Lesson1032
自分の「背景」を描く
2022-03-02
もしも、あなたが
マンガの主人公だとして、
いまの暮らしを1コマで表すとしたら。
「背景」に、
どんな絵が描かれているだろうか?
人情豊かな下町か、
お洒落なデザイナーズマンションの一室か、
窓の外にひろがる一面の穏やかな海か。
「これからどう生きようか」と考える時に、
見落とされがちな背景だけど、
「自分がバックにどんな絵をしょってるか」
それが意外に大事なんではなかろうか。
……………………
「背景こそ、マンガには大切。
“たった1枚の背景を6時間かけて描いても、
読者には3秒しか見てもらえない”
と嘆く人がいるが、
3秒あれば充分じゃないか、
読者をその世界に連れ去るのに。
世界観こそマンガには重要で、
世界観をつくるのに背景描きこそ重要だ。」
先日、絵の先生から、
そういう意味の話を聞いた。
いま大人気のマンガ家の多くも、
くる日も、くる日も、「背景」ばかり
描かされたアシスタント時代がある、と。
大先生のアシスタントについて、
自分の好きなマンガは描かしてもらえず、
たった1枚の背景に何時間もかけて。
そんな生活を何年も続け、
合間を縫って自分の作品も描き続け、
先生に見てもらい、
やっとデビューしたマンガ家は、
背景を描くチカラが物凄く鍛えられている。
だから、読者を一発で連れ去るような
独自の「世界観」を創る基礎力がある。
独自の世界観に魅了された読者は、
少々難があっても、
その世界から離れられない。
だから人気作家になる可能性があると。
たしかになあ! と私は考えてみた。
のちに恋人になる2人が、
初めて出会う1コマがあるとして、
「2人が出会いさえすればいい、
サクッ、と会わせるのみで、
背景はどうでもいい」
というのと、
ひと目見て、ため息が出るほどの
吸い込まれそうに美しい星の夜空をバックに
出会うのと、
江戸時代、にぎやかな
商人たちの行き交う街並みをバックに
出会うのと。
どれもアリだし、正解はないが、
背景の絵1枚だけでも、
世界観がおそろしく違ってくるのはわかる。
「背景として、どの感情を描きたいか」
と絵の先生は言う。
例えば、
「さびれた飲み屋街」の背景を描く。
自分で、モデルになるような飲み屋街に行き、
写真を撮ってきたとして、
でも、それを忠実に写すことではないんだと。
それならAIにもできると。
そうじゃなくて、
その飲み屋街から、
どんな感情を引き出して描きたいのか。
たとえば、「不穏」
治安が悪そう、
いまにも悪人が飛び出して、
何か残酷な事件が起こりそう、
そんな背景を描きたいのか。
あるいは、「寂しさ」
かつて人気があった。
でも、いまはもう客足も途絶え、
忘れ去られた寂しい感じを出したいのか。
撮ってきた写真から、
感情を抽出して表現できる。
そんな背景描きは、
人間にしかできないのだと。
だから、背景を描いて、描いて、夢中になって、
あっという間に丸一日たっていて、
「ああこんなことに時間を費やしてしまった」、
と罪悪感を持つ必要はない。
それは世界観づくりに通じる訓練、
私は、絵の先生の言葉をそんなふうに解釈した。
「世界観をもっとも大切に想い、
一発でその世界にいざなうものづくり」
私はそういうあり方が
とても好きなんだということを
想い出し、取り戻した。
小論文編集者をしていた頃、
「どんな世界観なら、
読者の高校生が、四の五の言わなくても
一発で小論文の世界に引き込まれるか。
当月のテーマを考えたくなるか。
書くモチベーションをかきたてられるか。」
と考えて、ものづくりをするのが
好きだった。
久々にその気持ちを取り戻して、
「どんな世界観なら、生徒は、
一発で表現の世界に引き込まれ、
創造性が引き出され、
自由にアウトプットしたくなるか」
と世界観までを大切に、
納得いくまで仕事をしたら、
夢中になれて、楽しかった。
時間はとてもかかったけれど、
あっという間に時間が過ぎた。
世界観。
いま私は、リアルな人生において、
どんな世界観を生きているのだろうか。
例えば、
「私の背景は魅力的だろうか?」
と考えて見た。
どんな内装の部屋に住むか、
水回りは汚れているか、
それとも磨き上げられて輝いているか。
そんな小さなことも疎かにできない。
背景3秒、たった3秒で、
引き込まれもすれば、
ときめくこともあれば、
やる気が失せてしまうこともある。
日々、自分の目にうつす背景は、重要。
自分の内面とリンクする。
自分の生活の背景は、
自分の心のどんな部分を引き出すのか。
さらに、舞台。
どこを舞台に生きるか。
高層ビルの立ち並ぶ都会か、
情緒ある下町か、海の近くなのか。
おなじ海でも、
荒く激しい海か、
穏やかで優しい海か。
土地の醸し出す感情と、
自分の内面はリンクする。
「自分をどのような世界観の中で生かすか」
これからどう生きるか、を考える上で、
自分を包む世界観を丁寧に選択したり、
創意工夫で創っていきたい。
そして、
「この世界観は自分にふさわしいか」
問うていきたい、
と私は思う。
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読者と表現しあったこの本は、思い切り泣けたあと、
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この本が出来上がったとき、おもわず本におじぎをし、
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大切な人への愛から生まれ、その先へ歩き出すための一冊です。
『「働きたくない」というあなたへ』河出書房新社
「あなたは社会に必要だ!」
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あなたの“へその緒”が社会とつながる!
『新人諸君、半年黙って仕事せよ』
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――山田ズーニー。
▲『人とつながる表現教室。』河出書房新社
おかげさまで「おとなの小論文教室。II」が文庫化されました!
文庫のために、「理解という名の愛がほしい」から改題し、
文庫オリジナルのあとがきも掲載しています。
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『おとなの進路教室。』河出書房新社
「自分らしい選択をしたい」とき、
「自分はこれでいいのか」がよぎるとき、
自分の考えのありかに気づかせてくれる一冊。
「おとなの小論文教室。」で
7年にわたり読者と響きあうようにして書かれた連載から
自分らしい進路を切りひらくをテーマに
選りすぐって再編集!
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あなたの表現がここからはじまる!
『おとなの小論文教室。』 (河出文庫)
ラジオ「おとなの進路教室。」
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就職、転職、結婚、退職……。
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すでに成功してしまった人の
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『話すチカラをつくる本』
三笠書房
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いちからわかるやさしい入門書。
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自分の想いがうまく相手に伝わらないと悩むときに、
ワンコインで手にする「通じ合う歓び」のコミュニケーション術!
『17歳は2回くる―おとなの小論文教室。III』
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『理解という名の愛が欲しいーおとなの小論文教室。II』
河出書房新社
『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
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内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの痛みと歓びを問いかける、
心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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