糸井 |
音楽の場合って、あんまりにも
うれしがられすぎてしまうと、作り手は、
「わたしはあんたの神じゃない」
というところまで来るとは思うんです。
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沼澤 |
そういうつもりじゃないところで
評価されることはどうでもよくて、
「この曲は、こういう意味ですよね!!」
って言われたところで、違う時もある。
ジョン・レノンなんかは、そういうことが
ものすごく多かったと思うんですけど。
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糸井 |
つらかったろうね。
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沼澤 |
ただ、それが伝わらなかったからといって、
「理解してないな、おまえは」
と言うべきものでも、ないじゃないですか。
人に受け入れられていることは、
自分の本意ではなくても、
その人には成立しているから、
それはそれで、ありがたいことで。
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糸井 |
さっきの
遠く広くきかせたい、っていうことは、
お金をつかみたいということと重なるよね。
遠く広くきかせるための
媒介になるものがお金だから、
お金というかたちで貯蔵しておこうという
ことって、あるじゃないですか。
誰でも、
最初から小さく小さく伝えたいなんて、
高度すぎて、求められないことだと思うんです。
「わぁ、ひとりだけに通じることって、
こんなに、すごいことなんだ・・・」
っていうのは、年とってからわかることで、
このことを伝えるのはひとりでいい、
と最初から思うのは、きついよね。
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沼澤 |
表現するということに
いっぱいになっている時もあるから、
たとえば大貫さんと一緒に演奏する時には、
「大貫さんの音楽のクオリティまで
持っていくにはどうするか」
「大貫さんがぼくの演奏に何を求めているか」
まず最初は、それをみたすことで
精一杯になってしまうんですよ。
それ以外のことを考える余裕はないんです。
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糸井 |
絵を描いてる最中みたいな集中なんだ。
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沼澤 |
ほんとにそうですよ。
今日のベストを尽くすためには、
それだけを考えるというのでないと・・・。
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糸井 |
そのセリフって、すごくいいわ。
こないだ、トマトの農家の人と話したけど、
その人がやっぱり、
「トマトは飽きないね。毎年一本一本苗が違うから」
って言うんです。
これでいいということもないし、
自然も違うから、同じにやっていいことなんて
ひとつもないから、って。
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大貫 |
ね、台風も吹いたり、すごいものね。
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糸井 |
レコードもおなじだよ。
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大貫 |
うん。
ものを作る状態は変わる。
でも、台風が吹いちゃったような時に
やめちゃいけないのよね。
その時に畑を捨てないで、もういちど
掘っていくと、更にいい畑になるのよね。
わたしも、ずうっとやってきたから。
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糸井 |
「だめかもしれない」と
「だめ」の違いって、すごく大きいよね。
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大貫 |
うん。
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糸井 |
それで、ダメっていうことを
自分に決めさせる権限を持たせる必要はないよね。
「目の前にカベがあります。
あなたはどうやって通り抜けますか」
っていう心理テストがあるじゃないですか。
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大貫 |
うん、ある。壊したりいろいろ、ってやつでしょ?
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糸井 |
それ、やったことある?
零士さんは、どうするんですか?
カベはどういうものか、決めていいんですよ。
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零士 |
ぼくは、ぶちぬくんですけど、
どうやったら、きれいに抜けるかな、
っていうのを考えるんですね。
着ていた服がよごれたりするの、やなんです。
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糸井 |
大貫さんはどう?
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大貫 |
とりあえずハンマーで、
ベルリンのカベみたいに。
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沼澤 |
ぼくは、ひだりがわからまわって抜ける感じ。
こわごわ様子を見るというか。
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糸井 |
俺は、答えがわかるまで考える、ってやつ。
つまり、いちばんいい答えがあるというのを、
信じていると思うんですよ。
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零士 |
道をきれいにつくった、っていうことを
継承していきたいですね。
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大貫 |
美意識があるね。
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糸井 |
いや、この組みあわせで話をきくって、
なんか、おもしろいね。
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零士 |
なんか、知らなかった世界の話だから、
おもしろかったです。
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大貫 |
さすがにナンバーワンのかた、という感じがある。
きれいだもの。
お顔を見ればわかりますよ。
風通しが、すばらしいもん。
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沼澤 |
うん。
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