掃除名人のヒミツ
第3回
「あとで」じゃなく「今」やる |
糸井 |
捨てるという意味で、僕が唯一、
人より進んでると自慢できるのは、
お歳暮、お中元、年賀状、全部やめたこと。
で、普段、会う人を循環させていく。
つまり、直に会う。
長く生きてると、知ってるような
知らないような人とのつき合いなんかあって、
わけわかんなくなってくるでしょう。
それで年賀状だけのつき合いはもうよそう
と思って。
早い話が、
「年賀状なんか、おまえ、出しっこないよな」
とわかってるやつと、
実際には仲良くつき合ってるわけでね。 |
辰巳 |
私もやめたんですよ。 |
糸井 |
あれ、勇気がいりますよね。 |
辰巳 |
私みたいな人間でも覚悟がいりました。
でもやってみると、
それで壊れた人間関係はありませんでした。
かえって年賀状書いたり、
お歳暮の品を考える必要がなくなって、
暮れをゆったり過ごせていい。
うちの夫は絵かきなんですけど、
絵を買ってくださった方には、
1枚1枚、墨で絵を描き、年賀状にしています。
それはそれでいいなと思うんですよ。
ただ私の場合は年賀状程度のつき合いの人とは、
必要な時、手紙のやり取りとか、電話でも、
会うでもすればいいと思ってますので。 |
糸井 |
そういうところ、意見が一致してるのに、
どうして俺んちだけ汚いのかなあ。
俺んちというより、「俺」だな(笑)。
片づけとか整理はいつするんですか? |
辰巳 |
私はものぐさだし、整理は苦手だし……
だから、“今”、やるんです。 |
糸井 |
ああ、そうくるのか。 |
辰巳 |
目についた時にする。大掃除しないんですよ。
大掃除って、
あまりに気持ちの負担が大きいでしょ。
だから嫌いです。
うちは日本家屋で、畳と板の間があって、
カーテンはなく、障子と襖だけ。
そんなに埃も立たないので、
掃除機は月に1度くらいしかかけません。
基本は拭き掃除と掃き掃除。
子どもが牛乳をこぼしたら拭く、
髪の毛が落ちているのを見たら掃くとか。
ダイレクトメールも目を通したら、
そのままゴミ箱に捨てる。
その場でやらないと、あとで絶対にやらないし、
ため込む一方になるので、
いつと言えば、常にやってますね。 |
西川 |
私も常にやってますけど、汚い。 |
辰巳 |
うちはたしかによそのお宅よりは
モノは少ないと思うんですけど、
まったくないわけではないし、
子どももいるから、散らかりますよ。
でも、いらないものはあまりない。
散らかるのは、生活している以上、
しょうがないと思っています。
いらないモノがゴチャゴチャあって
ゴミがいっぱいというのはNGだけど、
必要なモノが散らかって雑然としているのは
よしとするという。
その場合の「よし」の基準は、
普通の人よりもゆるいかもしれません。 |
西川 |
ドイツなんかね、
掃除は午前中にするんですよね。
上の階から朝の間はカタカタ、カタカタ、
足音がいっぱいするんです。
それがお昼になるとピタリと止まって、
アフタヌーンの装いに着替える。 |
糸井 |
リズムがあるんだ。 |
西川 |
そうそう、欧米では、
月曜日が洗濯日で火曜日がアイロンかけ、
掃除は水曜日ってリズムがあります。 |
糸井 |
「♪げつよ〜びに」てやつかなあ? |
西川 |
木曜日がPTAとか子どもの関係、
金曜日がパーティで土曜がまた掃除、
日曜が教会っていう、
昔からあったらしいスケジュールが
今も生きてるの。
アメリカじゃ、絨毯クリーナーのレンタルは
水曜と土曜が高いし、
コインランドリーは月曜に混みます。 |
糸井 |
「今日はかあさんが洗濯してるから月曜か」
とかわかるんですかね。 |
西川 |
ええ、月曜にうちに帰ると
漂白剤の匂いがするのが懐かしいとかね、
わりに若い人でも言う人がいますね。 |
糸井 |
辰巳さんの本で、
「思い出や記念の品を“聖域”にして
捨てずにいるのをやめよう」
というのがありましたね。 |
辰巳 |
読者の声でも、捨てられないモノで
ダントツで多いのが、思い出の品でした。
でも私の中には、どこかにあきらめがあるんです。
たとえばうちの父は
私が11歳の時に亡くなりました。
どんなに父の思い出の品
―――父の筆跡があるもの、
父の本などがあっても、本人は帰ってこないし、
私が覚えている父の記憶はだんだん薄れていく。
モノは心の中の思いの代わりにはなりません。
だから、モノはいらないと。 |
糸井 |
それは賛成だなあ。写真はどうでしょうね。 |
辰巳 |
みなさん、執着しますね。 |
西川 |
私の友達の話では、
姑さんが亡くなって、いろいろ整理する時、
一番処分に困るのが写真ですって。 |
糸井 |
あれ、困るんですね。
僕は昔の写真はないですよ。
なぜかと言うと、学生運動やってた18歳の時、
下宿に警察のガサ入れがあるから、
手紙や写真なんか持ってると
友達にまで調べがいく、焼け、
と先輩に言われて、全部焼きました。
そしたら、焼いたのは僕だけだった。
その時に僕の青春は消えたんです(笑)。
でもそれをやったら、
あとはそんなものいらない。
それに僕、写真嫌いだもん。 |
辰巳 |
かえって、サッパリしたと。 |
|
(つづく) |