BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

第1回 山崎まさよしには負ける!?

第2回 福助さんの人生を決めた一幕

第3回 今日から着物を着よう!

第4回
やせがまんに美は宿る
松本 私は以前、女装の方に興味をもって、
小説を書くために、取材して
いろいろ話をうかがいました。
普通のサラリーマンが多いんですが、
女装してる時は、
私よりよほど女らしくて素敵なんです。
でも昼間はスーツ姿で会社に行き、
大学生の息子さんが
二人いるとおっしゃって(笑)。
歌舞伎の役者さんのように
洗練されたものではなく、
もっと素人っぽいんですけど、
あんなに女らしさが
人為的につくれるというのは、
ある意味でショックで……。
それで私は、女っぽさを
自分ではつくらないようにしようと思った。
つくるというのは、男の眼で見て、
「こういうのが女っぽいのに違いない」
と思うわけでしょ。
結局、
「女の女装者」になってしまうんですよ。
糸井 「あの人は色っぽい」
と仲間内で言われてる女の人って、
絶対に浮いてますからね。
「女を表現しよう」と意識した時には
男になってるという、逆説です。
松本 女性の作家で
男が読んでも違和感がない男性を描ける方は、
内面にすごく男性的な意識をもってるし、
男の作家で女性を描くのがうまい方は、
やっぱりとても女性的なものをもっている。
性差ってものがわからなくなりますね。
中村 性差がないのは、
われわれの商売が一番でしょう。
十月は四つの芝居に出させていただいて、
立ち役もあるんです。
でも、立ち役をやると照れますね。
「この自分は何だろう」と思って。
糸井 仮に僕がお芝居に出て、
コピーライターの糸井重里という役を
してくださいと言われたら、やれないですよ。
中村 恥ずかしいですよね。
僕も素顔に近い役はダメなんですよ。
松本 いや、私はね、普通の人も場所に応じて、
いろいろな自分を
演じてるんじゃないかと思います。
会社の部長さんだと、
部長さんらしい演技をし、
うちに帰ってお子さんの前では
お父さんの演技をし、
可愛い女性の部下の前では
いい中年男のふりをして。
中村 それが、今の若い人は、
そういう演じ分けをしなくても
よくなってきてますね。
松本 そうなんです。
だから、ちょっと陰影がないような気がして。
やっぱり光と陰と両方ないと。
糸井 いつもカジュアルを着ていると、
確かに楽ではあるけれど、
「これは面白いことじゃないな」とも思うね。
松本 そればかりだと、
痩せていくものがあると思うんですよ、
魅力とか風情とか。
中村 僕はおばさんのゴルフって
すごく好きなんですよ。
なぜかと言うと、
普段、町中じゃ歩けないような
短いスカート履いたり、
かわいいキャピキャピのウエア着て
楽しそうじゃないですか。
着飾る、ドレスアップする場所をつくると、
自分の気持ちにもメリハリができますね。
松本 私は一時期、関西に住んでいたんですが、
あちらは女の人の文化を
優しく見守る風土がありますね。
街を歩いていると、
「ああ、素敵だなあ」と思う
70代くらいの女性をよく見かけました。
糸井 関西には
いいオバちゃんがいっぱいいますよぉ(笑)。
オバちゃん水準の高いところは
文化の高いところです。
関西でもとくに京都、神戸あたり。
松本 あと大阪・北摂の豊中、箕面とか。
糸井 北海道じゃ札幌。
身ぎれいなんですよね。
中村 やっぱり、見られているという意識が
あるんじゃないでしょうか。
糸井 そうなんです。
お出かけ用に
意識をレベルアップさせてる感じがあって。
男でも、そういうこと考える人は、
乱暴にふるまっててもきれいですね。
松本 何気ないところにね。
さっき、糸井さんが箸を持っていたしぐさが
とても色っぽかったんです。
指の感じが
なんて素敵でいらっしゃるんだろうって。
糸井 また箸、持ちましょうか。
中村 ホストの人に教わったやり方ですか。(笑)
松本 私は女の人がちょっと無理してるところも
色っぽいと思うんです。
糸井 あ、それだ。
ちょっと無理してる、うんうん。
すごくよく働いてる可愛い店員は、
絶対に人気ありますよね。
松本 装いでも、ハイヒールに
ぴっちりしたストッキングをはいて、
スカートもベルトで
ウエストをきっちり締めて。
中村 帯やコルセットもそうですね。
松本 拘束の美学ってあると思うんです。
着物も拘束服だし、
男の方の礼服の太いサッシュベルトや
蝶ネクタイも。
それを脱いで、
緊張感からホッと解き放たれた瞬間の色気も
またあるんですけどね。
糸井 思い出した。
僕は「生きものだな」と思った瞬間に、
色気を感じるな。
汗とかね。
それも汗かくために走ってる時の汗は
当たり前だけど、
ちょっと温度が上がって
「汗かいちゃった」てフッと気づく……。
女子高生とか、まだお化粧してない子が
制服姿で色白のほっぺたを赤くして
走ってるところも好きなんだよね。
生き物として愛しい。
中村 おばあちゃんが小っちゃい子に、
お手玉とか綾取りを教えている姿も、
色っぽくて可愛い。
松本 動物的な色気の話になりますが、
フェロモンてありますね。
フェロモンが色気なんですよ、
と言う人もいますが。
糸井 アメリカでは、第一印象で結婚したカップルは
ほとんど別れないという統計が
あるそうですよ。
第一印象には動物的な直感もあるでしょうね。
松本 嗅覚ってありますよね。
生き物は、
異性をひきつけ合う匂いを出している。
人間はその機能が
ほとんど退化してるから気づかないだけで、
本当はそういう匂いを嗅ぎ合ってる……。
動物的直感とかインスピレーションは、
色気を感じる要素の中に入ってますね。
中村 手前味噌ですが、
今、芝居でご一緒してる市川新之助くん、
僕よりもずいぶん下なんだけど、
一緒にお芝居してるとドキドキするんです。
客席に出ていくとお客さまが
「ハアー」って一瞬息を呑んでから手を叩く。
圧倒的なきれいさです。
松本 役者さんですと、
よくオーラが出てると言いますよね。
中村 舞台に限らず、
人は一番好きなことをやってる時は
オーラを出して、
それも色気につながるんじゃないでしょうか。
松本さんが原稿を書いていて、
ガッと鬼のような顔をして
机に向かっていたって、
後ろ姿にはオーラが出てるかもしれない。
糸井 得意なことをしてる時、
と言い換えてもいいですね。
近所の親父だって、
得意なことしてる時はオーラ出てますよ。
金槌打ちながら、
釘を口にこう、しゃぶってる時(笑)。
電球換えるだけで、
オーラ出してるおじさんも
いるかもしれないし。
舞台の観客で出してる人だって、いるでしょ。
松本 歌舞伎で「成駒屋!」と声をかけてる方、
きっと出してますね。(笑)
中村 結局、色気って、
見るほうが感じればいいものじゃないですか。
そして、感じたら
口に出してほめてあげることも
大事だと思うんです。
松本 わかってくれる人が絶対に必要ですね。
ご主人が奥さまに
「今日のキミは素敵だよ」とか。
糸井 僕は絶えず言ってますよ(笑)。
僕の理想は、
毎日人のことホメてる人生ですから。
(おわり)

2003-05-11-SUN

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