BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

第1回 嫌いこそ工夫の母なり?

第2回 捨てる人、捨てない人

掃除名人のヒミツ
第3回
「あとで」じゃなく「今」やる
糸井 捨てるという意味で、僕が唯一、
人より進んでると自慢できるのは、
お歳暮、お中元、年賀状、全部やめたこと。
で、普段、会う人を循環させていく。
つまり、直に会う。
長く生きてると、知ってるような
知らないような人とのつき合いなんかあって、
わけわかんなくなってくるでしょう。
それで年賀状だけのつき合いはもうよそう
と思って。
早い話が、
「年賀状なんか、おまえ、出しっこないよな」
とわかってるやつと、
実際には仲良くつき合ってるわけでね。
辰巳 私もやめたんですよ。
糸井 あれ、勇気がいりますよね。
辰巳 私みたいな人間でも覚悟がいりました。
でもやってみると、
それで壊れた人間関係はありませんでした。
かえって年賀状書いたり、
お歳暮の品を考える必要がなくなって、
暮れをゆったり過ごせていい。
うちの夫は絵かきなんですけど、
絵を買ってくださった方には、
1枚1枚、墨で絵を描き、年賀状にしています。
それはそれでいいなと思うんですよ。
ただ私の場合は年賀状程度のつき合いの人とは、
必要な時、手紙のやり取りとか、電話でも、
会うでもすればいいと思ってますので。
糸井 そういうところ、意見が一致してるのに、
どうして俺んちだけ汚いのかなあ。
俺んちというより、「俺」だな(笑)。
片づけとか整理はいつするんですか?
辰巳 私はものぐさだし、整理は苦手だし……
だから、“今”、やるんです。
糸井 ああ、そうくるのか。
辰巳 目についた時にする。大掃除しないんですよ。
大掃除って、
あまりに気持ちの負担が大きいでしょ。
だから嫌いです。
うちは日本家屋で、畳と板の間があって、
カーテンはなく、障子と襖だけ。
そんなに埃も立たないので、
掃除機は月に1度くらいしかかけません。
基本は拭き掃除と掃き掃除。
子どもが牛乳をこぼしたら拭く、
髪の毛が落ちているのを見たら掃くとか。
ダイレクトメールも目を通したら、
そのままゴミ箱に捨てる。
その場でやらないと、あとで絶対にやらないし、
ため込む一方になるので、
いつと言えば、常にやってますね。
西川 私も常にやってますけど、汚い。
辰巳 うちはたしかによそのお宅よりは
モノは少ないと思うんですけど、
まったくないわけではないし、
子どももいるから、散らかりますよ。
でも、いらないものはあまりない。
散らかるのは、生活している以上、
しょうがないと思っています。
いらないモノがゴチャゴチャあって
ゴミがいっぱいというのはNGだけど、
必要なモノが散らかって雑然としているのは
よしとするという。
その場合の「よし」の基準は、
普通の人よりもゆるいかもしれません。
西川 ドイツなんかね、
掃除は午前中にするんですよね。
上の階から朝の間はカタカタ、カタカタ、
足音がいっぱいするんです。
それがお昼になるとピタリと止まって、
アフタヌーンの装いに着替える。
糸井 リズムがあるんだ。
西川 そうそう、欧米では、
月曜日が洗濯日で火曜日がアイロンかけ、
掃除は水曜日ってリズムがあります。
糸井 「♪げつよ〜びに」てやつかなあ?
西川 木曜日がPTAとか子どもの関係、
金曜日がパーティで土曜がまた掃除、
日曜が教会っていう、
昔からあったらしいスケジュールが
今も生きてるの。
アメリカじゃ、絨毯クリーナーのレンタルは
水曜と土曜が高いし、
コインランドリーは月曜に混みます。
糸井 「今日はかあさんが洗濯してるから月曜か」
とかわかるんですかね。
西川 ええ、月曜にうちに帰ると
漂白剤の匂いがするのが懐かしいとかね、
わりに若い人でも言う人がいますね。
糸井 辰巳さんの本で、
「思い出や記念の品を“聖域”にして
捨てずにいるのをやめよう」
というのがありましたね。
辰巳 読者の声でも、捨てられないモノで
ダントツで多いのが、思い出の品でした。
でも私の中には、どこかにあきらめがあるんです。
たとえばうちの父は
私が11歳の時に亡くなりました。
どんなに父の思い出の品
―――父の筆跡があるもの、
父の本などがあっても、本人は帰ってこないし、
私が覚えている父の記憶はだんだん薄れていく。
モノは心の中の思いの代わりにはなりません。
だから、モノはいらないと。
糸井 それは賛成だなあ。写真はどうでしょうね。
辰巳 みなさん、執着しますね。
西川 私の友達の話では、
姑さんが亡くなって、いろいろ整理する時、
一番処分に困るのが写真ですって。
糸井 あれ、困るんですね。
僕は昔の写真はないですよ。
なぜかと言うと、学生運動やってた18歳の時、
下宿に警察のガサ入れがあるから、
手紙や写真なんか持ってると
友達にまで調べがいく、焼け、
と先輩に言われて、全部焼きました。
そしたら、焼いたのは僕だけだった。
その時に僕の青春は消えたんです(笑)。
でもそれをやったら、
あとはそんなものいらない。
それに僕、写真嫌いだもん。
辰巳 かえって、サッパリしたと。
  (つづく)

第4回 大切なものの順序

2004-03-10-WED

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