第1回 お宝はどこに?
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出久根 |
仲畑さんが雑誌に連載していた骨董の話、
いやぁ、面白かった。 |
仲畑 |
出久根さんにそう言うてもらうと、嬉しいな。
骨董の話というと、
たいていテメエの持ってるものを自慢するんだ。
「つまらないモノですが、
あそこの美術館にあるアレとほぼ相似のモノです」
とかさ。
そういうの、つまんないよね。
骨董の世界はもちろんモノ自体も面白いけど、
人間もオモロイんです。 |
出久根 |
そうです。人が面白い。 |
仲畑 |
モノについてだけだったら、
博物館のオッサンが書きゃいいんでね。
やっぱり人が右往左往するところが……。 |
糸井 |
あのね、お二人で勝手に話を始めないように。
僕が笛吹いてからにして。 |
仲畑 |
そうか。フライングしました。 |
糸井 |
僕は骨董に手は出してないんだけど、
一度だけ、仲畑さんちで見せてもらったとき、
「なんか、コイツから離れられない」
という茶碗があったんです。
他の器は何も感じないのに、それだけは気になって、
ずーっと触ってた覚えがある。 |
仲畑 |
ありゃ、いいやつだもん。 |
糸井 |
自分に縁がなければ
骨董ってわからないものだと思ってたのに、
あの茶碗は、見て触っただけで、何かを感じた。
ああいうことがモノと人間の間にあると知っただけで、
驚きだったんです。 |
仲畑 |
あのとき、僕もへぇーと思ってね。
あれは唐津の中でも
“一等賞”と言われるほどの逸品なんです。
そういう素性をぜんぜん知らなくても、
いいものは心に届くんだなぁと思ったのよ。 |
糸井 |
仲畑さんは、骨董の中でも、
「このジャンル」と決めて集めてるの? |
仲畑 |
それが骨董って、なかなかそうさせてくれないのよ。
「いいな」っていうのがどんどん出てくるから。
ただ、中国モノには手を出さないようにしてる。
あれはキリがないし、好みということでも、
精緻に過ぎてあまりピンとこないしね。 |
出久根 |
骨董に興味をもつようになったきっかけは
何だったんですか? |
仲畑 |
一回、蕩尽してやろうと思ったんです。
というのも、僕、一時期、ノイローゼになって、
そのときにお金はなにも助けてくれなかったのね。
それで、自分が持ってるささやかな金を、
全部ゼロにしてやれっていうのがあって。 |
出久根 |
骨董は金使いますからね。 |
仲畑 |
いくところまでいくには、やっぱり金がいる。 |
糸井 |
でも骨董にいったのは、
金を使えるってことだけじゃないでしょう。 |
仲畑 |
女だって、金使えるもんな。 |
糸井 |
たしか以前に、
「俺、お経買うたねん」とか、言ってたよね。 |
仲畑 |
そうそう。もともとは書が好きだったんだ。
それで古写経にちょっと興味をもって、
神田の古書店をウロウロと。 |
糸井 |
ああ、骨董の前にそれがある。 |
仲畑 |
あったんだね。
それで古書店に行くうち、
骨董屋にもあるって言われて。 |
糸井 |
そうか、古写経はどっちにもあるんだ。
同じ古いモノでも、骨董と古書では分野は違いますよね。
その境は? |
出久根 |
古本屋の場合は、基本的に紙と文字
−−まあ絵もありますが−−
それ以外はあまり扱わないです。
それから古本屋は
現物そのもので勝負するところがあって、
どんなものでも骨董とは言わず、
古書という形での売買になりますね。 |
仲畑 |
だから古写経はそのままだと
古書とも骨董とも言えるけど、
バラして軸にしたら骨董に入る。 |
糸井 |
そういうことか。 |
出久根 |
額に入れると骨董になるとかね。
そういうふうに売り方の形態も違うし、
棲み分けはどこかでやってます。 |
糸井 |
それで仲畑さんは、写経探しに、
骨董屋に行くようになったわけね。 |
仲畑 |
最初、骨董屋で壷なんかが
いっぱい並んでるのを見たときは、
「なに? これ」
「きったねぇなぁ」
と思ったんだよ。 |
糸井 |
嫌悪感があった? |
仲畑 |
あったね。
ぜんぜん興味なかった。
でも何度か行ってると、
写経ってしょっちゅうあるもんじゃないから、
しょうがなく店の人が壷の話なんかするのを聞いてて、
そのうちにだんだんと……。 |
出久根 |
仲畑さんをひきつけた骨董の魅力ってなんですかね。
歴史……? |
仲畑 |
うーん、歴史といっても、
古けりゃマルってことじゃないんですよね。
鏃を見ててもしょうがないし。 |
糸井 |
俺、石器は持ってるよ。 |
仲畑 |
恐竜の卵も持ってたよね。(笑) |
糸井 |
うん。
あのくらい遥かかなたになると、急に興味がわくの。 |
仲畑 |
骨董となると、まず、
人による伝播ということがあるでしょう。
それと器形そのものの美というのが
やっぱり介在してる。
美って、実に難解な妖怪みたいなもので、
だから愛しいんだけど。 |
出久根 |
でも最初から、
そういう理屈で入ったわけじゃないでしょう。 |
仲畑 |
一つには、悔しがりだったんだね。 |
出久根 |
悔しがり? |
仲畑 |
骨董屋に行き始めた頃、
よくわからないのに知ったかぶりしてね。
ちょっとサイズがいいかげんな
伊万里のぐい呑みを見たとき、
とりあえず、「これいいな」と言ってみたんです。
「いくら」って聞くと、
店のオヤジは人差し指を1本立てる。
でも、1万か10万か100万なのか、わかんないんだ。
自転車でも冷蔵庫でも、指1本だと、
「これ、10万だ」ってわかる。
だけど、1万から100万円まで
100倍の価値の揺れのところで、
俺、うーむ、汗タラって。
これ、ショックだったんです。
それが悔しくて、グラグラっとさせられちゃったのね。 |
糸井 |
別の価値観の世界があったんだ。
知ったかぶりも通用しなかった。 |
仲畑 |
僕ら、つい背伸びしちゃうから。
僕らというより「僕が」だね。 |
糸井 |
その「僕が」というのをバラすと、
この人、俺がジャージのトレパンはいてたりすると、
「それ、ええなあ」って、すぐに買いに行くんですよ。
値段とか、どういいのかも考えないで、
ともかくデパートに行って、
「いっちゃんええの、くれ!」って。
トレパン買うのに「いっちゃんええの」ですよ。(笑) |
仲畑 |
いっちゃんええのは、いっちゃんええでしょ、
やっぱり。(笑) |
出久根 |
金のことを考えたら、骨董にはハマれませんね。
いいと思えば欲しい。 |
糸井 |
じゃ、仲畑くん、偶然、骨董の世界に向いてたのね。
それで、さっきの指1本の答えは? |
仲畑 |
1万円。なぜわかったかというと、
「ちょっとまけてよ」と言ってみたら、
「じゃあ、このくらい」って、今度は指2本。
これまた2万だか20万だかわからないんだけど(笑)、
最終的に「2千円まけときましょう」
っていうのを聞いて、
そうか1万円なんだって思ったのよ。 |
出久根 |
100万円で2千円まけるなんて、
商売上あり得ないことですもんね。 |
仲畑 |
距離が合わないでしょう? |
出久根 |
古本屋は符牒なんて使わないですよ。
そりゃもう、1万円なら1万円ってちゃんと言います。
そのへんは、骨董って実に不可思議な世界だと思う。 |
仲畑 |
骨董屋ってイヤラシイとこあるよ。(笑)
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