
ものすごいうまいこと利用してると思うんです。
だけどやっぱりね、
どう転ぶだろうというのが
分かんないっていうのを
一緒に追っかけてる感じが。

たかしま

あ、たしかにそんな感じですね。
例えば、突然ブタフィーヌさんが
思い立って旅に出ちゃうとか、
僕の想像しない行動を今後起こしそうな、
そんな不安定さみたいなのがあるんです。
今はごろごろして安定してるけど
この平和が続いていくのかなという。

糸井

これからどうなるか
分かんないという空気は
読んでるというか見てる人間にも、
それ伝わってるかも。

たかしま

あ、そうですか?

糸井

かわいいんだけど
ちょっとアブナイ空気が漂っているんですよ。
ブタフィーヌさんがたかしまさんの
外部化されているというか
ある意味では
自立してるかのようなものに
なっちゃってるからなんですね。
ぼくの想像では
それは伝わってきてますよ。

<つづきます>
2007-03-07-WED
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