月刊「スピリッツ」(小学館)で連載中の
漫画『へんなものみっけ!』は、
博物館に働く人たちが主人公です。
ひんやりとして静かな、時間が止まったような
空間を思い浮かべる博物館という場所ですが、
その裏側には、わくわくすることを探して
生き生きと働く喜びが満ちています。
ダーウィンもきっと「おもしろいもの」探しが
発見の原点にあったのかもしれません。
ご自身も博物館で働いた経験の持ち主である
作者の早良朋(さわらとも)さんに
お話を伺いました。
- 早良朋さん
- 漫画家。福岡県出身。
- 2016 年に「月刊!スピリッツ」(小学館)にて、
- 国立科学博物館で働いていた経験をもとに
- 博物館の裏側を描いた『へんなものみっけ!』で
- デビュー。現在は、1〜3巻が発売中。
「みっけ!」のよろこび
- ——
- 間もなく、ダーウィンの講座を始めるんですが、
早良さん自身、
ダーウィンに対するイメージってありますか?
- 早良
- ダーウィンを
そんなに深く知ってるわけではないんですけど、
一言で言ったら、「すごい!」。
今、みんな生物学を考えるときに、
ひとつの生きものから分かれてきたということを
前提として考えるじゃないですか。
でも、そういう前提がなかったときに、
植物と人間が同じものから分かれてきたと
気づく人がいるかなって思うと、いないような。
それを思いついた発想力のすごさにビックリします。
そんなコメントでいいんでしょうか(笑)。
- ——
- 『へんなものみっけ!』を読んでて、
ダーウィン的だなって思ったことがありました。
それは、研究者の人たちや博物館の人たちが
すごく長い時間の中に生きているところです。
「歴史の流れの中に今自分たちがいるんだよ」
というのは、ダーウィンに通じる
ひとつの大きいメッセージかなと思いました。
- 早良
- 進化の長い過程に出現した
ひとつの種類でしかないというか。
- ——
- だから逆に、
今生きてる意味みたいなものを
ちゃんと感じられる気がします。
- 早良
- そうですよね。
いま生きてる生きものって、
分化してきて、その一番ベストな状態で今いるので、
それがおもしろいなと思うんですよ。
ダーウィンも、そういうふうに「おもしろいな」って
思って生きものを見てたんじゃないかって。
例えば、虫でも魚でもそうですけど、
食べて出すものを出して、自分の縄張りがあって、
お互いにけん制したり、競争したりというのは
みんな一緒なんですよね。
- ——
- どの生きものの世界でも。
- 早良
- その攻防を見るのが私は好きなんです(笑)。
食べたり食べられたりとか、
こういう食べ方をするんだとか、
そういう生きものを見るのが好きです。
- ——
- 今もどこかに観察に行かれたりするんですか?
- 早良
- もう全然時間がないので、
ひたすらマンガを描いてますが、
ドジョウを飼ってます。
ドジョウは2匹いるんですけど、
仲良くしてるのを見て、
「ああ、癒されるな」って(笑)。
- ——
- 今、まわりに自然はありますか?
- 早良
- 家のすぐ近くにちっちゃい森と池がありまして、
池の周りを歩くと鳥がいたり。
春にはそのちっちゃな森にウグイスが来るので、
朝起きたらウグイスの声がするとか。
あと、ちょっと時間が経ってくると
フクロウが鳴き始めたりとかもするんです。
- ——
- 早良さんご自身はたくさんの自然の中で
育ってこられたと思うんですけど、
自然があるからこそ得られたものって何ですか?
- 早良
- 自然はおもしろいとか、
大事にしなきゃいけないという感情があるのは、
ちっちゃいときに自然の中で遊んだからですよね。
- ——
- そうやって子供のころから「おもしろい」を感じて、
観察して、
それが今のマンガにつながっているんですね。
- 早良
- マンガは長い間全然芽が出なかったんですけど、
編集の加納由樹さんが興味を持ってくれたんですよ、
博物館の話に。
それを題材に描こうって言ってもらったので
話が作れた感じです。
- ——
- 加納さんは、どうして興味を持ったんですか?
- 加納
- 僕は、もともと生きものとか世界の不思議とか、
日本の民話とか神話とかがすごく好きで。
科博(国立科学博物館)に
スケッチブックを抱えていって、
恐竜骨格を絵で描くような子どもだったものですから。
大好きな素材をお持ちの早良さんにお会いして、
ど真ん中のものをぜひ、という感じでした。
過去作を拝見して、
博物館の話が差しはさまれたりしていたので
「博物館そのものをやりましょう」と。
研究者の話とか、その人たちのやってることを聞いて、
絶対マンガになると思いました。
- ——
- タイトルは、どうしてこれにされたんですか?
- 早良
- これはすごく悩みました。
とにかく思いつくもの、ワーッていっぱい書きだして、
どれもこれもヒットしなくて。
最後のほうに、研究者は何かを見つけたとき、
「なんかへんなもん見つけました」って
言いそうだなと。
加納さんが「これにしましょう」と言って、
決まりました。
- ——
- 研究者は、確かに言いそうですね。
「へんなもん、ちょっと見つけたんだよ」って。
- 早良
- 「なんかこれへんだよね」みたいな。
- ——
- 「へんな」に肯定的な喜びが感じられますよね。
- 早良
- はい。
- ——
- このマンガは、
ただの博物館モノっていうわけじゃなく、
すごく広く読める作品だと思います。
お仕事モノとしても、生き方に触れる部分で
反応してくる人もいるだろうし、
いろいろな読み方ができますよね。
- 加納
- 巻が進むにつれて
「生き方を考えさせられました」
みたいな感想が増えて、
読者の幅が広がっているという実感はあります。
- ——
- マンガの中でも館長が、「僕の仕事は入口を作ることなんだよ」
と言ってますが、
『へんなものみっけ!』もひとつの入口だと思います。
- 早良
- ああー、ありがとうございます。
- ——
- 『博物館の仕事が、
「たくさんの“いたんだ”を残す」ことだという表現、
とても印象的でした。
剥製も博物館で
ホコリをかぶったような印象しかなかったけど、
その生きものがいたという証拠がそこにあるんですね。
- 早良
- はい。
- ——
- クジラがどうして陸に近づいて死ぬのかっていうのは、
まだ誰も解けてない謎だと書いてありました。
- 早良
- はい、そうですね。
- ——
- きっとずーっと研究されてるんだろうし、
それでもまだ解けないということは、
研究者としてはもどかしいけど、
でもすごくやりがいもあって、
夢があることだったりするわけですよね。
- 早良
- そうだと思います。
ホントに、海の中とかもまだ全然わかってないことが
いっぱいあるはずなので。
意外と最近も新種の生きものが見つかってるので、
知らないことは
実はまだいっぱいあるんじゃないかと思いますよね。
- ——
- 「知らないことがまだいっぱいある」、
そういうことを知ってるだけでも、
きっと生き方も変わりそうです。
- 早良
- そんな気がします。
- ——
- 早良さんご自身、
研究の道に進む選択肢もあったのではないですか。
だけどマンガを描いているほうがおもしろいですか?
- 早良
- そうですね。研究は、やっぱり向き不向きがあるので。
私はジーッと観察するのは好きなんですけど、
論文を書いたりする能力はそんなにないですし。
そこまで興味が持てるかっていうのも
やっぱり才能だと思います。
私はやっぱりマンガが描きたかった。
- ——
- 担当編集者が科博少年だったというのも、
すごい偶然ですよね。
- 加納
- 楽しいですよ、僕も、この仕事。
早良さんがいなければ、博物館の取材とかも入れない。
会いたい人にも会えるので、もうすごく楽しいです。
役得ですよ。
- ——
- それこそ、「みっけ」でしたね。
- 加納
- いや、ホントに。
おまけ
取材の最後に、『へんなものみっけ!』に登場する
コノハズクのコノハを描いていただきました。
かわいい!!
(おわり)
早良朋さんは、現在国立科学博物館で開催中の「大哺乳類展2」
とコラボして、ナビゲートキャラを描き下ろされています。
会場ではぬいぐるみなど多数グッズ化されているので、この機会にぜひ足を運んでみて下さい!