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── |
今日は、よろしくお願いいたします。
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師匠 |
こちらこそ。
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── |
師匠、今日は無理言ってすみません。
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師匠 |
あら、師匠はやめてくださいよ。
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── |
ではなんと‥‥ |
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「師匠」と呼ぶのはだめ、と。 |
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師匠 |
「おけいさん」でいいですよ。
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── |
お‥‥おけいさん‥‥おけいさん。
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フジモト |
おけいさん。
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おけい |
そうそう。
ふだんからみんなに「おけいさん」って
言われてますからね。
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── |
では、おけいさん、
今回は落語の出囃子を弾いてみたいと思い、
友人である本願寺出版社の
フジモトさんといっしょに、
厚かましくうかがいました。
よろしくお願いします。
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おけい |
こちらこそですよ。
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── |
私は生まれ故郷で
幼い頃に三味線をやっていて、
現在は楽器を持っていないため、
今日はおけいさんの三味線を
貸していただきたいのですが。
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おけい |
ええ、ここに用意してありますよ。
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── |
これは‥‥。
アタッシュケースのようですね。 |
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ビジネスマンが持つような
黒いケースに三味線が入ってます。
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── |
三味線が分解されてるんですか?
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おけい |
そう。長いままだと、持ち運びに不便でしょ?
出囃子というのは寄席で弾くもんですから、
我々は移動が基本です。
だけど、こういう箱に入れてると
ふつうのカバンに見えちゃうから、
人ごみでぶつかると、おばさんがね、
まぁ私もおばさんなんですけどね(笑)、
「痛いわねっ」て。
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── |
ああ、びっくりされますね。
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おけい |
「痛いわねっ」「あっ、すいません」
「なにそれっ」「楽器なんです」
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── |
ははは。
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フジモト |
楽器に見えませんよねぇ。
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フジモトは、マイ三味線を
すでに用意。
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おけい |
それじゃ、三味線を組み立てていきますよ。
よくできてるもんでね、
昔の人っていうのはすごいのね、
組み立てるときにまちがえないように
ちゃーんと、考えてあるんですよ。
ここはひっこんでて、こっちが出てる。
だけど、もうひとつのつなぎめは、それが逆。
まちがったつなぎ方は、
できないようになってるんです。
誰だって自然に組み立てられるんですよ。 |
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棹のみぞのでっぱりが、
正しい箇所だけに合うようになっている。
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── |
知りませんでした。
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おけい |
これは、私が大学生の頃、
長唄同好会に入っていたとき、
使っていた三味線です。
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── |
おけいさんが、学生さんの頃の。
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おけい |
そうよ。
長唄同好会で三味線をはじめたとき、
せっかくだからいい楽器を買おうと思って
奮発して買ったのよ。
それからずっと
おけいこにつきあってくれた三味線です。
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── |
‥‥‥‥‥。
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おけい |
長い年月使ってる、
そう言いたいんでしょ?
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いやいやいや、そうじゃなく。
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── |
そんな三味線をお借りして
いいんですか?
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おけい |
もちろんいいですよ。
いまも、寄席の本番で使ってる三味線の
皮が破れちゃったりすると、
この子、出動するんです。
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── |
じゃあ、控え選手として、健在で。
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おけい |
そう。
なかなかいい子でね。
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── |
すみません、そんな大切な三味線を。
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おけい |
‥‥こう、ギュッとさすのよ。 |
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つなぎめをあわせて、力をこめ、
ギュッとさす。組み立てが完成。
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おけい |
スガノさんがやってた三味線は
お琴の地唄のほうかしら。
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── |
いいえ、津軽三味線です。
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おけい |
あ、津軽。
じゃあ、わりと、
出囃子とは違いますね。
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── |
はい。別の種類の楽器だというくらい、
違うんですよね。
まったく弾けないんじゃないかと
ハラハラしています。
その点、フジモトは大丈夫です。
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すべてフジモトがやりますので。
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フジモト |
いや、あの‥‥(笑)、
私は長唄ですが、
三味線をはじめてたった1年ですし‥‥
三味線って、難しいですよねぇ。
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── |
うん。もしかしたら、
もっとも難しい楽器じゃないかと思ったりします。
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おけい |
そうよねぇ。
でも、やりはじめると、
こんなにおもしろい楽器はないと思います。
(つづきます) |