掃除名人のヒミツ
第1回
嫌いこそ工夫の母なり? |
糸井 |
掃除や整理、片づけることって、
「いつか、やらなきゃいけない」
と思ってるんだけど、なかなかできない。
これ、英会話に似てますね。
それに僕を含めて男は、
家の中では「やらねば」という
義務感を持った人、先に気づいた人――
たいていの場合はカミさんがやってしまうんで、
しなくてすんでたりして。図々しい話ですが。
辰巳さんは、著書『「捨てる!」技術』で、
「捨てることを肯定しよう」と提案しています。
いわく、「“とりあえず取っておく”は禁句」
「“いつか使うかも”の“いつか”なんてこない」
「“捨てる基準”を決めよう」……。 |
辰巳 |
はい。 |
西川 |
私なんか、渚さんから見れば、
ゴミの中に座ってるようなものですよ。 |
糸井 |
えっ、掃除のプロなのに? |
西川 |
お掃除そのものは、いろんな新兵器があるから、
アッという間にできちゃうの。
だけど整理整頓はなかなかねぇ。
山のように本は積み上げてあるし、
捨ててしまったあとで、
「しまった」と思うことがいっぱいあるから、
なかなか捨てられないんです。
渚さんは、それがおありにならない? |
辰巳 |
いえ、もちろんあります。
仕事の資料で使った本なんか、
いらないと思って捨てても、
その後、「あそこにあの数字が載ってた」とか、
しょっちゅうです。 |
西川 |
あら、そうなんですか。 |
糸井 |
僕も整理はダメで、
現状がどのくらいひどいかと言うと、
何があるか、何を持っているか、知らないんです。
その日一日何をするか、それだけは知ってる。
まるで犬の散歩のように生きてるわけですね(笑)。
で、あとは忘れる。
何かを蓄積してる実感があると、
あとで整理しなきゃと思いますよね。
それがもう、怖い。 |
辰巳 |
よーくわかります。私もそのようなものです。 |
糸井 |
「私もそう」なんですか。 |
辰巳 |
書いた本のせいで、
私が非常に整理整頓が上手で、
モノに対する未練もまったくなく、
どんどん捨てて、
ほしいものがあれば「また買えばいいわ」
と考える人間に思われてるみたいですけど、
実はまったく逆なんです。 |
糸井 |
あらま、そうなんだ。 |
辰巳 |
自分で整理できるキャパシティが
とても少ないので、
モノを減らす方向で考えてたんですね。
いらないモノがなければ、
たとえ整理出来なくても、
何とかモノと上手につき合っていけるかな
と考えたんです。
本質は、母が作ってくれた洋服とか、
食費を惜しんで買った本などが
愛しくてしょうがない性質で、
20代の頃までは、全部ため込んでいました。
だけど、そこに安住してると、
なかなか自分らしい生活を築いていけない
という反省もあって、
思い切って捨てることを決意したんです。 |
糸井 |
ある種の危機感から、
そういう発想に至ったんですね。 |
辰巳 |
私、フリーですから家で仕事してますでしょう。
あるはずの資料がどこにあるかわからなくて、
困ることがあったんですよ。
それに主婦でもあり、
2歳の子どももいますから、
家の中を心地よくしたい気持ちもありました。
モノがいっぱいだと、うまく掃除もできませんし。
加えて、マーケッターという仕事柄、
モノを売る側の本音、買う側の本音を知るほどに、
このままモノにふりまわされていいのかという
思いもあります。
いろんな危機意識があったんですね。 |
糸井 |
要するに、モノや情報が多すぎると、
とっちらかっちゃって、どうしていいか
わからなくなるタイプだったんですね。
西川さんもさっき、
そんなことをおっしゃってましたが。 |
西川 |
ええ、整理整頓はぜんぜんできないし、
掃除も嫌い。 |
辰巳 |
わぁ、安心したあ。(笑) |
西川 |
私、家事の中で、食べることに関してするのは、
とても好きなんですね。
だけど主人はいわゆるグルメじゃなくて、
むしろ身辺をきれいにしておくことにこだわる人。
それで結婚した時から、やれ部屋が汚いとか、
もっときれいにしろとか、もう怒られっぱなし。 |
糸井 |
はあ、言ってみたいもんだ。(笑) |
西川 |
それで、家はきれいにしなくちゃ
いけないんだなぁって。
普通の主婦が
そう思ってただけのことなんですけどね。
それが40何年前、創刊したばかりの
『家庭画報』の編集者と知り合って、
何か新しい記事を作りたいから手伝ってくれ
と言われまして。
日本とドイツの婦人誌を丹念に調べてみましたら、
ドイツの婦人誌には掃除のことが
ものすごくたくさん載ってる。
私自身も知りたかったものだから、
「毎月ひとつずつ、
お掃除のことを紹介しましょう」
とやってるうちに、
それが専門になっちゃったんですよ。 |
糸井 |
じゃあ主婦の自然な知恵というより、
知識としてスタートしたんですね。 |
西川 |
まあ、ゴミの中からスタートしたわけです。(笑) |
糸井 |
で、始めてみたら、掃除が面白くなりましたか? |
西川 |
面白いはずはないですよ。(笑) |
糸井 |
そうか、「掃除法を知ること」が面白かったんだ。 |
西川 |
私、大学の専攻が生物化学だったので、
界面活性剤を上手に使い分けると、
非常にお掃除が簡単にできることを発見したり、
掃除用具の原理を分析したりするのが楽しくて。
そんなことから、のめり込んでいったんです。 |
糸井 |
最近は掃除用具も進化して、
いろいろなものが出ていますね。
そういうのは全部、試してみるんですか。 |
西川 |
もちろん。
原稿を書く時、最高・最新のものをご紹介する
というのが、私のキャッチフレーズですから。 |
辰巳 |
いちばんおすすめの最新兵器は? |
西川 |
蒸気を高圧でシューッと噴射して
汚れを落とす道具。
スチームガンみたいなものですね。
ひどい油汚れでも、住まいの洗剤を吹きつけて、
このスチームガンを噴射すると、
たちまちきれいになります。
通販でも売ってますよ。
それも9800円のじゃなく、
1万9800円のを買わなくちゃダメです。 |
糸井 |
ちょっとお得な情報。(笑) |
西川 |
お風呂場やトイレの掃除にもいいですよ。 |
糸井 |
タイルなんか、きれいになりそうだ。
浴槽の風呂アカも落ちるんですか。 |
西川 |
材質にもよりますけど、まあ大丈夫ですね。
これだと、1年に2回くらい使うだけで
いいんですよ。 |
糸井 |
でも多分ホーローはダメですよね。 |
西川 |
原則は大丈夫ですが、
安いホーローで古くなったのはダメなんです。 |
糸井 |
うち、ホーローなのよ。 |
辰巳 |
糸井さん、なんか熱心で……。 |
糸井 |
風呂場担当は僕なの。
風呂に関しては力仕事なんで、
朝方の5時くらいに時々やってるんです。
ちょっとしたレクリエーションですね。
気まぐれにやるから、
あまりありがたがられないですけど。 |
辰巳 |
お風呂場だけはやるっていう男性、
わりと多いですよね。 |
|
(つづく) |