第4回
孤独の隣に連帯はある |
山口 |
子どもがまだ一人の友達に聞くと、
みんな自分の子どもがすごく可愛いと
言うんですね。そこで僕が、
「もう一人子どもができたら
その可愛さはどうなるんだろう」と問うと、
彼らは「物理的、時間的にかけられるものは
半分になるけど、その子に向ける愛情の量は
減るはずがない」と断言してた。 |
糸井 |
断言してますか。 |
山口 |
ちなみに、そいつら自身はみんな、
きょうだいがいますね。それも、
すごく仲のいいきょうだいがいる人ばかりです。 |
糸井 |
そこが大きいんじゃないかな。
僕はさっき二股かけられないと言ったけど、
仮に自分の子どもをもう一人つくる機会が
あったとしても、
あまり喜んでつくらなかったような気がします。
子どもが一人いて、すごく可愛がってる。
それをもう一回やる自信がなかった。
過剰に思っているだけかもしれないけど、
子どもとの関係でも
二股かけられない自分がある。 |
山口 |
うちの親には、なぜ僕が一人っ子なのか
明確な理由がありましたね。
父には「自分はきょうだいでとても苦労した」
という意識があって。
愛するわが子にはきょうだい間の苦労を
させたくない、と。
ただ、父の家族や親戚は
みんな非常に仲良しだったんですけど(笑)。
もう一つの理由は、二人も三人も子どもを
養うだけの収入を将来、得られるとは
とても思わなかったんですね。
当時、東京では子どもがいると
アパートを借りられなかったし。
ま、親父はわりと頭で先に
考えちゃう気質だったから。 |
糸井 |
ところで、山口さんが一人っ子で得したことは? |
山口 |
うーん、
まあ遺産相続がシンプルだったとか(笑)。
父が亡くなった時、税務署の人が
「いやあ、山口さんのところは
簡単でいいですね。次に回るところは
相続人が十人いて、それぞれの嫁がまた
口を出してくるので税務署も大変です」って。
ただ、この歳になると、僕の今後は
親の介護の問題をずっと抱えていくことに
なるでしょうね。僕が六十歳になった時、
一人で八十二の母を介護できるかなと
心配しちゃいますよ。
まして一人っ子同士の結婚となると、
夫婦で四人の親を面倒みないといけない。
大変ですよね。 |
糸井 |
これから先、どんどん一人っ子的な社会に
なっていくのは確かで、
そうなるといろんなことが変わってきますね。
将来のシステムを考える時、
一人っ子がヒントを出す役割は
できるかもしれない。 |
詫摩 |
この頃は子どもがゼロ、
つまり子どもをつくらない夫婦も増えています。
また、二人以上の子どもがいても、
いとこ同士で遊ぶ機会が
たいへん少なくなっている。
伯母さんや叔父さんの家を訪問したり、
逆に親戚のおじさんが家に泊まりに来るなんて、
もうほんとに珍しいことで。
旅行に行く時も、お父さんが車を運転して
家族だけで行くとかね。
家庭自体が閉鎖的になって、
一人っ子であろうと
二人以上の子どもがいようと、
そんなに違わなくなってきたとも言えます。 |
糸井 |
親戚や血縁は煩わしいものだと、
むしろマイナスの要素として
とらえられてますよね。 |
詫摩 |
ある大学の先生が黒板に
「血」という字を書いて、
「これに漢字一字を加えて熟語を作りなさい」
と学生に言ったところ、
出てきたのは「輸血」「血液型」といった
単語ばかりで、「血族」「血縁」などは
出てこなかったそうです。 |
糸井 |
一人っ子をはじめ、子どもの数が少なくなって、
しかも家族というものが
ますます閉鎖的になっていく中で、
親や大人世代が心得ておかなければ
いけないことは何でしょう。 |
詫摩 |
たとえば一人っ子だと、
順序からいって親が先に死んで、
あとにその子だけが残るわけですね。
きょうだいのいない一人っ子は、
つまり自分の幼い時の共通体験を
もっている人が少ないということです。
それを考えますと、同世代の仲間とのつき合いを
大事にすることが大切なんじゃないかと
私は思います。だから子どもが
幼稚園に行くようになった時には、
絵を上手に描けたとか
字を覚えたということより、
友達といい関係を築けているか、
親はそれに注意してほしいですね。 |
糸井 |
うんうん。
うちは一人っ子のカミさんも僕も、
相手がいても一人ずつでいることが
まったく平気なんです。
別に仲が悪いわけじゃなくて、
それぞれにインディペンデントに
生き慣れている人間同士が、
合同したり離散したりする……。
それ、便利だなとつくづく思っててね。
僕のホームページのキャッチフレーズは、
「only is not lonely」といって、
要は「たった一人であることは孤独ではない。
つながれるんだから」という
メッセージなんです。それを、
「いいですね」と言ってくれる人が多いのは、
「人間は結局独りである」という予感が
時代の中にあるからで、原型は案外、
一人っ子の中にあったのかと思ってね。 |
詫摩 |
一人だからこそ、最後は他人とのつき合いが
大きな人生になるわけです。
人とのつき合いにおいて決定的に重要なのは
「共感性」です。相手が何を考えているか、
どう思っているかを直感的に感じる能力ですね。
きょうだいのいる子は弟をいじめて泣かせたり、
お姉さんのノートに落書きしたりして、
あとで反省したりする。
そんなところから共感性は発達しますけど、
一人っ子はそういう機会が少ない。
そこで親は、共感性を幼い時から教えるために、
お年寄り、つまりおじいちゃんや
おばあちゃんとの触れ合いのチャンスを
多くつくってやってほしいですね。
おばあちゃんが針に糸を通すのを手伝って、
「ありがとう」と言われる。
そういう積み重ねは、子どもにとって
非常に豊かな経験になります。 |
山口 |
僕も、十歳まで大家族の中にいたことが、
きっとよかったんだろうな。 |
糸井 |
そう言えば、うちの子どももおばあちゃんと
仲良くしてました。寂しかったんでしょうね。
幼稚園からの友達のことを、
「大きくなってから知り合った友達とは
やっぱり違う」と最近言ってたし。なんか、
うちの子が歩んできた道が見えましたよ。
一人っ子なりに苦労してたんだ。
……泣けるなぁ。 |
詫摩 |
たとえばおじいちゃん、
おばあちゃんとの関係ができると、
子どもは祖父母から自分に伝わる命の流れを、
理屈ではなく、肌で感じとることが
できるんです。私には一人っ子の孫がいますが、
これから私が孫にしてやれることは、
私の亡くなる瞬間を見せてやることです。
それによって、何か感じ取るものが
あるだろうと思ってるんですよ。 |
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(おわりです。次もお楽しみに!) |