第3回
“終末”に期待する気持ち
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糸井 |
当時、ノストラダムスの預言書は
暦より売れたんですか。 |
藤本 |
部数で比べた資料を見たことがないんですが、
暦のようには売れてないと思います。
価値が高いですから。 |
糸井 |
なのに、ずっと残ってきたというのは、
いつでも誰かに使い道があったってことですよね。 |
藤本 |
抽象的な表現で書かれている四行詩ですから、
いろいろなふうに使えるんですね。
何か事件が起こったときに、
そういえばあの中になかったかと探すと、
「らしい」ものがあったりして。 |
鏡 |
ヒットラーもうまく利用したようです。
プロパガンダ的な使われた方は何度もされてますね。
下手すると、オリジナルにないものまで
勝手に新しく書き加える例もあって、
そうすると、
「ほら、われわれの勝利はここに書かれている」
という言い方ができる。 |
糸井 |
それだけ使いやすい道具であり、
また必要とされる社会があった。 |
藤本 |
それに、四行詩の中で
具体的な年号が登場する詩は非常に少ないです。 |
糸井 |
記された年号のいくつかは、
すでに過ぎているんでしょう。 |
鏡 |
それ、当たってたのかな。 |
藤本 |
当たったとも言えるし、
当たらなかったとも言える。
つまり抽象的すぎて、判断しにくいんです。
たとえば、1580年前後に、
奇妙な新時代が始まるというのがあるのですが、
これなんか、何ともいいにくいものでしょう。
ただ、のちに発見され、
彼が書いたのではないかと言われた預言書があって、
そこには100パーセント当たったと言われている
四行詩が一つあります。
ナントの勅令で、年号も地域も事象も全部、ぴったり。 |
鏡 |
いわゆる事後予言かもしれない。 |
藤本 |
考えられますね。
誰かがノストラダムのものとして、あとで書いた……。 |
糸井 |
ノストラダムスって、
みんなのオモチャになってますねぇ(笑)。
フランスではノストラダムスへの関心は
高いんですか? |
藤本 |
昨年8月('98)にフランスに行った時には、
一般的には、ほとんど盛り上がっていませんでした。
今月にまた行きますので、ご報告します(笑)。
今のところ、もっとも関心が高いのは
日本とアメリカですか。 |
鏡 |
日本以外では英語圏ですよね。 |
藤本 |
ブームというのじゃないですけど、
1792年、フランス革命の真っ最中に、
パリでノストラダムスの展示会みたいなことを
したと言われています。 |
糸井 |
なんでまたそんな時期に。 |
藤本 |
預言書の前文や詩の中で革命を予言しているというので。
私には、それらの部分が革命とは思えませんが。
なぜなら革命のハイライトは、1793年から94年なのに、
1792年で迫害が終わるというような書き方をしていますし、
国王の逃亡に関しても、地名が同じというだけのように
思えます。 |
鏡 |
政治的なプロパガンダかも。 |
糸井 |
それにしても1999年の予言が予言があるとはいえ、
なぜ日本でこんなにノストラダムスや終末論が
盛り上がるのか。 |
藤本 |
一つは安心感でしょう。
今の日本はとても状況が悪い。
だけど、どうせ近々終わってしまうと思えば、
もう努力しなくてもいいから安心するじゃないですか。
もう一つは平等感。
自分は不当な位置に置かれているという感覚も、
みんなが等しく同じ目にあえば、
そこにカタルシスみたいなものがある。
そういうことから、非常に受け入れやすいのだと思います。
ただ日本人て、長くものを覚えていられないえすよね。
だから終末感で盛り上がるのは
今年('99)までじゃないかしら。 |
糸井 |
そうか、今、大きい忘年会みたいな気分になってんのか。 |
鏡 |
僕は、終末への関心は日本人に限らないと思うんですよ。
終末って、世界の更新ということでしょう。
のんべんだらりと終わりなき一生が続くのは
耐えられないという思いは誰にもあって、
そこで終末に期待する気持ちも生まれてくる。 |
糸井 |
終末に負のイメージはあるけど、大きな意味では
お祭りでもあるというのはたしかですね。
僕はジンマシンになったとき、
あんまり痒いんで、ナイフでグサッと
刺されちゃったほうが楽だという感覚を
味わったことがあります。
それと似てる。
「いっそ、殺してくれぇー」ってセリフがあるけど、
ああいうものがあると、ちょっと収まるみたいな……。 |
鏡 |
わかりますね。 |
糸井 |
今年に入って、僕のところにも
けっこう取材がくるんですよ。
「予言の年ですけど、
糸井さん、日本はどうなると思いますか」って。
どうなるかと聞かれてもねぇ。
予言では日本に何かが起こると
言ってるわけでもないのに……。
「ノストラダムスっていう昔のフランス人が、
そんな日本のことばかり考えちゃいねえだろう」
というのが僕の返事。
ノストラダムス、日本のことなんか知ってました? |
藤本 |
預言書に地名が出てくるのは
ヨーロッパがほとんどで、
あとは北アフリカやアラブ方面ですね。
アジアという言葉は出てきますけど、
彼が意識していたアジアが
どこの範囲だったかというのはわからない。 |
糸井 |
「1999年、世界滅亡」と言いながら、
なんだか、日本だけが騒いじゃってるでしょう。
25年前の最初のブーム、
僕はあの頃が日本の国民的ナルシズムの
始まりじゃないかと思ってるの。
つまり日本がイッチョマエになって、
ある程度、社会が安定して、
“世界の中の日本”というアイデンティティーが
見え始めてきた。
そのとき日本は、自分が何でも注目されてると思い込む、
思春期の女の子みたいな状態になったんじゃないかな。 |
鏡 |
盛り上がるのは、
数時の並びのインパクトも大きいですね。
1999年って言われちゃうとねえ。 |
藤本 |
いかにも終わりそう。
(つづく) |