第3回
事件解明のカギ
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糸井 |
巻上くんは声過敏症だし、
お二人とも他人の声や音が気になるでしょ。 |
巻上 |
すごく気になる。
テレビ見てて、
アテレコの声が気に入らなかったり、
下手な声優がいると、
すぐに他の画面に切り替えます。
見ていられなくなる。 |
鈴木 |
私も音に対しては敏感ですね。
車のエンジン音がちょっと変わっただけでも
すぐにわかります。 |
糸井 |
頭の中に「何ヘルツ」と出てくる? |
鈴木 |
ヘルツではなく、
「こんなところに高調波がのってる」とか、
分析した画面、声紋のパターンが
浮かんできます。 |
巻上 |
僕はホーメイをやるようになって、
倍音が聞こえてしょうがない。
たとえば今、エアコンの音がしてるでしょう。 |
糸井 |
えっ。
(耳をそば立てて)よくわからないなぁ。 |
巻上 |
聞こえるんです。
雑踏の中なんか、
そういう音がすごく含まれている。
ヴワ〜という音の成分を聞き取る耳が、
どんどんできてくるんですね。 |
糸井 |
自分で超高性能のマイクを
持っているようなもんですもんね。 |
鈴木 |
だけど無音の世界というのも気味悪いですよ。
今、この部屋ですと、自分の声が
壁に反射して聞こえてるわけですよね。
ところが無響室に入ると、
壁から反射してくる音がまったくない。
自分の声は顎から耳へ骨を伝っていくだけ。
気分は悪くなるし方向感覚もなくなる。 |
糸井 |
そうか、僕らが普段、聞いてる音って、
空気を伝わってくるものですもんね。 |
鈴木 |
そうです。
空気、気圧で伝わってくる。
ついでにお話ししますと、
人間の声が聞こえるのに、
どのくらいの気圧がかかっていると思いますか? |
糸井 |
どのくらいなんでしょう。 |
鈴木 |
1気圧の1億何千万分の1だったかな。
そのくらい気圧の小さなものを、
耳はキャッチしているんです。
で、耳の中には周波数分析装置がありましてね。
そこには繊毛がついていて、
その繊毛が奥にいけばいくほど
低い周波数を感じ、
外側が高い周波数を感じるんです。
ところが、何かの拍子で大きい音を聞くと、
その繊毛がやられちゃう。
すると、それがキャッチしていた周波数だけ
聞こえなくなるんですよ。
この周波数分析装置は、
壊れたら絶対に回復しません。 |
巻上 |
コンサートのPA
(マイク、アンプ、スピーカーなどの拡声装置)
のエンジニアに、そういう人、多いですよ。 |
糸井 |
壊れちゃった人。 |
巻上 |
職業柄でしょうけどね。
コンサートに行くと、ひどい音が出てる。
エンジニアの人に聞こえない周波数が
あるんですね。
だから、その周波数の音を
イコライジング(補正)して突き上げちゃう。
多くのコンサートはそうですよ。 |
糸井 |
過剰に味付けしちゃってるんだ。 |
鈴木 |
ヘッドホンステレオがありますね。
耳の中に入れて聞く……。
普通、われわれはジェット機が噴射する音を
真後ろから聞くのは耐えられない。
ヘッドホンステレオの場合、
それと同じくらいの音を
聞いてることになります。
それで耳の中の繊毛が
やられてしまうこともある。
耳の外に当てるカバー型のヘッドホンなら、
まだいいですけど。 |
巻上 |
今、生の音を認識できなくなってる人が
多いんです。
ミュージシャンでもそう。
マイクやスピーカーで拡大してくれないと、
自分の音楽が不安でしょうがない。
音の認識の構造が
変わってしまっているんですね。 |
糸井 |
マイクの使い方で音の強弱を調節するのは、
思えば不自然なことだよね。 |
巻上 |
そのまま歌って
ほんとうの音楽になるというように、
もう一回、
自然にもどす必要があると思いますよ。 |
糸井 |
賛成ですね。
ところで、コンピュータによる声の分析では、
どんなことまでわかるんでしょうか。 |
鈴木 |
われわれは、もっともらしく
周波数がどうのこうのと言っていますけど、
今の時点では、
たとえば声のワビだのサビだの、
音色が悪い……どこの音色が悪いのか、
そういうことはまだまだです。 |
糸井 |
うんうん。 |
鈴木 |
「甘い声」と言っても、
私が甘い声と思っているのと、
糸井さん、巻上さんが思うのでは
ぜんぜん違うかもしれない。
じゃあ、どこでその一致点をみるか。
そのとき周波数で分析すると、
わりと一致点が多いということなんです。 |
糸井 |
ある程度、抽出しやすい要素だけで
やりとりするしかないですもんね。 |
鈴木 |
ただ、声にはさまざまな情報が隠されています。
そこから犯罪捜査にも
声紋鑑定が使われているんですね。
ちょっと、このテープを聞いてみてください。
(テープから男の声が流れる) |
糸井 |
事件っぽいですね。 |
鈴木 |
これは平成5年の甲府信金OL殺人事件で、
犯人が脅迫電話をかけてきたときの声です。
年齢はわかりますか? |
糸井 |
……40歳。 |
鈴木 |
39歳なんです。
でも糸井さん、ぴったりですね。 |
糸井 |
俺、なんでわかったんだろう。
40歳くらいの人が出してそうな声なんですよ。 |
鈴木 |
自分の耳の中にある周波数分析装置と、
頭の中のメモリーとで比べてるんでしょうね。
あと、口調。
要するに、今の若い人では使わない口調ですね。
そういうことも大事な要素です。
そして声紋を見ると、
声帯の劣化の状態から、年齢もわかるわけです。
じゃあ、身長はどのくらいと思われますか。 |
糸井 |
僕と同じくらいかな。
175センチ……もうちょっと高い気もする。 |
巻上 |
うーん、165センチくらい。 |
鈴木 |
正解は173センチ。
私は170から175センチくらいと
分析しました。
さっき言ったファントの法則で、
声の周波数から背の高さを出したんです。
じゃ、出身地は? |
糸井 |
ぜったい北関東ですね。
僕は群馬の出身ですけど、
なんとなくそれに近いような。
そこまでいかなくても、
関東甲信越まで広げたら当たるんじゃないか。 |
鈴木 |
おっしゃる通りです。
私が出した結論が、
山梨県甲府市の南4キロくらい。
実際、その通りでした。 |
巻上 |
そこまで絞れるんですか。 |
鈴木 |
まず、方言です。
Rの発音が弱かったり、
「どういうことですか」というのを
「どういうこんや」と言ったり、
そういう細かいことを全部調べますと、
甲州弁、それも国中弁であり、
甲府市南の4キロの中に絞られるということが
わかってきます。
あと職業ですが……。 |
糸井 |
それまでわかりますか。 |
鈴木 |
相手を説得するようにしゃべってますね。
これは学校の先生かセールスマン。
それから
「お札の帯封はみんな無地で……」
と言ってるでしょう。 |
巻上 |
帯封に無地があるとか、
ぜんぜんそんなの知らないですね。 |
鈴木 |
普通は「○○銀行」という帯封が
ついていますからね。
無地の帯封となると裏金かもしれない。 |
巻上 |
あ、なるほど。 |
鈴木 |
学校の先生はそういうこと知らないだろうから、
セールス、
それも大きなお金を動かしている男ではないかと
判断したんです。
実際、1台1000万円もするような
トラックのセールスマンでした。 |
糸井 |
そこまで犯人像が絞られちゃうと、
もう一人くらいしかいないよね。 |
鈴木 |
さらに電話線のノイズとか
いろんなものを分析して、
ある地点の6つある公衆電話のうち、
いちばん右の電話機ということが
わかったんです。 |