第1回
初心者さん、いらっしゃい |
糸井 |
僕は子どもの頃から落語を聞いていましたが、
ここのところ落語を諦めてたんですよ。
すごいと思っていた方々はほとんど亡くなって、
落語はもうCDの中にしかないと
勝手に決めていた。
その一方で、
今の落語家の噺を聞くのも筋だとは
思ってたんです。
そんな時、春風亭小朝さんが落語家五人
(笑福亭鶴瓶、立川志の輔、林家こぶ平、
柳家花緑、春風亭昇太の各氏)
に呼びかけて結成した「六人の会」の活動が、
いろいろ聞こえてくるようになった。 |
昇太 |
あの中に入って、すごく得しました、僕(笑)。
世間的には僕は落語家というより、
時々テレビに出てる奴ぐらいに
思われていたもので。 |
糸井 |
その「六人の会」の落語会に行ったら、
今の落語の面白さが本当に感じられて……。
中でも自分の体質に合ったのが昇太さん。
で、知り合いを昇太さんの落語に連れて行くと、
みんなハマる。
あ、これは落語を聞いたことのないお客さんにも
ぜひ体験してほしいなぁと思って、
ついに、僕のやっている
ホームページ『ほぼ日刊イトイ新聞』主催で、
昇太さんに独演会までお願いしちゃった
(「春風亭昇太ひとり会」2004年9月12日・六本木ヒルズにて
行われました )。 |
昇太 |
ひとつ、よろしくお願いします。
でも、糸井さんのように落語は面白い、
と言ってくれるのは嬉しいですね。
高田(文夫)先生なんかも
昔から言い続けてくれていますが。 |
糸井 |
橘さんは、寄席や落語家さんの写真を
長年撮り続けてらっしゃいますよね。 |
橘 |
去年、「春風亭昇太賞」をいただきました。 |
糸井 |
何ですか、それ? |
昇太 |
1年半に1回くらい、
自分の周りの年下の人に賞を渡してるんですよ。 |
橘 |
「あなたの写真で僕はモテモテ」という賞を。
(笑) |
昇太 |
僕、橘さんに写真を撮ってもらうと、
モテるんですよ。
ちゃんとしたことをやってるみたいに見える。 |
糸井 |
撮影しながら見てると、
落語のお客さんはどういう人たちが多いですか。 |
橘 |
寄席とホールでは、お客さんは全然違いますね。
寄席にはコアなファンが多い。
「今日の出来はこうだった」
「サゲ(オチ)はどうの」と
すっかり評論家で、
噺のたびに点数つけてる人もいます。
盛り上ってなくても、
「つまんないのが面白い」とか、
わけわかんないこと言ってる人もいるし(笑)。
これがホールだと、昇太さんの独演会をはじめ、
若い女性が多いですね。
よく落語は初めてという人から、
「誰を見に行ったらいいですか」と聞かれて、
僕はたいがい
志の輔師匠か昇太さんを薦めるんですが、
それもホールでの独演会や落語会です。 |
糸井 |
寄席じゃないのね。 |
橘 |
いきなり寄席だと、
初心者には馴染めないかもしれない。
寄席は噺家さんが次々と登場するでしょう。
お目当ての人まで
我慢しなくちゃいけない時間帯があって、
それをやり過ごしてから、
ちょびっとだけ好きな人の高座を見ても、
全体として
「あ、つまんないや」と感じたりするんですよ。
初回で「つまんない」と思うと、
二度と行かなくなる。
だから最初は、
これはと思う人の独演会のほうがいい。
昇太さんの会などは、
「落語は初めて」とか
「誰かに誘われて」という人も多くて、
落語の入口になっているような気がします。 |
糸井 |
実は、僕が今の落語から足が遠のいていたのも、
寄席が原因の一つ。
新宿・末広亭や上野・鈴本演芸場にも
行きましたけど、正直申し上げて……
あまり上手じゃない人も多いでしょ。
橘さんがおっしゃった
「我慢しなくちゃいけない時間」
というのは、
「あの人も一所懸命にやってるんだから
聞いてあげなきゃ」
っていう時間です。
「ここで寝ちゃ悪い」
「しっかり受けとめるのが客だろう」とか
自分に気合い入れて、
いったいどっちが仕事してるんだか。
|
橘 |
池袋演芸場なんてものすごく狭くて、
高座と座席がすっごい近いじゃないですか。
お客さんが少ないと、無闇に笑えないし(笑)、
気を遣ってトイレにも行けない。
途中で出ると、
「あ、出た」とすぐわかりますから。 |
糸井 |
それ、欲情できないタイプの方が
お出ましになった時の
ストリップの状況に似ていますね。
席を立てない辛さ……。
昇太さん、
さっきから黙っていますが。 |
昇太 |
いや、
寄席には寄席ならではの
楽しさがあるんですけどね。(笑) |
|
(つづく) |