第1回
山崎まさよしには負ける!? |
松本 |
私、20年くらい前、女子大生だった頃に、
糸井さんに声をかけられたことがあるんです。 |
糸井 |
それ、ほんとに僕ですか? |
松本 |
はい、新幹線の中で。 |
中村 |
ヤバい。(笑) |
松本 |
ゼミ合宿からの帰り、
先生とゼミ生たち4人で座ってたら、
「キミたち大学生なの? いいねえ」
とおっしゃって。 |
糸井 |
ああ、それならありうるな。 |
中村 |
今、ちょっと冷や汗が出ましたね、
「あれか、これか」と。(笑) |
松本 |
「糸井重里さんだ。素敵な方ね」と
みんなで話してたんです。 |
中村 |
声のかけ方に色気があったとか。 |
松本 |
いえ、とても声が大きくて、
車両中の人が振り返って見てました。 |
糸井 |
声がでかいのは
あまり色気のあることじゃないですね(笑)。
今日は「色気」がテーマですけど、
やっぱり「秘すれば花」と言いますか……。 |
中村 |
僕は歌舞伎の女形でしょう。
女形は女性の“実”を写しますが、
男性が演じるがゆえに、
色気というものをすごく強調するんです。
ジーンズ履いた女の子が
あぐらかいてタバコ吸っても、
やっぱりラインは女の子です。
だけどわれわれがバンと後ろ向いちゃえば、
骨格は男ですからね。
それを、後ろを向いた時に
少し反って斜め向きになるとか、
「秘すれば」の部分を
ちょっと出すと言うのかな。
だから、そのまま女形が街に出て行くと、
異様なものがあると思うんですよ。
われわれの色気って、
様式とか形式の上に則って
つくられた色気なんですね。 |
松本 |
歌舞伎の女形の場合は、
芸術としての色気ですよね。
でも、今、「色気」という言葉が
普段に使われる時って、
性的な意味が強すぎるような気がして……。
江戸時代の頃までは、
もっと豊かな意味があったと思うんです。
ものの風情とか趣の気配があるとか。
その中に色恋もあれば、
愛欲も含まれる
という感じだったんじゃないでしょうか。 |
糸井 |
今はセクシーということと、
ほとんど同義に使われていますからね。 |
松本 |
私は色香という言葉のほうが好きですね。 |
中村 |
色香ねぇ、色が香る……。
セクシーだけに結びつけるんじゃなくて、
色が香ってくるような、
というほうが奥ゆかしいですよね。 |
松本 |
それから女の人には、
女であることの自然な色気のほかに、
文化的な色気があると思うんです。
「女はこういうしぐさをして」
「足は開かないで小股で歩いて」とか、
常に「女の子はこうしなさい」と
しつけられているでしょう。
歌舞伎の女形の方は、
それを徹底的に意識して
やっておられるんでしょうね。 |
中村 |
そうですね。
だから恥ずかしい話、
ぱっと靴を脱いでるのを見たら、
靴が内股になってたりして。(笑) |
糸井 |
もう肉体化してるわけだ。 |
中村 |
舞台を引きずってしまってるところが
ありますから。
でも、やっぱり
「つくられた、誇張した色気」ですね。 |
糸井 |
つくられた色気というと、
水商売の人なんか、
どうやって色気を出すかを学んでますから
上手にやりますよね。 |
中村 |
あの方たちもお芝居と一緒だから、
学び方は僕たちと
ある意味、 一緒だと思うんです。 |
糸井 |
でも僕なんか、
色気の表現として
たえず信号を出してくるタイプの女性は、
「うるさいなッ」って……。 |
中村 |
そう、ぷんぷん匂ってくるんじゃなくて、
さっきおっしゃった、秘めたよさですよね。
それは意識してないところで
出てくるものだと思う。
しつけの話が出ましたが、
しつけって子どもの時から
叩き込まれるものだから、
ちょっとした所作に、自然に出てくる。
ヨーロッパじゃ、
お母さまがお嬢さんに
靴の履き方なんかを厳しく教える。
それで、その子が靴をきれいに
ポッと脱いだ時の色っぽさ。
意識のないところに起こる、
清楚な色気と言うのかな。 |
糸井 |
女優さんなんかで
「色気がある」と評されてる人って、
記号的に言われてることが多いですね。
高島礼子さんなんて、
「色気」というジャンルの人みたい。
でも「あの色気は」とみんなが言うのを、
「俺はそれを色気とは感じないけどな」と
いつも思ってたんですよ。
女の人の色気について、
僕はあんまり意識してないなあ。 |
松本 |
奥さまですべて満たされて……。 |
糸井 |
いや、奥さまはね、
家では色気を抜いて生きてるんですよ。
だからうちの家庭は
ホモ・カップルのようであり、
レズのようでもあり。(笑) |
中村 |
うちもどちらかと言うと、
おばさんが二人いるみたいになってる。(笑) |
糸井 |
で、僕は女の人より、
むしろ男に色っぽさを感じるんです。 |
中村 |
ああ、長嶋さんが空振りした時なんか、
「わァ、色っぽい」と思いましたね。 |
糸井 |
僕は、自分が好きな男の人は
みんな色っぽいと思う。
「気持ちのいいやつだな」
というのが好きなんですよ。
男子校出身のせいもあるけど、
女の人と一緒にいると、
ベースに軽―く「退屈」が流れる。
いや、楽しいんですよ。
でも、こっちが真っ裸じゃない。
女の人もそうじゃないかな。
だから、男がいない時の
女の人同士を見てるほうが、
僕は好きです。 |
松本 |
私も、女の人の色気って、
意識しない時に出るものだと思いますね。
役者さんではなくて、
普通の人の場合。
女の人が羽織を羽織る時とか、
すごくきれいだなって。
スーツだったら、
上着を肩からずらす時とか。
ボーっとしてる時でも
色気がある人がいます。
物思いにふけっているような、
ちょっと疲れて窓を見てるような後ろ姿も、
「あ、素敵だな」と。 |
糸井 |
色っぽさを表現してない時ですね。
だから盗み見のほうが色気を感じるんです。
「私はいませんよ」状態で見た時に。 |
中村 |
それが本物なんじゃないですか。 |
松本 |
男性も女性も糸井さんがおっしゃる通り、
過剰なものは疲れるだけ。
私なんか、何を勘違いされたのか、
地方に講演に行くと、
接待でホストクラブに
連れて行かれるんです(笑)。
ぜんぜん嬉しくないんですけど。
男の人の色気って、
もっとさりげないもので、
顔の美醜とも関係ないし、
人柄とか男としての深さに
感じるものですよね。 |
糸井 |
僕、ホストの知り合いがけっこう多いんで、
話を聞くと、
あれは統計学の世界なんですね。
たとえば
「箸を置く時、こう置いたほうが、
相手から見て色っぽい」
とか、やってることが全部説明できる。 |
松本 |
頭いいんですね。 |
糸井 |
売れっ子ホストほど、秀才肌です。
他の商売でもうまくやれるだろうと思う。
「女の子はこうすると、クラッとなる」
とか、ほんとによく考えていて、
僕が女性なら、
「おれ、おまえに入れあげそう」
と思うくらい。
ただ、超売れっ子ホストでも、
「山崎まさよしには負ける」って(笑)。
それに気づいてるお前も偉いッ!
たしかに山崎まさよし、
会ったこともないけど、
「クソーッ、憎らしい」
と思いますもんね。
ボーっと出てきてギターをジャーン。
あれには負けた。
あの無防備さが、なんか色っぽい。
男の僕でも、恋愛じゃないけど、
「おまえのために何かするぜ」
とメロメロになりそうだもの。
本人は意識して
信号出してるわけじゃないだろうにね。 |
松本 |
あ、でも糸井さんは
山崎さんと同じタイプの
色気がありますよ。(笑) |
中村 |
海女さんが
海からバーッと上がってきた時なんかも、
色っぽいじゃないですか。
あれも自然に出てる色気でしょうね。 |
糸井 |
あぁ、生命感が
奧に感じられる色気というのもありますね。
|
松本 |
いや、でも、死体の色気もある。(笑) |
糸井 |
うっ、弱ったもんだ(笑)。
だからこのテーマは難しい。 |
松本 |
色気っていうのは、
「あ、いいな」と人が思う趣味の数だけ、
あるんでしょうね、
異性に対しても、同性に対しても。 |
(つづく)