何だろうなあ、水野仁輔。
さいきんお友達感覚になっちゃってるし、
なんだか考えたことなかったなあ。
知り合ったのは、約15年以上前かな。
あの人が「カリ~番長」を立ち上げたくらいのころです。
最初はうちにお客さんとして来てくれてて、
顔は知ってたけれども、業界で有名なんてこと、
まったく知らなかったんです。
そのころ「カリ~番長」を立ち上げたばかりで、
手作りのフリーペーパーを持ってきて、
「これ、どうぞ読んでください」って。
で、ぼくのほうは
「‥‥何だ、このよくわかんない団体は?」
と思って(笑)。
「カレーが好きで活動されてるんだな。
がんばってくださいね」
ぐらいの印象だったんです。
それから何年も、
年1回ぐらいお客さんで会うんですけど、
店員とお客さんという立場だし、
仲良くなるとかは全然なくて、
ぼくにはずっと、
単なる「カレー好きのお兄さん」という
イメージしかなかったんです。
それで、ずいぶん経って
「『スパイス番長』というのをやるんだけど
いっしょにやりませんか?」って
声をかけてもらうんです。
ぼくはもともと「カリ~番長」自体に
まったく興味がなかったから、
「スパイス番長」と言われても
よくわからなかったわけですよ。
でも、
「毎月みんなで一緒にスパイス料理を作ろうよ」って。
それは何となく楽しそうだし、
ぼくも料理するのは好きだから、
そういうのならちょっとやってみたいかなと、
すごく軽い気持ちでやりはじめたんですよね。
仲良くなったのは「スパイス番長」で
一緒に活動するようになってからです。
人となりがわかって、深く話したら、
ものすごくカレーに詳しいじゃないですか。
ビックリしちゃって。
ぼくもインドに修行に行ってた時期があるんですが、
正式にインドに料理修行に行ってる人なんて、
日本には何人もいないんですね。
だからインド料理に関しては、
そこそこ自信があったつもりなんです。
だけど話を聞けば聞くほど、
「‥‥ちょっと待てよ。
ものすごいのがいるじゃないか」と。
あのときはほんとうに驚きました。
あと、あの人は料理についても、
勉強的にやらないで、
「カリ~番長」の活動を通して
「みんなで楽しみながら覚えよう」
というスタンスじゃないですか。
そこが、すごくうらやましかったですね。
ぼくは「修行しなきゃいけない」
「店を継がなきゃいけない」といった
プレッシャーを感じながらやってたのに、
あんなふうに自由にやれちゃうのは、いいなあと。
そこが、いっしょに活動してみようと思った
いちばんのきっかけだと思います。
しかも彼、スタンスがやわらかいんですよ。
知識はそうとう豊富ですけど、まったくひけらかさない。
表では「いや適当にやってるよ」とか言ってるけど、
言わないだけで、あの人、
ぜったい裏でやってるんです。
「昨日テスト勉強しなかったよ。ヤバイよ」
とか言いながら100点とるタイプ(笑)。
だけど、あの人からは、
そういった嫌味も感じないんです。
好きだからのめりこんでやってるだけで、
すがすがしくて、気持ちがいい人ですよね。
あと何だろうな、思うのは「ストイックさ」ですね。
ぼくらは毎年一緒にインドに
いろいろなカレーの探求をしに行ってるんですが、
彼はぜったい妥協しないし、諦めないんです。
旅の目的のために他を犠牲にするクールさがある。
「目的を果たすためには
削らなきゃいけない部分もあるから」
ということなんですけど、
すごくクレバーなところがありますね。
そこを見せないのが、あの人のうまいところで、
あれは女の子にモテちゃいますよね。
困っちゃいますね。
そして、そういうクレバーさを表には見せずに
みんなを引っ張っていくリーダーシップがある。
そこは、ぼくが彼に憧れてるし、
これからも一緒にやっていきたいなと思うところです。
一緒にいるとき、半分はカレーの話です。
あと半分はお酒のこととか
ロンドンがどうだったとか、プライベートの雑談。
ぼくらの話、意外と中身がないんです(笑) 。
ふつうに飲みに行って、ただただ
「こんどカレー食いに行こうぜ」みたいな。
でも、ぼくはあの人のカレーの話が
すごく好きなんですね。
話上手だし、知識も豊富だし、
いっしょにいてほんと飽きないです。
1つ質問したら10のカレーの話が返ってくる。
日本であれだけ詳しい人は、
彼ぐらいしかいないんじゃないかと思います。
水野さんは、ちゃんとしたインド料理の手法まで知ってる。
実はいま、ネットに転がってるような
カレーのレシピを見て作っているプロが
すごく多いんですけど、
ほんとうのインド料理のカレーの作り方って、
やっぱり全然違うんですよ。
彼はそういうものまでちゃんと知ってるし、理解してる。
あとインドカレーに限らず、
タイ、欧風、日本と、すべてに精通してる。
カレーのテクニックで言えば
上手な人はいっぱいいるんですけど、
知識に関しては日本一じゃないのかな。
お店もよく知ってるし。
だから彼のことは、けっこう心から尊敬してます。
あんまり言うと調子に乗るから
もっとラフな感じで接してるんですけど(笑)。
カレーとなると周りが見えなくなる感じも、
また可愛いというか、一所懸命さが伝わってきて、
この人についていこうかなという
感じになりますよね。
信頼できて、あざとさがない。
あの人、カレーをビジネスにもしてないじゃないですか。
ビジネスにせずにあそこまでやってる人は
なかなかいないと思います。
ぼくはきっと彼に対しては、
根底に尊敬があるんでしょうね。
「インド料理に関しては負けないぞ」
という気持ちもあるけど、根底には尊敬がある。
だから、ずっとこれからも一緒にやっていきたいですね。
ちょっと尊敬する友達というか、先輩という感じかな。
何でしょう。あの人そういうの嫌いますよね。
型にはまるの嫌いだし、自由にやってるし。
「自分は常に挑戦し続けたいから
ゴールなんてあり得ない」みたいな感じで言われて、
「なるほどな」とぼくも勉強になりましたね。
だから何だろうなあ、水野仁輔。
難しすぎますね。ぼくの中ではいちおう
「永遠のベビーフェイス」と呼んでるんですよね。
カレーとか性格とかと関係ないですけど。
肩書きがないのが、あの人っぽいので。
それでいいですか‥‥よかった。
そういうことにさせておいてください。
そうそう、おまけのような話ですけど、
水野さんは「スパイス番長」をはじめたあと、
「ナイルレストランを知りたい」と言って、
うちの店に毎日通ってたことがあるんですよね。
もちろん好きな店の1つで、常連でもあるはずだけど、
「自分はまだ常連になり切れてない」と言って、
ほんとに毎日来て、いろんなメニューを食べていたんです。
基本はランチで、来れなかったら夕方。
それを1年か2年やったのかな。
あのときはすごかったですね。
「今日は何カレーを食べよう」みたいにやってて、
ぼくも楽しいし、嬉しかったんですけど、
夜に打ち合わせがあれば他のカレー屋さんにも行くし、
カレーばっかりで、家でほとんどご飯食べてないでしょ。
とにかくひたすらそれを続けて、最終的に
「ナイルレストランのことがわかった、
自分も常連になった」
って言ったんだけども、
「いや、でもナイルレストランの
歴史を振り返ると、超常連はもっといるじゃないか。
1年間毎日通ったぐらいじゃ、
俺やっぱり常連になり切れなかった‥‥」
って思ったらしく、そのオチを聞いたときに、
水野さんらしいなと思いましたね。
あれはちょっとおもしろかったですね。