BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

第1回 嫌いこそ工夫の母なり?

第2回 捨てる人、捨てない人

第3回 「あとで」じゃなく「今」やる

第4回
大切なものの順序
糸井 ところで西川家の大掃除というのは、
どうなってるんですか?
西川 年末は忙しいから、大掃除はしません。
糸井 やったぁ!(笑)
西川 気候のいい時に、物置にある
いらないものをまず捨てて、
それから居間にあるものを
物置に持っていって……。
物置って、絶対にいらないものばかり
入ってますね。
糸井 そうか。物置ってゴミ箱なんだ。
西川 一時的にあそこに入れて気休めして、
それからようやく捨てる。
いらないものの休み場所だから、
それはそれで必要なんですけれど。
昔は資料として集めた掃除道具が
いっぱい入ってましたが、
もう、「洗濯と掃除の博物館」に
もらっていただきました。
糸井 どんなものがあったんですか。
西川 珍しいものだと、終戦直後の東欧の雑巾とか。
うんと貧しい時代なのに、
雑巾にはすごくお金をかけてるんですよ。
糸井 へえ、資料として見たいですね。
西川 日本人は「衣・食・住」と言いますけど、
ヨーロッパでは「住・食・衣」の
生活なんですね。
まず「住」が先に来る。
あちらの人が家をきれいにするのは、
人を招くということもあるのでしょう。
パーティしますから。
辰巳 日本でも最近はホームパーティしたり、
若い人がインテリアに興味をもったり、
少しずつ変わりつつありますね。
西川 でも、私がお掃除の仕事を始めた昭和30年代、
日本の台所の汚いことと言ったらなかったですよ。
糸井 昔は、家を守る人がいつもきれいにしてた
という幻想がありますが。
西川 きれいにしてたのは、お蔵や物置があったりして、
居住空間に何も置かなくてすむような家だけです。
辰巳 庶民のうちは汚かった?
西川 モノは何でも出しっぱなし。
それに道は舗装なんてしてませんから、
泥汚れが服について家に入ってくる。
風が吹いても、泥や埃が舞い込んでくる。
糸井 昔はよかった、なんていう話じゃないんですね。
西川 女中さんのいるうちは、
朝晩、拭き掃除が日課でした。
それができない家は汚かったんです。
ガス台のホースなんてね、油汚れでベッタベタ。
それが危険だというので、
当時、東京ガスがホースに年号を入れて、
2年か3年ごとに
取り替えさせるようにしたんです。
糸井 それにしても、僕ら、
何のためにきれいにしなくちゃと思うんですかね。
西川 衛生的ということもありますけど、
やっぱり
「ちゃんとしてなくちゃ恥ずかしい」
からじゃないですか。
糸井 人を招ぶということもあるし。
西川 いえ、招ぶ招ばないにかかわらず。
自分を律すると言いますか。
辰巳 それは私、思ったこともなかった。
ただ、確かに夫が一週間いない時といる時では、
家の中の片づき方は明らかに違います。
糸井 辰巳さん自身が、
「これだけは捨てないぞ」
というものはありますか。
辰巳 「夫は捨てられない」と、
よく冗談で言うんですが(笑)。
私も西川さんと同じで園芸が趣味なので、
その関係の本は捨てられません。
西川 あれ、時々見なきゃいけませんものね。
辰巳 手入れのしかたとか冬越えとか、ね。
あと、集めているというのでは、
食器、それから江戸小物。
小さなもので、
季節ごとに取り替えて玄関に飾ったりしてます。
糸井 『「捨てる!」技術』の中には、
そういうものは入らないわけですね。
辰巳 「捨てたくないから捨てない」のであって、
「捨てたいけど捨てられない」モノとは、
ぜんぜん違いますから。
糸井 西川さんは、集めているものは?
西川 鉱物を集めるのが趣味なんですよ。
糸井 えっ、石?
西川 ダイヤモンドやルビーの原石とか。
風雨にさらしてもかまわないので、
外にほっぽらかしてあります。
それからガイガーカウンター(放射能測定装置)も
持ってるんですね。
辰巳 変わったものを。(笑)
西川 ウラニウムもニューヨークで
12ドルで買ってきました。
まだ1ドル360円の時代で、
主人が「とうとう頭に来やがった」
って言いました。
糸井 ぷっ。
西川 あのね、汚れがたまっているところに
放射能もたまるんですよ。
それで汚い家に行って
ガイガーカウンターでチェックすると、
ピッピッピッて鳴るの(笑)。
日本橋の昔の白木屋の前から
八重洲に行く地下があるでしょ。
あそこはものすごい放射能がたまってますよ。
糸井 持ち歩いてるんですか!
西川 顕微鏡も3台持ってます。
辰巳 そういう方だったんですね。(笑)
西川 科学的なことが好きなのね。
だから、お掃除も
料亭やホテルと修業に行ったけど、
車の掃除も習いに行ったんですよ。
外車のディーラーに行ったら、
バッテリーを拭いた布で
他のところを決して拭いちゃいけないとか、
いろいろあって。
バッテリーは酸性ですから。
それで「これは大変!」というので、
もっと車の掃除を知るためには
自分も乗れなきゃと、免許を取りに行って……。
糸井 掃除のために免許、ですか。
西川 じゃあ、飛行機はどうだろうって、
飛行機の掃除にも行きました。
最初は日本航空、それから全日空。
糸井 はーあ。
そうやっていろいろなところを掃除してみて、
いちばん大変なのはどこでしたか。
西川 やっぱり、普通の家庭ですね。
辰巳 読者の方の反応を見ていると、
片づけることって、男性は自然に
仕事の話にひきつけてしまって、
暮らしのことだと思ってないんですよ。
それで「捨てるとは何ごとだ!」
とか言われるんですね。
糸井 「捨てる」とか「整理する」ということを通して、
自分にとって何が大事かっていう順番を
今までつけたことがなかった人たちに、
順番をつけようぜという時期が、
今、来てるんですかね。
辰巳 そうだと思います。
糸井 僕はよく若い人から、
「何々になりたいんですけど」という
相談を受けるんです。
だけどみんな、「何にでもなりたい」。
それで僕は、一番なりたいもの、
したいことを順番に書いてごらんよと言うんです。
毎日変わるのならそれを記録していけば、
そのうち残るものがある。
それで考えるしかないんじゃないのって。
辰巳 削ぎ落としていく中で、
どうしてもはみ出してしまう自分
というのがあって、それがきっと個性で、
モノに関しても同じじゃないでしょうか。
さっきのお話で言えば、
「西川さん、ガイガーカウンターや
 顕微鏡が好きな方だったんだ」
という面白さがあるわけで、
それは無自覚にモノを持っていると、
見えてこないですよね。
糸井 まったくそうですね。
じゃあ最後に、西川さんに
掃除の基本を聞いておきましょう。
西川 料亭にお掃除を習いに行った時、
おかみさんが言うのは、
きれいな雑巾でお掃除することだと言うんですね。
掃除道具は清潔でなければ、きれいにならない。
汚いと、こっちのヨゴレをあっちに移すだけ。
靴磨き修業をした時にも……。
糸井 靴磨きも行きましたか。(笑)
西川 あれ、道路交通法で許可がいるの。
それで丸の内警察署で、
正規の許可を持つ親方を紹介してもらってね。
靴磨きしてると、そのスジの人が
「見慣れない女だねぇ」、
そしたら親方が
「サツからのあずかりもんでサァ」って(笑)。
その親方も、一度使った布は
必ずうちに持って帰って、洗って、きれいにして、
そして次の日に使うんですって。
きれいなものでお掃除しなかったら
何にもならない。
掃除道具も科学の進歩によって、
ずいぶん変わりましたけど、基本はそれですね。
  (おわり)

2004-03-12-FRI

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