先生:寄席のおはやしさん 小口けいさん(おけいさん)  生徒:本願寺出版社のフジモトさん(本願寺)=三味線をはじめて約1年。   「ほぼ日」スガノ(津軽)=ちいさい頃、津軽三味線をやってました。
落語家が高座にあがり、 「お笑いを一席」とはじめる前に── テテテンテンチントン、ドドン、 三味線、笛、かね、太鼓などによる合奏が流れます。 あれが出囃子(でばやし)です。 いうなれば、落語家のための 行進曲、テーマミュージック、たのしみの小序曲。 あのわくわくする音楽を 奏でてみたいと無理言って 寄席のおはやしさん、小口けいさんに 手ほどきをいただくことにしました。

ふたり、おけいさんに出逢う。 2010-05-06-THU
おけいさん、構えのイメージを伝える。 2010-05-07-FRI
おけいさん、ふたりに名をつける。
2010-05-10-MON
津軽、コツをつかむ。 2010-05-11-TUE
おけいさん、これまでのことを語る。 2010-05-12-WED
ふたり、あこがれを弾く。 2010-05-13-THU


── 今日は、よろしくお願いいたします。
師匠 こちらこそ。
── 師匠、今日は無理言ってすみません。
師匠 あら、師匠はやめてくださいよ。
── ではなんと‥‥
「師匠」と呼ぶのはだめ、と。
師匠 「おけいさん」でいいですよ。
── お‥‥おけいさん‥‥おけいさん。
フジモト おけいさん。
おけい そうそう。
ふだんからみんなに「おけいさん」って
言われてますからね。
── では、おけいさん、
今回は落語の出囃子を弾いてみたいと思い、
友人である本願寺出版社の
フジモトさんといっしょに、
厚かましくうかがいました。
よろしくお願いします。
おけい こちらこそですよ。
── 私は生まれ故郷で
幼い頃に三味線をやっていて、
現在は楽器を持っていないため、
今日はおけいさんの三味線を
貸していただきたいのですが。
おけい ええ、ここに用意してありますよ。
── これは‥‥。
アタッシュケースのようですね。
ビジネスマンが持つような
黒いケースに三味線が入ってます。
── 三味線が分解されてるんですか?
おけい そう。長いままだと、持ち運びに不便でしょ?
出囃子というのは寄席で弾くもんですから、
我々は移動が基本です。
だけど、こういう箱に入れてると
ふつうのカバンに見えちゃうから、
人ごみでぶつかると、おばさんがね、
まぁ私もおばさんなんですけどね(笑)、
「痛いわねっ」て。
── ああ、びっくりされますね。
おけい 「痛いわねっ」「あっ、すいません」
「なにそれっ」「楽器なんです」
── ははは。
フジモト 楽器に見えませんよねぇ。
フジモトは、マイ三味線を
すでに用意。
おけい それじゃ、三味線を組み立てていきますよ。
よくできてるもんでね、
昔の人っていうのはすごいのね、
組み立てるときにまちがえないように
ちゃーんと、考えてあるんですよ。
ここはひっこんでて、こっちが出てる。
だけど、もうひとつのつなぎめは、それが逆。
まちがったつなぎ方は、
できないようになってるんです。
誰だって自然に組み立てられるんですよ。
棹のみぞのでっぱりが、
正しい箇所だけに合うようになっている。
── 知りませんでした。
おけい これは、私が大学生の頃、
長唄同好会に入っていたとき、
使っていた三味線です。
── おけいさんが、学生さんの頃の。
おけい そうよ。
長唄同好会で三味線をはじめたとき、
せっかくだからいい楽器を買おうと思って
奮発して買ったのよ。
それからずっと
おけいこにつきあってくれた三味線です。
── ‥‥‥‥‥。
おけい 長い年月使ってる、
そう言いたいんでしょ?
いやいやいや、そうじゃなく。
── そんな三味線をお借りして
いいんですか?
おけい もちろんいいですよ。
いまも、寄席の本番で使ってる三味線の
皮が破れちゃったりすると、
この子、出動するんです。
── じゃあ、控え選手として、健在で。
おけい そう。
なかなかいい子でね。
── すみません、そんな大切な三味線を。
おけい ‥‥こう、ギュッとさすのよ。
つなぎめをあわせて、力をこめ、
ギュッとさす。組み立てが完成。
おけい スガノさんがやってた三味線は
お琴の地唄のほうかしら。
── いいえ、津軽三味線です。
おけい あ、津軽。
じゃあ、わりと、
出囃子とは違いますね。
── はい。別の種類の楽器だというくらい、
違うんですよね。
まったく弾けないんじゃないかと
ハラハラしています。
その点、フジモトは大丈夫です。
すべてフジモトがやりますので。
フジモト いや、あの‥‥(笑)、
私は長唄ですが、
三味線をはじめてたった1年ですし‥‥
三味線って、難しいですよねぇ。
── うん。もしかしたら、
もっとも難しい楽器じゃないかと思ったりします。
おけい そうよねぇ。
でも、やりはじめると、
こんなにおもしろい楽器はないと思います。

(つづきます)

長唄と津軽
ひとくちに三味線と言っても、
いろんな種類や流派があります。
長唄、箏曲、義太夫、地歌、浪曲、民謡、
沖縄や奄美大島ではヘビ皮を使った三線、
津軽地方の太棹で犬皮の津軽三味線、
などなどなど。
曲調はもちろん、目指すところも
棹の太さも皮も弦もバチも違います。
もし、「これから三味線を習いたいなぁ」という
ことがあれば、
「こんな種類の曲が引きたい」と定めて
教室を探すのがいいと思います。
ちなみに、フジモトは長唄の流派に、
スガノは津軽三味線と民謡の流派に
入門していました。
寄席囃子を弾きたい方には、
長唄がおすすめです。



2010-05-06-THU


おけいさん(小口けいさん)の参加した
寄席囃子の決定盤CDがあります。
その名も
「決定番!寄席囃子100。
出囃子を中心に、CD3枚組合計121曲を
収録しています。
今回私たちがお稽古した
『金毘羅舟々』も、もちろん入っています。
少し試聴もできますので、
(パソコンの機種によっては
 試聴できない場合があります)
こちらのサイトでおけいさんの三味線の音色を
聴いてみてください。
アマゾンでのご購入はこちら
Sony Music Shopでのご購入はこちら。



フジモトさんが三味線をはじめる
切っ掛けとなった落語の本、
タイトルは『おてらくご』(釈徹宗著)
といいます。
柳家さん喬師匠の『寿限無』、
笑福亭松喬師匠の『お文さん』、
藤野宗城さんの節談(ふしだん)説教を
収録したCDが付録について、
本願寺出版社より発行されました。
Amazonでのご購入はこちらへどうぞ。

~フジモトさんからのメッセージ~
落語について、何も知らなかったので
『老松』を弾けたらなぁ、という憧れもあり、
長唄の三味線教室に体験に行きました。
そしたら、すごくおもしろかったので、
即入門。先生も若くて厳しくなくて(笑)。
寄席やホールにもずいぶん通いました。
またいろんな師匠方の出囃子を
弾いてみたいです。