Lesson1014
なんでもない自分を尊ぶ
2021-08-25
「自分の行動を決めている主人公が、
じつは親の期待であったということが続くと、
自尊感情がうまく育たなくなっていく」
そこで、はっ、と目がとまった。
大学入試の小論文問題を読んでいた時のことだ。
そこには、こんなエピソードが書かれていた。
………………
赤ちゃんが、ハイハイしている。
保育士は、
「じょうずじょうず! がんばれがんばれ!」
と大きな声で応援をする。
それを見たフランスの保育士は、言う、
「あんな大きな声を出してわあわあ言ったら、
赤ちゃんは、あの保育士のところに行かなければ、
と思ってしまうじゃないですか。
赤ちゃんは本当にあの保育士のところに
行きたかったんですか?
自分の行動を自分で選んでいる感覚を
持ちにくくなっている今の子どもには、
そういう保育をしてはいけない。
自尊感情の育ちを疎外するから。
フランスでは、“見守る”のです。」
(汐見稔幸著『本当は怖い小学一年生』より
山田の言葉でかなりかいつまんで紹介した)
………………
「自尊」=自分を尊重する
ということが、私は、
人生ふりかえるとうまくできなかった。
「仕事で頑張ってスゴイ人になれれば、
自分を尊重できるのでは?」
でも、先には先が、上には上が、ある。
頑張って進むほど、仕事のレベルは高く、
自分への要求は厳しく、自分への不安も増した。
「キレイになれれば、自分を尊重できるのでは?」
かつて、疑いもなくダイエットに励んだ私だが、
いま、ルッキズムという言葉を知って、
外見にこだわったり、外見で判断したり、
そういうこと自体に問題を感じてしまう。
そんな私が、いま、人生史上でいちばん、
自分を尊ぶことができているように思う。
しかも、能力や外見で上下することのない、
「なんでもない自分を尊ぶこと」
そうしようと思ったわけではない。
特別な何かをしたわけでもない。
ただ、この1年「新しい習慣」をつくった。
食事も、運動も、掃除も、1年前の私とは、
「生活の基礎」がまるで違う。
「自分を尊ぶ」の反対は、
極端にすれば「セルフネグレクト」になる。
食事・睡眠・環境など、
自分という存在のベースにかかわる面倒を、
自分自身で、日々、丁寧に、みていって、
その積み重ねの習慣の結果、
「なんでもない自分を尊べる」ように成った。
中でも、いちばん効いたのが、
「毎日、楽しく、運動すること」
“運動が、自尊になんの関係がある?”
と思った人も多いと思う。
私も、「運動習慣と子どもの自己肯定感」が、
大学入試の小論文に出た当初、そう思った。
運動をする子どもが、ほとんど運動をしない子どもより、
自己肯定感が高いのは、なぜ、と。
でも、いま運動習慣がついて、しみじみ思う。
「カラダへの尊重は、
全く運動しなかった時期より格段に増している。」
運動を全くしなかった日々では、
自分にカラダがあることさえ時に見失った。
見失って無理をし、カラダを壊し、やっと気づく。
その私がいま、毎日欠かさず運動をする。
運動は、カラダとの対話でもある。
自分に筋肉があること、骨があること、
血管があり血が流れていることを、リアルに感じる。
ハアハアと息が上がり、汗を滝のように流し、
一瞬一秒を生きようとしているカラダに、
無条件の愛おしさのようなものが湧く。
「“楽しい”に感覚をふりきったこと」
これも大きかった。
冒頭の赤ちゃんにたとえれば、
純粋に、無邪気に、ただ自分の思う方へ、
誰にも、何にも、さまたげられず
ハイハイして行けた感覚がある。
ただ楽しいから、運動する。
それ以外の余計な意図を一切混ぜない。
楽しくならない時は、運動量・内容・音楽を
楽しくなるように試行錯誤で調節する。
結果、運動が楽しくできるようになり、
楽しいから続き、毎日運動する習慣がつき、
あげく自尊まで生まれていた。
以前の私の中には、効果効能主義にとらわれた
口うるさい「親」のような自分がいて、
「目標5キロ痩せろ」
「そんなやり方じゃ効果がない、もっとこうしろ」
自分に期待したり、応援したり、追い込んだり。
でも、それでは運動は続かなかった。
「自分の楽しいという感覚」
それを信じて解き放った。それが、
なんでもない自分への尊重につながった。
先週のコラムを読んだ読者は、言う。
………………
<自分の枠組みを越える理解>
整骨院をやっていて、このコロナ禍で、
患者さんが来られないと、
自分が必要とされていない気がして
不安になってきます。
「他の所より自分の方がダメなのではないか」、
と、いじけます。
しかし最近、Twitterなどで書いている時、
ちゃんと想いが形になっていれば、
意外と評価は気にならないことに気づきました。
「評価にさらされても周りを気にしない自分もいる」
それがわかったことで、
「周りの評価が気になる自分も、
そうならざるを得ないもの」
として受け止められたように思います。
一見理解しがたい相手でも、
その振る舞いにはそうせざるを得ない理由があり、
そこに触れられた時に、
自分の枠組みを越える理解が生まれます。
それが「尊重」なのでしょう。
これは自分自身の理解にも言えます。
(たまふろ)
………………
自分の枠組みを越える理解が尊重。
まさに!
私も、何の生産性もなければ、
だれにも評価されない、
ただ自分の「楽しい」という感覚に従った時、
ハイハイしはじめた赤ちゃんを
野に解き放ったように、
どこへいくやらわからないハラハラ感があった。
でも貫いた先に、
予定調和でない、想像もしなかった自分に逢えた。
なんでもない自分を尊重することは、
私にとって、ただ包容することではなく、
それまでの能力主義・効果効能主義にとらわれた
自分の枠組みを越えるような作業、
勇気も、根気も、要った。それだけに、
「どんな自分に逢えるか、ワクワク楽しい!」
と私は思う。
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(MP3ダウンロードのボタンをクリックしてください)
または、iTunesからのダウンロードとなります。
ほんとうにおかげさまで本になりました!
ありがとうございます!
▲『おかんの昼ごはん』河出書房新社
「親の老い」への哀しみをどう表現していいかわからない
私のような人は多いと思います。
読者と表現しあったこの本は、思い切り泣けたあと、
胸の奥が温かくなり、自分の進む道が見えてきます。
この本が出来上がったとき、おもわず本におじぎをし、
想いがこみ上げいつまでもいつまでも本に頭をさげていました。
大切な人への愛から生まれ、その先へ歩き出すための一冊です。
『「働きたくない」というあなたへ』河出書房新社
「あなたは社会に必要だ!」
ネットで大反響を巻き起こした、おとなの本気の仕事論。
あなたの“へその緒”が社会とつながる!
『新人諸君、半年黙って仕事せよ』
―フレッシュマンのためのコミュニケーション講座(筑摩書房)
私は新人に、「だいじょうぶだ」と伝えたい。
「あなたには、コミュニケーション力がある」と。
――山田ズーニー。
▲『人とつながる表現教室。』河出書房新社
おかげさまで「おとなの小論文教室。II」が文庫化されました!
文庫のために、「理解という名の愛がほしい」から改題し、
文庫オリジナルのあとがきも掲載しています。
山田はこれまで出したすべての本の中でこの本が最も好きです。
『おとなの進路教室。』河出書房新社
「自分らしい選択をしたい」とき、
「自分はこれでいいのか」がよぎるとき、
自分の考えのありかに気づかせてくれる一冊。
「おとなの小論文教室。」で
7年にわたり読者と響きあうようにして書かれた連載から
自分らしい進路を切りひらくをテーマに
選りすぐって再編集!
▲文庫版でました!
あなたの表現がここからはじまる!
『おとなの小論文教室。』 (河出文庫)
ラジオ「おとなの進路教室。」
http://www.jfn.co.jp/otona/
おとなになっても進路に悩む。
就職、転職、結婚、退職……。
この番組では、
多彩なゲストを呼んで、「おとなの進路」を考える。
すでに成功してしまった人の
ありがたい話を聞くのではない。
まさに今、自分を生きようと
もがいている人の、現在進行形の悩み、
問題意識、ブレイクスルーの鍵を
聞くところに面白さがある。
インターネット、
ポッドキャスティングのラジオ番組です。
「依頼文」や「おわび状」も、就活の自己PRも
このシートを使えば言いたいことが書ける!
相手に通じる文章になる!
『考えるシート』文庫版、出ました。
『話すチカラをつくる本』
三笠書房
NHK教育テレビのテキストが文庫になりました!
いまさら聞けないコミュニケーションの基礎が
いちからわかるやさしい入門書。
『文庫版『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
ちくま文庫
自分の想いがうまく相手に伝わらないと悩むときに、
ワンコインで手にする「通じ合う歓び」のコミュニケーション術!
『17歳は2回くる―おとなの小論文教室。III』
河出書房新社
『理解という名の愛が欲しいーおとなの小論文教室。II』
河出書房新社
『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
PHP新書
内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの痛みと歓びを問いかける、
心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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