第4回
声音は自由自在なり
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糸井 |
今の話みたいに科学的じゃないけど、
僕は福岡でクラブのママに、
「あんたは声で人を惹きつけるようにしてる」
みたいなことを言われたことがある。
「甘え声で女に媚びてる」って(笑)。
その日から、自分の声の認識が変わりましたね。
言われてみてはじめてわかったけど……
明らかにそうなんです。 |
巻上 |
そうなんですか。(笑) |
糸井 |
まあ舌が短いっていうせいもあるんですけどね。
巻上くんは、ホーメイをやってて、
声は変わりました? |
巻上 |
変わったと思いますよ。
毎日、練習してますからね。
安定した呼吸法をマスターするために
気功もやってます。
声って、人間の全体、
全身を使って出しているわけだから、
体をメンテナンスしないと
いい声は出ないと思ってるんですよ。 |
糸井 |
楽器全体ですもんね。
極端にいうと、足の裏までかかわってる。 |
巻上 |
立ち方とかね。
それから腹筋も大事です。 |
鈴木 |
そうなんです。
腹筋を使った発声ができれば、
肺からの空気を安定して送り出せます。
そうすると、
いちばん耳の感度のいいところに声が集まって、
鮮明に伝わる。
今、こうして話しているときも
腹筋を使っていますが、
もし腹筋を使わないとどうなるか……
ちょっと難しいなあ……
(聞き取りにくい声で)
こういうボソボソ声になってしまいます。
テレビだとテロップが必要になる。 |
巻上 |
うん、声出ないですよね。 |
鈴木 |
さっき声帯の劣化の話が出ましたが、
年齢と共に
声帯やそれを支える筋肉は老化します。
声帯をコントロールするしている神経もそう。
それが声帯の振動にもあらわれます。
「アー」と声を出したとき、同じ周波数なら、
若いときは波形がほとんど一致するのに、
老化により声帯が劣化すると、
波形も同じパターンじゃなくなるんです。
ただ巻上さんみたいに、
いつも声の訓練をしている人は違いますよ。
40歳になっても40の声じゃない。
もっと若い。
アナウウンサーも、実年齢より
15から20歳くらい違います。
リハビリ可能ですから、
発声練習を朝の5分するだけで、
声は若くなります。 |
糸井 |
やったほうがいいですねぇ。 |
巻上 |
ホーメイに限らず、
伝統的な歌唱法というのは
合理的なレッスン法が確立してないから、
聞いて覚えるだけ。
すべてお師匠さんのマネをするんですよ。 |
糸井 |
少年時代のモノマネが役に立つ。 |
巻上 |
声の出し方、しゃべり方などは、
もともとは人の模倣から入っていると
思うんですね。
僕はワークショップで
ホーメイを教えていますが、
過激な声を出してみるとか、
あるいはすごくやわらかい声を出してみるとか、
そういうレッスンもしてます。
習いに来てる人たちを見てて面白いのは、
いろんな声の出し方ができるようになると、
性格も明るくなったりするんですね。
違う声を出すと人格も変わるみたいで。 |
糸井 |
そういえば、政治家の秘書とか、
その政治家さんと声の出し方なんか
似てるもんね(笑)。 |
巻上 |
いつも聞いている音の要素が
自分の声に出てくる。
先日、アルタイ共和国の喉歌カイの歌手を招いて
一緒にコンサートをやったんですよ。
彼はずーっと
山の奥で暮らしてたそうなんですけど、
自分の声の中には
「山の音」が入っていると言ってましたね。
だから都会に暮らしている人と、
田舎に暮らしている人の声は
違うと思うんですよ。
僕ら、日本、東京に住んでて、
電車や地下鉄の音を毎日聞いてる。
そういった騒音そのものも、
自分の身体に取り込まれていて、
声の表現の中に出てくるんじゃないかな。 |
鈴木 |
それはあるでしょうね。 |
巻上 |
僕は声の即興パフォーマンスもやるんです。
いろいろな声を出して、
一瞬で別の声に切り替える。
それは、テレビ見てるときの
ザッピング感覚みたいなものが
自分の中にあるから、身体表現できる。
どこかゆっくりしたとこに住んでる人に、
それをやれといっても、難しいかもしれない。 |
糸井 |
そうだろうね。
先生は、ご自分の声については
どうですか。 |
鈴木 |
私も声、変えたんですよ。
はじめはあまり腹筋を使わない発音でしたけど、
腹筋を使うようにしたり、
口を大きく開くようにしたり。
言葉はコミュニケーションの一つですから、
相手に自分の意思が伝わらなきゃ
どうにもならない。
いかにわかりやすく発声するかというのを、
工夫しながら変えてきました。 |
糸井 |
その工夫って……? |
鈴木 |
私は「サ・シ・ス・セ・ソ」の発音を
きれいにしようというのがモットーでして。
「シ」の「sh」というのは、
日本人はわりあいしない発音で、
周波数の高いところで
歯と歯の間を空気が通る摩擦音なんですね。
あと、喉の奥でつくる「カッ」。
そういう、日本人にはしづらい発音を
きれいにすると、
声が清潔感をもってくる。
そんなことを心がけて、
ある程度しゃべれるようになったんです。 |
糸井 |
はぁ……僕も練習しよ。
巻上くんなんか、小さい声が上手だよね。
小さくても聞きやすい声の人って、
話しててすごくラク。
余裕を感じるんです。 |
鈴木 |
糸井さんも、最初より
ずっと声がよくなりましたよ。(笑) |
(おわり)