BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

第1回 もう珍しい存在ではありません

第2回 私の中の一人っ子成分

第3回 男同士だって仲良くしたい!?

一人っ子が時代をリードする!?
第4回
孤独の隣に連帯はある
山口 子どもがまだ一人の友達に聞くと、
みんな自分の子どもがすごく可愛いと
言うんですね。そこで僕が、
「もう一人子どもができたら
その可愛さはどうなるんだろう」と問うと、
彼らは「物理的、時間的にかけられるものは
半分になるけど、その子に向ける愛情の量は
減るはずがない」と断言してた。
糸井 断言してますか。
山口 ちなみに、そいつら自身はみんな、
きょうだいがいますね。それも、
すごく仲のいいきょうだいがいる人ばかりです。
糸井 そこが大きいんじゃないかな。
僕はさっき二股かけられないと言ったけど、
仮に自分の子どもをもう一人つくる機会が
あったとしても、
あまり喜んでつくらなかったような気がします。
子どもが一人いて、すごく可愛がってる。
それをもう一回やる自信がなかった。
過剰に思っているだけかもしれないけど、
子どもとの関係でも
二股かけられない自分がある。
山口 うちの親には、なぜ僕が一人っ子なのか
明確な理由がありましたね。
父には「自分はきょうだいでとても苦労した」
という意識があって。
愛するわが子にはきょうだい間の苦労を
させたくない、と。
ただ、父の家族や親戚は
みんな非常に仲良しだったんですけど(笑)。
もう一つの理由は、二人も三人も子どもを
養うだけの収入を将来、得られるとは
とても思わなかったんですね。
当時、東京では子どもがいると
アパートを借りられなかったし。
ま、親父はわりと頭で先に
考えちゃう気質だったから。
糸井 ところで、山口さんが一人っ子で得したことは?
山口 うーん、
まあ遺産相続がシンプルだったとか(笑)。
父が亡くなった時、税務署の人が
「いやあ、山口さんのところは
簡単でいいですね。次に回るところは
相続人が十人いて、それぞれの嫁がまた
口を出してくるので税務署も大変です」って。
ただ、この歳になると、僕の今後は
親の介護の問題をずっと抱えていくことに
なるでしょうね。僕が六十歳になった時、
一人で八十二の母を介護できるかなと
心配しちゃいますよ。
まして一人っ子同士の結婚となると、
夫婦で四人の親を面倒みないといけない。
大変ですよね。
糸井 これから先、どんどん一人っ子的な社会に
なっていくのは確かで、
そうなるといろんなことが変わってきますね。
将来のシステムを考える時、
一人っ子がヒントを出す役割は
できるかもしれない。
詫摩 この頃は子どもがゼロ、
つまり子どもをつくらない夫婦も増えています。
また、二人以上の子どもがいても、
いとこ同士で遊ぶ機会が
たいへん少なくなっている。
伯母さんや叔父さんの家を訪問したり、
逆に親戚のおじさんが家に泊まりに来るなんて、
もうほんとに珍しいことで。
旅行に行く時も、お父さんが車を運転して
家族だけで行くとかね。
家庭自体が閉鎖的になって、
一人っ子であろうと
二人以上の子どもがいようと、
そんなに違わなくなってきたとも言えます。
糸井 親戚や血縁は煩わしいものだと、
むしろマイナスの要素として
とらえられてますよね。
詫摩 ある大学の先生が黒板に
「血」という字を書いて、
「これに漢字一字を加えて熟語を作りなさい」
と学生に言ったところ、
出てきたのは「輸血」「血液型」といった
単語ばかりで、「血族」「血縁」などは
出てこなかったそうです。
糸井 一人っ子をはじめ、子どもの数が少なくなって、
しかも家族というものが
ますます閉鎖的になっていく中で、
親や大人世代が心得ておかなければ
いけないことは何でしょう。
詫摩 たとえば一人っ子だと、
順序からいって親が先に死んで、
あとにその子だけが残るわけですね。
きょうだいのいない一人っ子は、
つまり自分の幼い時の共通体験を
もっている人が少ないということです。
それを考えますと、同世代の仲間とのつき合いを
大事にすることが大切なんじゃないかと
私は思います。だから子どもが
幼稚園に行くようになった時には、
絵を上手に描けたとか
字を覚えたということより、
友達といい関係を築けているか、
親はそれに注意してほしいですね。
糸井 うんうん。
うちは一人っ子のカミさんも僕も、
相手がいても一人ずつでいることが
まったく平気なんです。
別に仲が悪いわけじゃなくて、
それぞれにインディペンデントに
生き慣れている人間同士が、
合同したり離散したりする……。
それ、便利だなとつくづく思っててね。
僕のホームページのキャッチフレーズは、
「only is not lonely」といって、
要は「たった一人であることは孤独ではない。
つながれるんだから」という
メッセージなんです。それを、
「いいですね」と言ってくれる人が多いのは、
「人間は結局独りである」という予感が
時代の中にあるからで、原型は案外、
一人っ子の中にあったのかと思ってね。
詫摩 一人だからこそ、最後は他人とのつき合いが
大きな人生になるわけです。
人とのつき合いにおいて決定的に重要なのは
「共感性」です。相手が何を考えているか、
どう思っているかを直感的に感じる能力ですね。
きょうだいのいる子は弟をいじめて泣かせたり、
お姉さんのノートに落書きしたりして、
あとで反省したりする。
そんなところから共感性は発達しますけど、
一人っ子はそういう機会が少ない。
そこで親は、共感性を幼い時から教えるために、
お年寄り、つまりおじいちゃんや
おばあちゃんとの触れ合いのチャンスを
多くつくってやってほしいですね。
おばあちゃんが針に糸を通すのを手伝って、
「ありがとう」と言われる。
そういう積み重ねは、子どもにとって
非常に豊かな経験になります。
山口 僕も、十歳まで大家族の中にいたことが、
きっとよかったんだろうな。
糸井 そう言えば、うちの子どももおばあちゃんと
仲良くしてました。寂しかったんでしょうね。
幼稚園からの友達のことを、
「大きくなってから知り合った友達とは
やっぱり違う」と最近言ってたし。なんか、
うちの子が歩んできた道が見えましたよ。
一人っ子なりに苦労してたんだ。
……泣けるなぁ。
詫摩 たとえばおじいちゃん、
おばあちゃんとの関係ができると、
子どもは祖父母から自分に伝わる命の流れを、
理屈ではなく、肌で感じとることが
できるんです。私には一人っ子の孫がいますが、
これから私が孫にしてやれることは、
私の亡くなる瞬間を見せてやることです。
それによって、何か感じ取るものが
あるだろうと思ってるんですよ。
  (おわりです。次もお楽しみに!)

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