8月のある日、
フミ子さんからメールが来ました。
「庭の胡椒(唐辛子)が不作です」
送られてきた「写メ」には、
いつもより小ぶりな唐辛子が写っています。
(わわわ! そのときの写メが、
いくらさがしても見つからない‥‥。
とにかく枯れた唐辛子の木の写真でした)
しかも、今年はゆず胡椒をたくさん作るからと、
例年よりも増やして10本植えたのに、
その胡椒の木のうち、半分が枯れてしまったんだとか。
「暑さかねぇ。雨が全然ふらんやったけんねえ。
うちだけやないでね、周りもみぃんな
今年はあんまり採れんて言いよるごとあるよ」
と、電話のフミ子さん。
これは困った。
すっかり庭の唐辛子でまかなえると思っていたので、
他の手を考えなきゃいけません。
「こんなん初めてやねぇ」とフミ子さん。
毎年、次々次々と出てきた胡椒なのに‥‥。
うーむ。
うーーーーむ‥‥。
腕組みして悩んでるばかりじゃいけません。
動かないと。
とはいえ、宗像周りで胡椒が不作とすると
関東で探さなきゃいけませんが、当然アテも無いわけで。
こうなったら築地しかない! と探し歩き、
1軒の仲卸さんとどうにか話がついて、
宗像へ直接、唐辛子を送ってもらう約束が完了。
実物が見られなかったのがちょっと不安ではあるものの、
とりあえずはほっと一息。
よし、がんばんべ! と、
いよいよ‥‥いよいよです、みなさん!
わたしたちは「ゆず胡椒を作り」に、
宗像へと向かいました!!
9月の終わりに、再び3人で福岡へ。
(移動! ビューーーーン!)
到着。
宗像の家へ着くと、
先に築地から荷物が届いてました。
勢いあまって多めに頼んだ青唐辛子は、
どっさり4.5kg分!
小料理屋さんなんかで、
天ぷらなどで使われることが多いとかで、
たしかに奇麗な
粒ぞろいの青唐辛子たちがコンニチハしてます。
庭の畑は、どんなもんなんでしょ。
見に行ってみましょ。
数日前に雨が降ったこともあって、
新しい胡椒が元気に育ち始めてはいたものの、
たしかに苗の半分が枯れて、
残った木の胡椒は房が大きくなりきる前に
どんどん赤くなってきています。
赤くなっていないのもあるけれど‥‥。
‥‥んんん? ‥‥‥‥あれぇ??
築地で買った唐辛子と、庭の唐辛子、
ずいぶん大きさがちがうぞ。
もしかして、味が違うんじゃ‥‥。
台所で食べてみましょう。
味の番人トモさんが、築地の唐辛子を生でカリリ。
トモ 「う‥‥ん。辛い?」
庭で採れた数少ない唐辛子もカリリ。
トモ 「うーん。どうかなあ‥‥。
なんか、辛みのインパクトが
ずいぶん違うような。うーん‥‥」
フミ子 「どれどれ? (カリっ)
ああ! からーい! ほー、ほー、水、水!」
トモ 「(再び食べ比べ)うーん。
ゆず胡椒にしたら
結構違いが出るかもしれんしなぁ」
フミ子 「まぁでも、これはこれで
作ってみたらいいやない。
庭のもまた育ってきよるけん、
もう少ししたら採れるとよ。
そしたら庭の胡椒と柚子でも作ったらいいたい」
トモ 「でもここにおる間に作らないかんとよ」
フミ子 「うーん、そうねぇ。
そしたら西川さんの知合いの
八百屋さんに聞いてもらおうかね」
(しばし、ご近所のお友だち、西川さんと電話)
フミ子 「(電話を切り)西川さんがこないだ、
産直で少し売っとるの見たって。
『そろそろ出だしとるかもしれんから、
八百屋さんにも聞いみちゃろうか』
っていいよるとよ」
西川さんによる聞きこみ調査の結果は、
あしたの朝までわからないとか。
うーむ‥‥そわそわ。
じっとしていられず、
いくつかある産直市場も見に行ってみました。
ここにきてまさかの、福岡での胡椒探しです。
でも、やっぱり全然ありません。
▲ゆず胡椒はたくさんあるけど、唐辛子はない
念のため、店の人にフミ子さんが訊ねます。
フミ子 「やっぱり今年はだめかねぇ」
店の人 「今日は少しだけ入ったんですけどね。
もう売れちゃいましてねぇ。
ええ、いつもならこの時期
たくさん並んどるんですけど、
今年はあんまり採れんみたいですねぇ」
うーむ、やはり。
これはもう、西川さんを頼るしかなさそう‥‥。
翌朝になりました。
待ちわびたわたしたちは、
前のめりに西川さんのお宅へとうかがい、
聞きこみ調査の結果をたずねます。
どうだったんでしょう?!
▲右が西川さん
西川 「八百屋さんとこにも
やっぱりたくさんは無いみたいたい。
でも、胡椒作っとう
和田さんちとこに
あるかもしれんて思うてね。
聞いてみたら”ある”っていいよんしゃるけん、
行ってみらんね」
やった!
西川さんの車で、その「和田さん」のお宅に
連れていってもらうことになりました。
ラッキーー!
道中は山、山、山。
空が青くて緑が生い茂って、
気持ちのいい空気がながれてます。
しかもその先には、夢にまで見た胡椒が待っている!
私の人生、かつてこれほどまでに
胡椒を求めたことがありましょうか。
いやない。絶対ないっ。断固ないですっ。
胡椒をもとめて車で行くこと2〜30分。
目的地の辺りの畑の中で、
ほっかむりした女性が迎えてくれてます。
あれだ! あれが和田さんだ!
「こっちこっち!」
大きな手まねきに誘われて
家の奥の唐辛子畑へついてみると‥‥。
わあー、すばらしい!
ツヤツヤでピカピカの立派な唐辛子が育っています。
▲左が和田さん、右が西川さん
和田さん 「んもぅ、西川さん。
アンタ急にたくさん要るって言うて。
『どのくらいいるとね?』って聞いたらアンタ、
『何キロ採れる?』って、
馬鹿なこというてからくさ。
胡椒を何キロって‥‥
そげんたくさんは採れんとたい。
でも何に使うんや?って聞いたら、
東京から胡椒を買いに来とる人が
おんしゃるていうもんやけん。
アンタ、わざわざ東京から
唐辛子買いに来たとね、え?
あー、実家がこっちにねー。
でもこげんたくさんどうするんね。
ゆず胡椒? はあー、ご苦労やねぇ。
とりあえず西川さんの頼みやき、
このくらいは採っとったけど、どげんやろか」
ドーン!
和田さん、十分です! ありがとうございます!
ざっと1キロはあるでしょうか。
袋にいっぱいの青胡椒。
これをひとつひとつ、和田さんがひとりで
もいでおいてくれたのかと思うと頭がさがります。
ところがこの話には濃い〜オマケがついていて。
これが面白かった。
「いとおかし」。
実に興味深いってやつです。
弾丸トークモードに火がついた和田さん、
堰を切ったように自分の半生を語り始めたんです。
まだ19の、世間知らずの可愛い娘っ子が
農家にお嫁に来てから、今は娘も独立してひとりになり、
旦那さんと一緒に作ってきた畑を守っている。
そんな、苦労と愛情がいっぱいのお話を
身振り手振り、クイズも交えて語り尽くすこと30分!
まさか胡椒を買いにきて、こんな展開になるとは。
思いもよらん出来事に私たちも西川さんも呆然としつつ、
和田さんトークに吸い込まれて、
映画を一本みたような夢心地を味わったのでした。
この胡椒には、和田さんの半生がつまっているかと思うと
なんとも愛おしく思えてくるもんです。
ありがとうございます、和田さん。
きっと美味しいゆず胡椒を作りますよ!
(つづきまーす) |