BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

第1回 初心者さん、いらっしゃい

第2回 この楽しみを知らないなんて

第3回 高座の勇姿、楽屋の意外

落語の入口へ
ご案内いたします
第4回
あなたの想像力、刺激します
糸井 そういえば僕、その昔、
鶴瓶さんに誘われて落語の台本を書いて、
それを松尾伴内くんが
演じてくれたことがありました。
いつか鶴瓶さんに
新作を書いてみたい気持ちがずっとあって、
『SM長屋』
っていうのを書くつもりでいるんです。
急に隣のおばさんがね、
余ったロープを借りに来る、みたいな。(笑)
昇太 ちょっとロープが足りないんだけど、って。
糸井 でも鶴瓶さんは
そういうとこ気取り屋さんだから、
そんなのいやだって(笑)。
こうして考えてみると、何だかんだ言っても、
落語と自分の縁はずっとつながってるなぁ。
『大正テレビ寄席』も、
最近は面白くないといいながらも、
ちゃんと見てたし。
末広亭とかから中継してましたね。
糸井 最近、落語はテレビから消えたね。
昇太 逆にそれがいいと僕は思っています。
今、映像の時代で、
テレビで紹介されて面白いものが
よしとされるじゃないですか。
でも、落語ってテレビで見て
そんなに面白いものじゃないです。
テレビはとても親切で、
あまり考えずに見てもわかるように
番組を作ってあります。
それこそ
「今、ここで笑いなさい」と
笑いどころをテロップで書いてくれる。
見る側があまり想像しなくてもいいんですね。
ところが落語は、
想像して聞いてもらわないと
成立しない芸能です。
その意味で、テレビは落語にとって
ベストなメディアとは思えない。
僕も
落語をテレビであまりやらないのは
逆にいいことだと思ってます。
テレビのようにすべてを見せてしまうのは、
イメージを限定させることでもありますから。
それと、お笑いの人たちみなそうですが、
テレビでは一つの芸がウケても、
飽きられると
すぐにまた次の芸を出さなくちゃいけない。
常に新しいこと、新しいことを
やっていかないと通用しないでしょ。
だけど、テレビで露出しなければ、
一つの芸をずーっと長くやれるし、
それを磨き上げて
さらに面白くすることもできる。
昇太さんの落語で、
5年前にやったのと同じネタを今見て、
あ、もっと面白くなってると
発見することがあります。
そこでまた楽しめますからね。
昇太 落語で楽しいのは、
「あの女、いい女だねえ」と高座で喋るでしょ。
400人のお客さんがいると400通り、
自分用の美人の顔がイメージされるんです。
だから読書好きな人は
きっと落語を楽しんでもらえると思う。
糸井 このあいだ、昇太さん、
マクラ(噺に入る前に話される導入部。
小噺、世間話のようなもの)で、
モモンガを飼おうかどうか
悩んでいる話をしましたね。
モモンガが飛んだらどうしようとか、
聞いてて爆笑でした。
あれ、本当の話なんですよね。
あの話を、
今ここでまったく同じ言葉で
喋ったらどうでしょう?
笑いますかね。
昇太 いや、あの時は本当に悩んでましたから。
今はもう、飼っちゃったので(笑)、
同じ話をしても切実感もないし、
面白くないと思いますよ。
要するに落語は「その人」から出られない。
マクラも噺も、その人そのもの、
なんです。
同じ噺をしても
面白い人と面白くない人がいるのは、
「人」が出るから。
談春さんなんか本当の博打うちだから、
ヤクザの噺とか『居残り佐平次』をやると
すごくいいんですよ。
それを、
お坊ちゃまな感じの人が喋っても
しっくりこない。
糸井 殿様の子どもが、
お金のことをお雛様の刀の鍔だと思った
という『雛鍔』という噺があります。
僕はあの噺を
(古今亭)志ん朝さんで聞いたけど、
もし品のない人がやったら、
ああいう噺には聞こえないですよね。
このあいだ、
談春さんと花緑さんが二人会で
『子別れ』上下をそれぞれやったったんです。
前半を談春さん、後半を花緑さん。
最初は博打打ちのことが出るから、談春さん、
めちゃくちゃハマってる。
後半になると、
花緑さんはポジティブ・シンキングを
絵に描いたようなお人柄なんで、
『子別れ』といっても
お涙頂戴の感じにはならなくて、
なんか楽しい家庭じゃん(笑)、
という雰囲気なんです。
これは、
もちろん技術的なことじゃないけど、
前半と後半を逆にやれば、
またまるっきり違う話に聞こえるんでしょうね。
糸井

人といえば、僕の中でしつけ糸みたいに、
昇太さんに仮につけたイメージがあるんですよ。
それは、「ばかで結構」
「ばか、カモン」というの。
(立川)談志さんは落語のことを
「業の肯定」という言い方をしたけど、
昇太さんの場合は、「ばかの肯定」。(笑)

いや、そうですよ。
昇太さんの新作『花粉症の寿司屋』なんか、
衝撃的でした。
昇太さん、
ほとんど寝てやるんですよ。
花粉症が苦しくて
商売できないお寿司屋さんが、
辛いからと
横になったまんま寿司握ったりする
という噺でね。
その時、
わあ何だこの人、スゲーって
思いましたもの。

糸井 だけど横になる以外は、
落語のスタイルから何も外してないですよね。
昇太 落語は
「こうしないといけない」ということは
多分ないです。
ただ、なぜ着物を着て、
なぜ座るかということですね。
これ、やってる側から考えてみると、
座っていればすべて演じられるんです。
立ってるシーンも、歩いたり走ったりも。
ところが立ってやると、
座っているシーンはできない。
走るのも、
立って実際にパッと走るとなると
限界があるでしょう。
でも座っていると、
何キロでも走れるんですよ。
糸井 モノクロの写真と同じで、
カラーじゃない分、
色を自由につけられる。
昇太 着物もそうで、
洋服は女性と男性の服は完全に違うし、
年齢でもファッションは変わってくる。
ところが着物は帯から上はみな一緒。
だから、
女性でも男性でも、
子どもでもおばあさんでも演じられるんですよ。
僕はその昔、
落語って規制があるように思っていました。
ところがいざやってみると、座って喋る、
着物を着て喋るからこそ、
何でもできるんですね。
誰が編み出したか知らないけれど、
素晴らしいなと思いました。
見せ過ぎると、かえって伝わらない――
写真もそうです。
たとえば志の輔師匠は高座に上がる前、
必ず客席と逆側を1回見て、
鼻を2回触るんですよ。
昇太さんは高座を下がる時、
いつも走る。
そういうところを撮れば、
充分にその人らしさは伝わる。
何も高座での仕草の面白いところを
すべて撮って見せる必要はない。
想像させる余地って大事ですね。
  (つづく)

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第5回 笑いにお作法なし!

2005-05-17-TUE

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