おとなの小論文教室。

受験のテクニックとして、小論文の書き方を勉強した?
その後は、ナイスなテキストを書いていますか?
考えること伝えることの愉快を、ここで味わいましょう。
ありがたいことに、小論文というものを
考えたり、たのしんだり、たくさん読んできた
カジュアルで優しい先生がいるんです。
さぁ、山田ズーニー先生、お願いしまーす。

Lesson950
嫌と言えない自分を責めるまえに

嫌だと言えない人を責めるつもりは、ない。

私も、嫌と言えず何年も苦しんだことがある。
その状況にある人の想いは切実にわがことのように感じる。

その上で考えたい、そもそも、

「相手は、自分が嫌がってると知っているだろうか?」

嫌と伝えず、嫌な顔ひとつせず、
それどころか、常にいい顔をし、いい返事をし、
そのうえ、おべんちゃらまで言っていたとしたら、

相手はどうやって嫌がられてると「知る」のだろう?

忘年会シーズンだからか、こんな声をよく耳にする。

「嫌な先輩にたびたび飲みに誘われ、断れない。
嫌々ついていったら地獄。自慢話を聞かされ、
説教までされ‥‥」

嫌と言えないことを責めるつもりはない。だけど、

ものすごく嫌がってる人間を、それでも、
何回も、何回も、誘い、一緒に飲食をし続けられるほど、
人間タフだろうか。

相手は、自分が嫌がっていると気づいていない、
そう考えるほうが自然ではないだろうか。

世の中には、嫌であればあるほど、
それを隠そうと、必死で、
うれしいふり、健気なふり、をしてしまう人がいる。

誘われたとき、嫌で嫌でたまらないのに、
なぜか反射的に、
「わーうれしい! 行きたかったんです!」
と、つい、言ってしまう。

行ったら行ったで、笑顔でヨイショし、楽しいふりをする。

翌日は、自分からわざわざ、
「ごちそうさまでした。たのしかったです。
ありがとうございました。」
と、それだけならまだいい。

「また誘ってください!」まで言ってしまう。

これだと相手は、
どうやって嫌がられてると気づくのだろう。
喜ばれていると、仲良くしてると、
思ってしまうのではないか。

一方で、上の世代からはこんな声も聞く。

「正直、下を連れて飲みになんか行きたくない。
ちょっとのことでハラスメントとか言われる時代だし、
おごってあげなければいけないし。
家のローンや、娘の学費、おごるのもラクじゃない。」

でも、その世代は、決まってこう言う。

「若い時、自分も先輩におごってもらったんだ。
話も聞いてもらった。
だから、自分も後輩に、おごってやらねばならない。
話も聞いてやらなきゃいけない。」

おたがい腹をわって話してみたら、
忖度と忖度、義務感と義務感、だったりしないのかな。

もちろん、ことはそんなに単純じゃない。

本当に嫌がってるとわかってて、
嫌なことをし続ける人間だってもちろんいる。でも、

相手は私が嫌がってるとわかってやってるのか、
それとも、嫌がってると気づいていないのか?

そこだけでもわかったら、見える景色もちがってくる。

私も、チカラ関係のなかで嫌と言えず、
何年も苦しんだ経験がある。

私がとても嫌なことを言い続ける人に、
やめてもらいたくて、やめてはくれなくて、

私の場合は、良い関係に持っていこうとして、
相手の仕事を理解したり、
むしろいつも以上に、相手に気配りした。

それが、相手をいい気にさせてしまっていた。

ある日、

「相手は、私が嫌がってると気づいていない?!
いや、むしろ、私が歓んでいるとさえ思っている?!」

と気づいたときは、ゾっ、とした。だって、

「私、一度も、相手に、
嫌だから、やめてください、と言っていない…!!!」

そこからは、

伝える、ことに過度な期待をせず、
伝えたところでどうにもならないかもしれない、
と覚悟しつつ、

ちょっとずつ、ちょっとずつ、
勇気も出し、相手の立場になって見もし、
失礼にならないように、自分自身にも言い聞かせるように、
ちょっとずつ、ちょっとずつ、伝え続けたら、

私の場合はやめてもらえた。

「相手に忖度して、言いたいことが言えない。」

と言う人が、いまとても多い。
でも、そんな人は、自分を責める前に、

「相手は、自分が嫌がってることに、気づいているか?」

と考えてみてほしい。

「そんなの当然、相手はわかっているよ」

と思う人も、だまされたと思って、
ある日の、口頭やSNSでのやりとりを、
客観的に、指差し確認するようなつもりで
たどってみてほしい。

「ごはんに誘われた → 私、即OKの返事をした」

「自慢話をされた → 私、もちあげた」

「また行こうねと言われた → 私、もちろん!と答えた」

このやりとりの、具体的にどこで、
相手は嫌われてると感じ取れるのだろうかと、
特定してみてほしい。

自分でもゾッとするほど、
ゼンゼン伝えていない、顔や態度にまったく表してない、
と気づくこともある。

「それでも相手に意思表示するなんて無理。」

と思っている人は、
ちょっとずつ、ちょっとずつ、偽りを引き算してみよう。

先にあげた飲み会の例だったら、まず、

翌日に「ごちそうさま、ありがとう」までは言ってもいい、
「また誘ってください」は言い過ぎだ。
そこは、引き算して言わないようにしてみよう。

それができたら、こんどは、
飲みに行って、嫌だな、楽しくないな、というとき、
ムリに笑顔をつくるのを引き算、
相手をおだてるのも引き算してみよう。

それができるようになったら、今度は、
誘われたとき、じっと黙ってみよう。

それができるようになったら、
「今日はやりたいことがあるんです。」
とだけ、ひとりごとのように言ったりもしよう。
結果、行くことになっても、言うだけ言えた分、
気が晴れる。

そんなふうに、
嘘を一つずつ、一つずつ、引き算していって、
本心を1ミリ、2ミリと、顔に、言葉に、出していく。

すると、スーッ、と気が晴れて、
自分の中からえもいわれぬ活気が蘇ってくる。

嫌なものは嫌、嫌いなものは嫌い、と
1ミリでも2ミリでも表現できたなら、
「あ、これが本来の私!」と、イキイキしてくる。

「伝えよう」

とトライすることは、こんなふうに、
たとえ相手に伝わらなかったとしても、

自分を偽りから解放してくれる!
元気になる!

見失っていた自分を少しずつ取り戻させてくれる。

だからトライする価値はある、
と私は思う。

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「おとなの小論文教室。」を読んでのご意見、ご感想を
ぜひお送りください
題名を「山田ズーニーさんへ」として、
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ラジオで、山田ズーニーが、
『おかんの昼ごはん』について話しました!

録音版をぜひお聞きください。
「ラジオ版学問ノススメ」(2012年12月30日~)
 インターネット環境があれば、だれでもどこからでも
 無料で聴けます

 聴取サイトは、http://www.jfn.co.jp/susume/
 (MP3ダウンロードのボタンをクリックしてください)
 または、iTunesからのダウンロードとなります。


ほんとうにおかげさまで本になりました!
ありがとうございます!


『おかんの昼ごはん』河出書房新社
「親の老い」への哀しみをどう表現していいかわからない
私のような人は多いと思います。
読者と表現しあったこの本は、思い切り泣けたあと、
胸の奥が温かくなり、自分の進む道が見えてきます。
この本が出来上がったとき、おもわず本におじぎをし、
想いがこみ上げいつまでもいつまでも本に頭をさげていました。
大切な人への愛から生まれ、その先へ歩き出すための一冊です。



『「働きたくない」というあなたへ』河出書房新社
「あなたは社会に必要だ!」
ネットで大反響を巻き起こした、おとなの本気の仕事論。
あなたの“へその緒”が社会とつながる!



『新人諸君、半年黙って仕事せよ』
―フレッシュマンのためのコミュニケーション講座(筑摩書房)
私は新人に、「だいじょうぶだ」と伝えたい。
「あなたには、コミュニケーション力がある」と。
            ――山田ズーニー。



『人とつながる表現教室。』河出書房新社
おかげさまで「おとなの小論文教室。II」が文庫化されました!
文庫のために、「理解という名の愛がほしい」から改題し、
文庫オリジナルのあとがきも掲載しています。
山田はこれまで出したすべての本の中でこの本が最も好きです。



『おとなの進路教室。』河出書房新社
「自分らしい選択をしたい」とき、
「自分はこれでいいのか」がよぎるとき、
自分の考えのありかに気づかせてくれる一冊。
「おとなの小論文教室。」で
7年にわたり読者と響きあうようにして書かれた連載から
自分らしい進路を切りひらくをテーマに
選りすぐって再編集!



▲文庫版でました!
 あなたの表現がここからはじまる!

『おとなの小論文教室。』 (河出文庫)


ラジオ「おとなの進路教室。」
http://www.jfn.co.jp/otona/

おとなになっても進路に悩む。
就職、転職、結婚、退職……。
この番組では、
多彩なゲストを呼んで、「おとなの進路」を考える。
すでに成功してしまった人の
ありがたい話を聞くのではない。
まさに今、自分を生きようと
もがいている人の、現在進行形の悩み、
問題意識、ブレイクスルーの鍵を
聞くところに面白さがある。
インターネット、
ポッドキャスティングのラジオ番組です。



「依頼文」や「おわび状」も、就活の自己PRも
このシートを使えば言いたいことが書ける!
相手に通じる文章になる!

『考えるシート』文庫版、出ました。



『話すチカラをつくる本』
三笠書房

NHK教育テレビのテキストが文庫になりました!
いまさら聞けないコミュニケーションの基礎が
いちからわかるやさしい入門書。


『文庫版『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
ちくま文庫

自分の想いがうまく相手に伝わらないと悩むときに、
ワンコインで手にする「通じ合う歓び」のコミュニケーション術!


『17歳は2回くる―おとなの小論文教室。III』
河出書房新社


『理解という名の愛が欲しいーおとなの小論文教室。II』
河出書房新社


『おとなの小論文教室。』
河出書房新社


『考えるシート』講談社


『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
筑摩書房



『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
PHP新書

内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの痛みと歓びを問いかける、
心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)



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