これからのぼくに、できること。 これからのぼくに、できること。
2017年の12月、
写真家の幡野広志さんはブログ上で
ご自身が余命3年とされる末期ガンであることを
公表されました。
ツイッター経由で幡野さんの存在と
その写真やことばを知った糸井重里は、
「なにかお手伝いできることはないか」
と考え、ご迷惑にならないよう気を配りつつ、
幡野さんに声をかけました。
そして現在、おふたりを中心にして
たいせつなプロジェクトが進行しています。


幡野さんという写真家について、
ガンという病気について、
生きるということについて、
それから現在進行中のプロジェクトについて。
おふたりにあらためて語っていただきました。


また、わけあってこの対談はぼく、
ライターの古賀史健が進行役をつとめ、
原稿をまとめています。
そのあたりの理由も含めて、
全6回の対談をおたのしみください。
第3回 ガンになって変わったこと。
写真
──
昨年の12月、幡野さんは
ブログでご自身のガンを公表されました。
なぜあの場で公表しようと決意されたんでしょう?
幡野
まあ、勇気いりますよね。
もしも手術や化学療法で治る可能性があるガンだったら、
たぶん黙ってたと思うんですよ。
こっそり治して、まわりに心配かけないようにして。
フリーランスですし、
治療しながら仕事も続けられますし。
糸井
うん。
幡野
でも、死ぬってなったら別ですよね。
余命3年ですって言われたときに、
たとえば2年半は黙ったままで
最後の半年というタイミングで伝えても、
まわりはみんな困っちゃう。
ぼくは「多発性骨髄腫」という血液ガンの一種で、
いわゆるステージ(病期)も
いちばん進行した「3」なんですね。
糸井
ええ。
幡野
初期のガンと違って「こっそり治す」ができない以上、
どうしても早めに伝えざるを得ない。
しかも、ガンだとわかった2日後に、
おおきな撮影の仕事が入っていて・・・・(笑)。
糸井
ああ、そうでしたか。
幡野
あたらしいカメラマンを
手配してもらわないといけないし、
一刻を争うような感じで取引先に電話をしたんです。
もちろんドタキャンになるわけですが、
事情が事情ですし、わかってもらえました。
ただ、その話をどこかで聞きつけた別の人から、
「大丈夫か?」って電話がかかってくるんです。
しかも、どんどん。
勝手に噂が広まって。
糸井
なるほどなあ。
幡野
そういう断りの電話を何社かに入れていたら、
ぼくにかかってくる電話もとんでもない量になっていって。
それでこれはもう、
ブログやSNSに書いちゃったほうがラクだな、と。
糸井
全員に同じ話をするというのは、
それだけでもたいへんなことですからね。
幡野
はい。
向こうははじめて聞く話ですし、
ショックを受けて、心配してくれているんだけれど、
ぼくはもう何十回も同じ話をしているわけで、
正直、疲れてきちゃって。
結果的に、ブログに書いて正解でした。
僕、ガンになりました。
父をガンで亡くしているので、
自分もガンになるだろうとは思っていたけど
34歳は早すぎる気がする。
(中略)
妻と結婚してどう控えめに言ってもかわいい息子に恵まれ、
病状を知り涙してくれる友人がいる。
社会人とは思えないほど長期休暇を取って
広く浅い趣味に没頭し、好きなことを仕事にした。
幸せの価値観は多様性があり人それぞれだけど、
僕は自分の人生が幸せだと自信を持って言える。
──幡野広志 ブログ『ガンになって気づくこと。』より
──
環境の変化はおおきかったでしょう。
その、面倒なことも含めて。
幡野
もちろん、じぶんがこの歳で
ガンになるとは考えてもいなかったですし、
こうして糸井さんとお話しさせていただいている姿も
想像できなかったですし、激変ですよね(笑)。
でも、いちばんおおきく変わったのは、
身近な人間関係です。
糸井
人間関係。
写真
幡野
病気になる前からの
友だちや仕事仲間、家族や親類、
ほとんどの人間関係が一変しちゃいましたね。
いまぼくが付き合っている人のほとんどは、
病気になったあとに知り合った人たちですから。
糸井
そうなんですか。
幡野
はい。
そういう人たちは、
ぼくの病気や生き方の選択について
ちゃんと理解してくれているんですけど、
健康だったときからの知り合いは
なかなか受け入れてくれないですね。
むずかしいです、そこはやっぱり。
糸井
なるほどなあ、身近な人ほどなあ。
幡野
病気の前から変わらないのは
妻だけじゃないでしょうか。
ほかはみんな、変わっちゃいましたね。
糸井
ぼくもお会いさせていただきましたけど、
あの奥さんの「けろっと」の仕方は、見事ですね。
幡野
ありがたいです。
糸井
あだ名は「けろっとさん」(笑)。
幡野
ちゃんと考えてるのかな、
っていうくらい、けろっと(笑)。
写真
糸井
考えているんですよ、それは。
幡野
そうなんですよね。
誰よりも考えてくれているんですよね。
糸井
あのね、
これは横尾忠則さんに教えてもらったことなんだけれど、
考えるっていうのは時間じゃなくて、回数なんです。
幡野
回数・・・・?
糸井
うん。たとえば、
「おれは写真についてずっと考えている」という人も
ほんとうに24時間考えているはずはなくて。
「ずっと」じゃなくて、「しょっちゅう」が、
たくさん考えるということなんです。
幡野
ああー、なるほど。
糸井
だからぼくは、
会社の経営についてたくさん考えているけれど、
5時間ずっと考えるなんてことはありません。
その代わり、10分くらいの「考える」を
すごい回数こなしている(笑)。
幡野
ああ、それはぼくも同じだと思います。
とくに狩猟をやっていたおかげで、
むかしから「死」について考える回数は
ほんとうに多かったんです。
やっぱりそのつど、動物を殺しているわけですから。
糸井
そうですよね。
幡野
それでじぶんが病気になって、
あと3年後に死にますよ、と言われたときに、
ようやく点と点がつながった気がして。
ぼくがじぶんの死を受け入れられたのは、
狩猟を通じて「死」というものを
たくさん考えてきたからかもしれません。
その回数はふつうの人より、はるかに多いですから。
糸井
仕留めるたびに思うんですからね。
幡野
あまり回数が多すぎると、
感覚が麻痺することもあるでしょうけど(笑)。
ぼくの場合、麻痺しない程度に考えてきたことが
よかったんでしょうね。
糸井
どうしても人は、何時間も集中して考えたとか、
三日三晩寝ずに考えたとかのお話を語りたがるものだけど、
そんなはずはないんですよ。
幡野
ありえないですよね。
ぼくも「じぶんが死ぬということ」について
たくさん考えていますけど、やっぱりそれは回数の話で。
朝から晩まで深刻に考えるなんて、無理です。
それはきっと、うちの妻も。
糸井
うん。
幡野
駅の改札を出るときに、
ふと「あ、死ぬんだよな」と思い出したり(笑)。
そういうことのくり返しですね。
写真
糸井
それでも、
らせん階段をのぼるように、
少しずつ考えが進んでいるんですよ。
幡野
きっとそうなんですよね。
だから、時間よりも回数だという考えは、
すごく腑に落ちる気がします。
糸井
でしょう?
ぼくも横尾さんから聞いたときには
まだうまく理解できていなかったんだけど、
最近ようやくわかってきたんです。
(つづきます)
2018-09-03-MON
幡野広志さんのはじめての本
ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。
写真
著:幡野広志

出版社:PHP研究所

価格:1512円(税込)

ISBN: 4569841252
ガン(多発性骨髄腫)で
余命宣告を受けた35歳の父が、
2歳の息子さんに伝えたい大切なこと。
写真家であり、元猟師でもある
幡野広志さんのはじめての本。
幡野広志 作品展
「優しい写真」
開催日時:11月2日(金)~15日(木)

場所:ソニーイメージングギャラリー

開館時間:11時~19時

(※最終日やイベント開催時に
閉館時間が早まる場合あり)


定休日:なし

(※銀座プレイス休館日を除く)

入場:無料