BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

第1回 もう珍しい存在ではありません

第2回 私の中の一人っ子成分

一人っ子が時代をリードする!?
第3回
男同士だって仲良くしたい!?
糸井 山口さん、本当のきょうだいが
ほしいと思ったことは?
山口 きょうだいが三、四人いて、
その真ん中あたりなら気楽だったろうなと
思ったことはありますね。
そうそう、僕は一人っ子で、
“親子三人”ではありますが、
十歳までは大家族の中で育ったんですよ。
おじいさん、おばあさん、それから
父のすぐ上の兄夫婦、僕ら親子三人、
嫁に行く前の叔母さん、
それから一番下の叔父一家三人が住んでて、
じいや、ばあやと言われてる
遠縁だと称されてた人たちがいて……十三人か。
糸井 十三人!
山口 その他に、早くお嫁に行った
叔母さん一家もしょっちゅう来てた。
今でも父方のいとこ七人とは
連絡をとり合っています。
詫摩 疑似きょうだいですね。
山口 生まれた頃は大家族の中に子どもは僕一人。
離乳食になると、「面白い、面白い、
何でも食べる」と、家中の大人が
かわりばんこに僕に食べさせたそうです。
でも誰も他の人がどれくらい食べさせたか
わからないから、しばらくたって
ものすごい下痢をして、
それまで子ブタちゃんみたいだったのが、
それ以来、太れない(笑)。
そんな具合で、一人っ子といっても、
ちょっと特殊かもしれません。
糸井 うちの子どもを見てると、
きょうだいの多い人に憧れてるところは
ありますね。きょうだいのいる友達の家に
泊まりに行ったりするの、
小っちゃい時からすごく好きだったもの。
で、「お兄ちゃんにイジメられた〜」とか
言うの。あれ、嬉しいんでしょうね。
二段ベッドにも憧れてたし。僕も小さい頃、
そうだった。先生はきょうだいがいることを、
ご自分ではどう感じてますか?
詫摩 自分と歳の違う弟たちや妹がいて、
いつも一緒くたになってましたが、
大人になってみると、共通の話題が
たくさんありますし、
よく気心がわかるということはありますね。
ただ、きょうだいとして
一つの単位になるのは――つまり喧嘩したり、
一緒に一つのものを作ったりするのは
年齢差が五歳くらいまでの場合。
五歳の開きを超えると、
たとえば小学校一年生と中学校一年生が
一緒に手をつないで学校に行くなんてことも
ないですし。
糸井 僕も妹と十歳違うから、
一人っ子が二人いる感じでした。
妹の面倒を見るのは好きで、
積木を使ってひらがなを教えたのも僕だけど、
子守というか、親みたいなことを
してたんですよね。
つまり、それほど距離があったということです。
山口 喧嘩にはならないんですね。
糸井 絶対にならないです。
じゃあ、よく「兄的性格」とか
「妹的性格」なんて言いますが、
そういう分類は……。
詫摩 「妹」と言っても、上のきょうだいが男か女か、
何歳違うかでも違ってきます。
私が心理学者というので、
「自分にはきょうだいがいるけど、
それが兄か姉か、弟か妹かわかるか」と、
よく聞かれます。
でも、わかるはずがないんでね。
糸井 じゃあ、山口さんや僕と事前情報もなく
お会いになって、「あ、この人は一人っ子だ」
とわかるなんてことは?
詫摩 ないですね(笑)。
私たちのものの考え方や、それぞれの人の性格が
どういうふうに作られたか……。
たとえば、あの人はなぜ神経質で、
こちらの人は呑気なんだろうと考えた時、
それにかかわる要素は無限にあるんですよ。
糸井 たしかにそうです。
詫摩 きょうだいがなくて一人っ子だというのは、
性格発達に関する多数ある要素の中の
たった一つにしかすぎない。
先にも紹介した心理学者のホールは、
一人っ子はわがままで
相手のことを理解しないなどの
悪い特徴をもっていると言いましたが、
人の性格を、一人っ子であるという
一つの要素だけで説明しようとするのは、
実はたいへん難しいことです。
まあ、環境の結果として、
一人っ子は親との会話が多くなりますから、
知識の量は増えるでしょうが。
糸井 マセやすいと言いますね。
だからと言って、成熟が早いわけじゃない。
詫摩 それから戦前の日本が貧しい時代ですと、
子どもに大学教育を受けさせるのは
大変なことですが、
一人っ子ならそれができるというので、
ハイレベルの教育を受けた人が
多かったんじゃないか。
そういうことは言えるかもしれません。
山口 きょうだいの話にもどると、
僕の友達はみんなきょうだいがいるんですね。
それで思ったのは、
すごく仲がいいきょうだいと、
「あいつには十年会っていない。
どこでどうしているかも知らない」という
パターンと、極端に分かれる気がして。
詫摩 そうですね。
親の法事の時しか会わないきょうだいがいたり、
何かといえばしょっちゅう訪問し合う
きょうだいもいる。
二人きょうだいだけを取り上げてみると、
組み合わせのパターンは四つあります。
二人とも男、二人とも女、姉と弟、兄と妹。
それぞれどんな特徴があるかと言うと、
男二人というのはぶつかり合う。
姉と弟はわりと無関心なんですね。
それから兄と妹は、兄が支配者で
妹がそれに従う傾向。そして女二人の場合は
とっても仲がいいんですね。
糸井 あぁ、そんな気がする。
詫摩 どこかに行ってお土産を買ってくるとか、
親に言えない秘密を打ち明けるとか。
女性は男性より「親和欲求」が強いんですよ。
つまり誰とでも親しくなりたい。
医者をしている弟が言ってましたが、
入院病棟で男の大部屋なんていうのは
シーンとしてるそうです。
それぞれに同じテレビのサッカーを見てても、
互いの交渉はない。
ところが女性の大部屋は賑やかで、
自分の病気の話から始まって、亭主の悪口、
子どものことと話題が尽きない。
そうして発散するものだから、
女性のほうが治りも早いとか。(笑)
糸井 そういえばうちのカミさん、
キャスターの渡辺真理ちゃんと仲がよくて、
一緒に買い物に行ったり、
絶対に俺とより仲がいいんだよね(笑)。
それ、僕もわかるの。
「妹みたいな存在がほしかった」ってね。
で、ちょっと羨ましくて
「お前ら、いいなあ」って。
男同士でそんなことしたら
不気味じゃないですか。
詫摩 最近の大学生を見てますと、
男同士のつき合いが非常に少なくなったように
思います。そのかわり、男と女のつき合いは、
もう期待以上に活発でね。
糸井 期待以上に(笑)。
きょうだいにしろ友人関係にしろ、
男同士より女同士のほうが、
同性であることの豊かな何かを
たくさん味わってるのかもしれないなぁ。
山口 きょうだいと言うと、
ふたごが出てくる『ツインズ』という映画が
公開された時、ふたごばかりを集めた試写会が
ありました。僕が驚いたのは、
ふたごの人って互いに小っちゃい声で
話すんですね。いつも試写会が始まる前は
話し声でガヤガヤうるさいのに、
その時は違った。
ふたご同士、並んでしゃべってるけど、
声が小さいから会場が静かなんです。
さわさわ、さわさわ、って小さな音が
聞こえてくる感じでした。
詫摩 それは十分理解できることですね。
実験で、ふたごのAのおしゃべりを
吹き込んだテープに雑音を入れて、
ふたごの一方のA’を含めた
他の友達に聞かせると、友達はわからなくても
A’はわかる。素質が同じで、
いつも一緒にいて考え方も似てますから、
小さな声で話しても言葉の省略があっても、
互いにわかるんですね。
  (つづく)

2004-07-09-FRI

第4回 男同士だって仲良くしたい!?

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