先生:寄席のおはやしさん 小口けいさん(おけいさん)  生徒:本願寺出版社のフジモトさん(本願寺)=三味線をはじめて約1年。   「ほぼ日」スガノ(津軽)=ちいさい頃、津軽三味線をやってました。

フジモト ふぅー、いつもの三味線教室は
椅子だから、勝手が違います。
おけい 正座はダメ?
フジモト いえいえ、正座そのものは慣れてます。
── 本願寺の方ですもんね。
おけい そうよねぇ。
── 実は、私はもう、
すでに足がしびれてると思います。
おけい じゃあ、これ、
使ったほうがいいわ。
正座補助のための
小さな椅子があるんです。
正座界では有名グッズです。
── すいません、使います。
最後に立てなくなるよりはいい。
この椅子を使うと、
たしかにしびれにくいんですが、
今回は、三味線が膝からつるつるすべるので、
結局使いませんでした。
フジモトとウォームアップ中。
久しぶりに弾く三味線はたのしい。
おけい あ、構えが津軽になってるよ!
── しまった、また。
大木、大木、
大木を抱えるように‥‥
おけい そうそう。ま、頭で考えなくてもさ、
普通に、普通に、
いつもの、津軽でいいんだよ。
‥‥ふふふふ、だけどそれは津軽すぎるね。
気を抜くと、すぐに棹が立って
45度の構えになっちゃうんです。
おけい そんなに棹を前に出してはだめ。
もっと水平に持って、
目線はちょっと低めに、かな。
そのほうが弾きやすいと思うんだ。
でも上手よ、ほんと、とっても。
ちゃんと、バチも持てるじゃない。
おけいさんには言いませんでしたが、
バチを持つのにはちょっと自信がありました。
だって、津軽(打楽器)ですからね。
おけい 本願寺さんは構えがきれいだね。
フジモト「‥‥“本願寺”って、私のこと?」
フジモト あ、私、はい、
ありがとうございます。
── くくくく、「本願寺さん」をお手本にしよう。
まっすぐに、まっすぐに。
おけい ほらっ、津軽!!
また津軽になってるよ!
うわ、しまった。気をつけよう。
津軽 「“津軽”って、私のこと?」
本願寺 ほほほほ、「津軽さん」の構えが
うつらないようにしないと。
「‥‥‥‥‥」火花が散る。
そうこうしているうちに、
おけいさんの準備ができちゃいました。
おけい いい感じですよ。
いま試しに弾いてた『祇園小唄』も、
たいしたもんじゃないの。
津軽 だけど、ふだんヘビメタを弾いていると
クラシックが弾けない‥‥
おけい それはね、もうしょうがないですよ。
そんなに気にしてると、
たのしくなくなっちゃうからね。
じゃ、『金毘羅』でいく?
津軽 はい。あかるい曲がいいです。
おけい そうね、『金毘羅』がいいね。
じゃあ、チューニングしましょう。
本願寺さん、ニをあげてみて。
もうちょっとしっかりあげて。
本願寺 はい、こうですか?
(ビョーン、ビョーン、と
 真ん中の弦を鳴らして、高めに調節する)
おけい いつも楽譜は、研譜?
本願寺 研譜です。
研譜とは、三味線の楽譜の種類、
研精会譜のこと。小十郎譜ともいう。
津軽 私は、最初についた師匠から
譜を見ないようにしなさいと
育てられたので。
おけい そう、じゃあ、手を見ればわかるわよね?
ここから構えて。いきますよ。
ふたり ハイ!
♪(こんぴらふねふね、おいてにほかけて‥‥)
ゆっくりゆっくり。
おけい ストップ、ストップ。
弦はまず、1本だけを弾きましょう。
わかんなくなっちゃうからね。
バチ使いも、いつもは
すくったりなんかもしますけど、
最初はぜんぶ、叩いちゃいます。
とにかく、たのしいな、という気持ちを
まずもって!
津軽 たのしい、たのしい!
おけい そう、せえの!
♪(こんぴらふねふね おいてにほかけて
  しゅらしゅしゅ)
おけい 弾いてて、響くところがあるでしょ?
そこが指の正しい場所ですからね。
三味線はフレットレスの楽器なので、
正しいツボ(場所)を押さえるのが
すごく難しいんです。
正しいツボだと、三味線がちゃんと
響いてくれるんですね。
♪(まわればしこくは さんしゅう
  なかのごおり ぞうずさん 
  こんぴらだいごんげん
  いちどまわれば)
おけい イー・ヤぁ!(掛け声)
おけいさんが、何回も繰り返して
弾いてくれます。
それを必死に見て習得。
三味線は、すぐに糸が伸びて
チューニングが合わなくなります。
おけい 津軽、津軽。
津軽 ハッ、はい。
おけい 調子合わせるときは、
全部の指を使ったほうがいい。
指を中につっこんじゃだめ!
あとの指は添えるだけですよ。
まずは見た感じで、素人くさくならないようにね。
ちゃんとやると、みんなに
「うまいんだなぁ」って思われるんだから。
津軽 はぁぁぁ。
おけい そこから脅かすわけよ。
素人っぽくやっちゃうと、
「あ、これはだめかな」とか、
思われちゃうからね。
それはだんぜん、損だから。
津軽 わかりました。
おけいこのようすを、
動画でごらんください。
(つづきます)

テーマ曲、出囃子。

寄席という興行場の誕生は
江戸時代、寛政十年とされているそうですが、
東京での寄席囃子の歴史は、
おそらく大正以降のことではないかと
言われています。
(上方落語ではもうすこし早い)
しかしいまではすっかり親しまれ、
落語とは切れない関係にあります。
曲の重複演奏を避ける意味もあり、
同一団体内では演者ごとに
曲目が決まっているので、
通の人は、曲頭を耳にしただけで
誰が登場するかがわかります。
『金毘羅舟々』は、香川県の金刀比羅宮の
参拝客を乗せた舟の歌で、
誕生は江戸末期。
柳家権太楼師匠は、
この曲を出囃子にしています。


2010-05-10-MON