ITOI

頭出し:電波少年的放送局の62時間。
いくつになっても、馬鹿は馬鹿。

高阪剛さん、栗山英樹さん、森川幸人さんたちとの、
格闘技と個人と仕事などについての会話だ!!

第1回 (野球は組織論)

第2回 (一日2升のコメを食う)

第3回 (格闘技は「いかに自分を客観的に見られるか」)

第4回 (努力だけでも、かなり活躍できる)

[格闘技座談会]
<第5回 自分の弱点を把握するという出発点>


糸井 さっきのセコンドの話にしても、
自分とよほど実力の近い人が
「今だ!」と言うなら、ありだろうけど。
高阪 ただ、
相手のことも把握したいんですけど、
自分の状態がどうあるかということも
行動に還元しているんです。
栗山 あぁ、それは本人しかわからないね。
高阪 膠着状態にある時に、
実は顔や姿には出していないけど
かなり効いているとか、
それをダマしながら、さもふつうだったよ、
というように持っていって、
攻撃にいくんです。

そうすると、相手に弱さが伝わらないから、
「アイツはいつまでたっても強い」
というように思われるんですよね。
知らん顔して効いてるなんてことは
ぜんぜんありますから。
糸井 さんざん、あるんだろうね。
高阪 ものすごくありますよ。
「アイツはいつまでも強い」
っていう結論になるんですけど、
実は握れないとかダルいとか、
それは出さないだけなんです。
・・・まぁ、出すやつもいないですけど。
糸井 野球の選手って、
不調な時には硬球が飛んでくることへの
恐怖心って、ないですか?
栗山 ありますねー。
こわくなるんですよ。
調子のいい時にはこわくないのに。
あれは、不思議ですよね。
ただ、ぼくは現役時代は
そんなに怖くなかったんですよ。
「当たるのも、仕事」だったので。

バッターの分類には、
「こわがり」っていうのもあるんです。
ぼくらみたいにそんなに打てない人間は
こわがらないんです。
でも、いいバッターは怪我したくないから、
そのバッターに対しては
「こわがり」というタイプの攻め方もあって。
かなり有効な場合と、
そうじゃない場合とがあるんですけど。
この分類を聞いたのは、野村さんからでした。
糸井 分類としては、
格闘技の世界にも
「もといじめられっこ」
っていうのがありますよね。
高阪 ええ。
栗山 それは、強いんですか?
高阪 途中までは強いんですよね。
だけど、最後にやっぱりガクッて。

こわがりの選手もいるんですよ。
「打たれるのがイヤ」とか。
外人に多いですね。アメリカ人に。
痛いのがイヤ、って。
でも、ものすごく曲者が多いんですよ。
斜めから攻めてくるんです。
正面から攻めてこないで
斜めからちくちくくるタイプというか。

映像で見てもわからないし、
本人しかわからないんですけど、
組んでないのに足がここにきた、とか。
糸井 自分の弱味をはっきりわかった上での
発明をしてくる人たち、なんだ。
それって、ほかの分野でもそうだよね。
自分の弱味をはっきりわかったあとの
アイデアって、あるもんね。
高阪 俺はなんでよわいんだ、とか、
なんでこわいんだ、だけでは、
ただの気の弱い人で終わると思うんです。
「だったら、どうしたらいいんだろう?」
と考え出すひとが、そうなると思うんですね。

アメリカ人のファイターで、
マンソン・ギブソンっていう
キックボクシング系の人がいるんですけど、
すごい変型なんですよ。
いきなり相手にお尻を見せて試合をする。

こっちは顔面に打てないし、
蹴ろうにもケツしか当たらない。
栗山 (笑)
高阪 バックハンドブローっていう
裏拳がすごくじょうずな選手なんですよ。
たぶん、あいつはこわがりなんだ、
と思うんですよ、自分としては。
栗山 へぇー。いろんなかたちがあるんですね。
高阪 ふつうバックハンドって
やってもあんまり当たらないんですよ。
でもそいつがやると、けっこう当たるという。
当て勘っていって、それは
そいつがもともと持っている才能なんですよ。
ボクサーとかによくいるんですけど。
糸井 このジャンルがすごいのは、
何かに気づいた時に、やるのはぜんぶ自分、
ということですよね。
あいつがあれをやって、俺がこれをやればいい、
という仕事のしかたができないから、
おそろしいよねぇ・・・。
野球選手、ボールが飛んでこない時は
分担できているもんね。
この人たちは、全時間自分でやっているから。
栗山 うわぁ、ほんとうにそうですね。
糸井 だから、こんなのが
プロ化するなんて、ありえないと思うんです。
こんなに全力で、何試合も、できるはずがない。
WWFみたいなファンタジーはあるけど、
ほんとに勝ちたいなんていう人たちが
真剣にやったら、年間何試合もできない。
栗山 ほんと、そうですよ。
みんな本気で勝ちたいんですよね。
これ、すごいっすよ。
高阪 自分のやってきたことが
どれだけ正しいかを確かめたいとか、
いろいろなことを投影していくんですけど。
栗山 あぁ、やっぱりそうでしょうね。
最後は、「自分の確認」ですもんね。
森川 すごいよね。
人を殴ったり蹴ったりすることで
「確認」する世界なんだから。
栗山 (笑)
高阪 (笑)殴るほうが「正しい!」って思って、
やられたほうは、「俺、まちがえた」って。
もちろん、痛いし。
糸井 いやぁ、おもしろいわ。
栗山 いま高阪さんに伺ったような
戦いとか組織とかって、
すごい興味があるんですよ。
糸井 そうだよねー。俺も俺も。


(※おわり)

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2002-05-28-TUE

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