BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

第1回 モノマネの極意

第2回 除夜の鐘はなぜ快い?

第3回 事件解明のカギ

第4回
声音は自由自在なり

糸井 今の話みたいに科学的じゃないけど、
僕は福岡でクラブのママに、
「あんたは声で人を惹きつけるようにしてる」
みたいなことを言われたことがある。
「甘え声で女に媚びてる」って(笑)。
その日から、自分の声の認識が変わりましたね。
言われてみてはじめてわかったけど……
明らかにそうなんです。
巻上 そうなんですか。(笑)
糸井 まあ舌が短いっていうせいもあるんですけどね。
巻上くんは、ホーメイをやってて、
声は変わりました?
巻上 変わったと思いますよ。
毎日、練習してますからね。
安定した呼吸法をマスターするために
気功もやってます。
声って、人間の全体、
全身を使って出しているわけだから、
体をメンテナンスしないと
いい声は出ないと思ってるんですよ。
糸井 楽器全体ですもんね。
極端にいうと、足の裏までかかわってる。
巻上 立ち方とかね。
それから腹筋も大事です。
鈴木 そうなんです。
腹筋を使った発声ができれば、
肺からの空気を安定して送り出せます。
そうすると、
いちばん耳の感度のいいところに声が集まって、
鮮明に伝わる。
今、こうして話しているときも
腹筋を使っていますが、
もし腹筋を使わないとどうなるか……
ちょっと難しいなあ……
(聞き取りにくい声で)
こういうボソボソ声になってしまいます。
テレビだとテロップが必要になる。
巻上 うん、声出ないですよね。
鈴木 さっき声帯の劣化の話が出ましたが、
年齢と共に
声帯やそれを支える筋肉は老化します。
声帯をコントロールするしている神経もそう。
それが声帯の振動にもあらわれます。
「アー」と声を出したとき、同じ周波数なら、
若いときは波形がほとんど一致するのに、
老化により声帯が劣化すると、
波形も同じパターンじゃなくなるんです。
ただ巻上さんみたいに、
いつも声の訓練をしている人は違いますよ。
40歳になっても40の声じゃない。
もっと若い。
アナウウンサーも、実年齢より
15から20歳くらい違います。
リハビリ可能ですから、
発声練習を朝の5分するだけで、
声は若くなります。
糸井 やったほうがいいですねぇ。
巻上 ホーメイに限らず、
伝統的な歌唱法というのは
合理的なレッスン法が確立してないから、
聞いて覚えるだけ。
すべてお師匠さんのマネをするんですよ。
糸井 少年時代のモノマネが役に立つ。
巻上 声の出し方、しゃべり方などは、
もともとは人の模倣から入っていると
思うんですね。
僕はワークショップで
ホーメイを教えていますが、
過激な声を出してみるとか、
あるいはすごくやわらかい声を出してみるとか、
そういうレッスンもしてます。
習いに来てる人たちを見てて面白いのは、
いろんな声の出し方ができるようになると、
性格も明るくなったりするんですね。
違う声を出すと人格も変わるみたいで。
糸井 そういえば、政治家の秘書とか、
その政治家さんと声の出し方なんか
似てるもんね(笑)。
巻上 いつも聞いている音の要素が
自分の声に出てくる。
先日、アルタイ共和国の喉歌カイの歌手を招いて
一緒にコンサートをやったんですよ。
彼はずーっと
山の奥で暮らしてたそうなんですけど、
自分の声の中には
「山の音」が入っていると言ってましたね。
だから都会に暮らしている人と、
田舎に暮らしている人の声は
違うと思うんですよ。
僕ら、日本、東京に住んでて、
電車や地下鉄の音を毎日聞いてる。
そういった騒音そのものも、
自分の身体に取り込まれていて、
声の表現の中に出てくるんじゃないかな。
鈴木 それはあるでしょうね。
巻上 僕は声の即興パフォーマンスもやるんです。
いろいろな声を出して、
一瞬で別の声に切り替える。
それは、テレビ見てるときの
ザッピング感覚みたいなものが
自分の中にあるから、身体表現できる。
どこかゆっくりしたとこに住んでる人に、
それをやれといっても、難しいかもしれない。
糸井 そうだろうね。
先生は、ご自分の声については
どうですか。
鈴木 私も声、変えたんですよ。
はじめはあまり腹筋を使わない発音でしたけど、
腹筋を使うようにしたり、
口を大きく開くようにしたり。
言葉はコミュニケーションの一つですから、
相手に自分の意思が伝わらなきゃ
どうにもならない。
いかにわかりやすく発声するかというのを、
工夫しながら変えてきました。
糸井 その工夫って……?
鈴木 私は「サ・シ・ス・セ・ソ」の発音を
きれいにしようというのがモットーでして。
「シ」の「sh」というのは、
日本人はわりあいしない発音で、
周波数の高いところで
歯と歯の間を空気が通る摩擦音なんですね。
あと、喉の奥でつくる「カッ」。
そういう、日本人にはしづらい発音を
きれいにすると、
声が清潔感をもってくる。
そんなことを心がけて、
ある程度しゃべれるようになったんです。
糸井 はぁ……僕も練習しよ。
巻上くんなんか、小さい声が上手だよね。
小さくても聞きやすい声の人って、
話しててすごくラク。
余裕を感じるんです。
鈴木 糸井さんも、最初より
ずっと声がよくなりましたよ。(笑)
(おわり)

2002-08-25-SUN

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