Lesson1071
自分という枠組みは広がっているか
2023-04-05
この4月、私は未知の分野に一歩踏み出す。
頭のいい人たちの中で、
恥をかくだろう、
失敗するだろう。
「こんなことも知らないのか自分」、
「こんなこともできないのか自分」、
と、自己嫌悪にどこまで心は耐えられるだろうか。
それを承知で、
それでも、いま、
「自分の枠組みを広げなきゃ人生先細る」と、
強い危機感がある。
自尊心を代償に差し出してでも、
「未知の分野×自分のやってきた表現教育」の
化学反応を起こしたい。
「未知に踏み出す」
というとなんかカッコイイと思ってる人もいるだろう。
だが実際やったことのある人ならわかる、
史上最もカッコワルイ自分になる、
カッコワルイ姿を人にもさらす。
これまでの人生で、
まぎれもなく「未知に踏み出した」と言えるのは、
アラフォーで、16年勤めた会社を無防備に辞めた時だ。
それまでずっと一緒に仕事をしてきたチームを離れ、
1人で活動してみると、
だれがチームの頭脳だったか、心臓だったか、
足(=行動力)だったか、浮き彫りになっていく。
チームを人体にたとえると、
上司はチームの頭脳(=頭)と思っていたが
意外に行動力(=足)に優れていた、と、
離れて初めて偉大さを知る。
会社を辞める前は、
自分には頭脳も心臓も足も
主要機能がそこそこあるような気がしていたが、
仕事をとってきてくれる営業の人や、
お金をつかさどる経理の人が、
まるでいない環境に身を置いてみると、
まったく足腰立たない、
赤子のような自分を知る。
なんといっても、
小論文編集長として、何万、何十万もの高校生に、
文章教育をしてきたというのに、
2000年、初めてここに、
自分で文章を書くとなったら、
震えるほど恐い。
なんでこんなに恐いのかわからないほど心底恐かった。
編集者の立場でさんざんものを書いてきたというのに、
何にも寄らず、自分として、人前で表現することは別格。
こんなにも恐いんだ、と思い知らされた。
「未知に踏み出す=恥をかく」
くらいに思っていても差し支えない。
右も左もわからず、
歩き方もわからず、
まちがってても自分ではわからず、
うまくいってるのさえ自分でよくわからない、
人に言われて初めて知る、トホホな自分。
まるで睡眠中に夢の中を歩いているよう、
自分が自分でない、
本来の調子が出ない、変な感覚、
それが私にとって、未知を歩く感覚だ。
既知を歩いているときには、
けっこうイケてると思っていた自分の、
予想外にダメな側面も、
未知の角度からは、ごまかしようなく見えてくる。
そこで、それまで積み上げてきた習慣を
わざわざ解体して、
新しい習慣をいちから作っていかなければならない。
習慣は最後にして最大の壁。
「知ってる知ってる」
「わかってるわかってる」
「やろうとすればできる」
と自負する人が、そのくせ、いつまでたっても、
いっこうに変わらないのは、
「習慣化」しないからだ。
習慣化はそれくらい、
仕事のあり方にも人生にも決定的に影響を及ぼす。
でも、未知に踏み込む以上、
いままでの習慣の多くを壊し、
いちからつくっていかなければならない。
「自分の習慣の解体と再構築」
それが日常の大小さまざまなところで、
けっこうな頻度で、連続する。
それが未知を生きる上で私が一番しんどいことだ。
習慣は最後にして最大の壁、と言った。
だがそれは、「見えている壁のうちでは」だ。
実はもっと恐ろしい「見えない壁」がある。
習慣の壁よりも全然ケタ違いにドデカイ、
最初にして膨大な壁、それは、
「知らないという壁」
私は、これを私が講師をつとめる
コルクラボマンガ専科でたたきこまれた。
自分の仕事において、生きる上で、
とても重要な情報・知識・技術、
その多くを私たちは知らない、存在することさえも。
「自分が知らないということを知らないの壁」
けっこう情報に強いと思っている人や、
勤勉に勉強している人の中にも、
「自分が知らないことを知らない壁」の手前で、
既知の世界を延々と太らせている人がいる。
私はそうなることを今もっとも恐れる。
ブラックホールのように、
ただ密度が濃くなっていくだけで、
自分という枠組みは広がらない。
「自分が知らないということを知らない壁」を
突破するには、
これまでの延長線上で、
これまでと同じような努力をしていてはダメだ。
ガラッと環境を変えるか、
まったく違う分野にとびこんでいくとか、
とにかく無謀な一歩を踏み出すしかない。
かつて会社で編集者だった時の私は、
たくさんの先生方から教えていただいたことを、
理解して、一冊に編み上げることが仕事だった。
フリーランスになってからは、
「自己発信」ができることが大切で、
編集者時代のように諸先生から学ぶことを封印して、
アウトプット、自己発信、放電でやってきた。
そうして、それまでの人生で自分が身に着けてきたものを、
すべて出し切る勢いでアウトプットして生きてきて、
いま、やっと、
「全く新しい分野に学んで自分の枠組みを広げる」
必要性に迫られている、切実に。
まったく未知の分野に、
職業的直観を頼りに、
「ここで学ばせてください」
とお願いするのはとても勇気が要った。
心の底からこうしようと自分の意志で決めて、
それを実行に移すのは、
こんなにも恐く、こんなにも勇気がいることなんだな。
思いもかけず、
「いいよー」
と門がひらかれた。
涙が出た。
人から見たらささやかでも、
自分がこうしようと決めて、動いて、叶うのは、
なんて嬉しく、勇気が湧くんだろう。
この4月から、
おそらくたくさんの失敗をし、
恥という代償もたくさん払って、
それでも私は、
未知へと一歩を踏み出す。
知らないの壁を突破したい。
生きるために、
自分の枠組みを広げるために。
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ラジオで、山田ズーニーが、
『おかんの昼ごはん』について話しました!
録音版をぜひお聞きください。
●「ラジオ版学問ノススメ」(2012年12月30日~)
インターネット環境があれば、だれでもどこからでも
無料で聴けます。
聴取サイトは、http://www.jfn.co.jp/susume/
(MP3ダウンロードのボタンをクリックしてください)
または、iTunesからのダウンロードとなります。
ほんとうにおかげさまで本になりました!
ありがとうございます!
▲『おかんの昼ごはん』河出書房新社
「親の老い」への哀しみをどう表現していいかわからない
私のような人は多いと思います。
読者と表現しあったこの本は、思い切り泣けたあと、
胸の奥が温かくなり、自分の進む道が見えてきます。
この本が出来上がったとき、おもわず本におじぎをし、
想いがこみ上げいつまでもいつまでも本に頭をさげていました。
大切な人への愛から生まれ、その先へ歩き出すための一冊です。
『「働きたくない」というあなたへ』河出書房新社
「あなたは社会に必要だ!」
ネットで大反響を巻き起こした、おとなの本気の仕事論。
あなたの“へその緒”が社会とつながる!
『新人諸君、半年黙って仕事せよ』
―フレッシュマンのためのコミュニケーション講座(筑摩書房)
私は新人に、「だいじょうぶだ」と伝えたい。
「あなたには、コミュニケーション力がある」と。
――山田ズーニー。
▲『人とつながる表現教室。』河出書房新社
おかげさまで「おとなの小論文教室。II」が文庫化されました!
文庫のために、「理解という名の愛がほしい」から改題し、
文庫オリジナルのあとがきも掲載しています。
山田はこれまで出したすべての本の中でこの本が最も好きです。
『おとなの進路教室。』河出書房新社
「自分らしい選択をしたい」とき、
「自分はこれでいいのか」がよぎるとき、
自分の考えのありかに気づかせてくれる一冊。
「おとなの小論文教室。」で
7年にわたり読者と響きあうようにして書かれた連載から
自分らしい進路を切りひらくをテーマに
選りすぐって再編集!
▲文庫版でました!
あなたの表現がここからはじまる!
『おとなの小論文教室。』 (河出文庫)
ラジオ「おとなの進路教室。」
http://www.jfn.co.jp/otona/
おとなになっても進路に悩む。
就職、転職、結婚、退職……。
この番組では、
多彩なゲストを呼んで、「おとなの進路」を考える。
すでに成功してしまった人の
ありがたい話を聞くのではない。
まさに今、自分を生きようと
もがいている人の、現在進行形の悩み、
問題意識、ブレイクスルーの鍵を
聞くところに面白さがある。
インターネット、
ポッドキャスティングのラジオ番組です。
「依頼文」や「おわび状」も、就活の自己PRも
このシートを使えば言いたいことが書ける!
相手に通じる文章になる!
『考えるシート』文庫版、出ました。
『話すチカラをつくる本』
三笠書房
NHK教育テレビのテキストが文庫になりました!
いまさら聞けないコミュニケーションの基礎が
いちからわかるやさしい入門書。
『文庫版『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
ちくま文庫
自分の想いがうまく相手に伝わらないと悩むときに、
ワンコインで手にする「通じ合う歓び」のコミュニケーション術!
『17歳は2回くる―おとなの小論文教室。III』
河出書房新社
『理解という名の愛が欲しいーおとなの小論文教室。II』
河出書房新社
『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
PHP新書
内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの痛みと歓びを問いかける、
心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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