2017年の12月、
写真家の幡野広志さんはブログ上で
ご自身が余命3年とされる末期ガンであることを
公表されました。
ツイッター経由で幡野さんの存在と
その写真やことばを知った糸井重里は、
「なにかお手伝いできることはないか」
と考え、ご迷惑にならないよう気を配りつつ、
幡野さんに声をかけました。
そして現在、おふたりを中心にして
たいせつなプロジェクトが進行しています。
幡野さんという写真家について、
ガンという病気について、
生きるということについて、
それから現在進行中のプロジェクトについて。
おふたりにあらためて語っていただきました。
また、わけあってこの対談はぼく、
ライターの
古賀史健が進行役をつとめ、
原稿をまとめています。
そのあたりの理由も含めて、
全6回の対談をおたのしみください。
- ──
- 幡野さんはこの8月に
『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる』
(PHP研究所)
という本を刊行されました。
そしてこの本以外にも、何冊かの本を出版する予定です。
たしか、ぜんぶで4冊でしたよね?
- 幡野
- はい。ありがたいことに。
- ──
- じつはその4冊とは別に、
幡野さんが「自費出版してでも出したい」と
考えてこられた企画があって。
・・・・これは、
いつ頃から動きはじめたものなんでしょう?
- 幡野
- 実際に取材をはじめたのは今年のはじめですが、
昨年末に入院していたときから少しずつ。
- 糸井
- ブログにも書かれていましたね。
- 幡野
- はい。
ガンを公表して以来、
たくさんの方々からメッセージをいただいたんですね。
ガン患者やそのご家族、ガンの経験者やご遺族、
医療従事者、あるいは難病を抱えられた方、
精神疾患や発達障害を抱えて生きる人、
いじめの被害者や加害者、
そのほかさまざまな苦しさを抱えている人たち。
もう、ほんとうにたくさんの方々から。
- ──
- それで放射線治療が終わったあと、
本来だったらそのまま抗ガン剤治療に入るところを、
幡野さんは治療を先送りにして、
メッセージをやりとりしていた方々への
取材を進めていって。
- 幡野
- そうですね。
メッセージを交換しているうちに、
みなさんのなかにいくつか共通項が見えてきて。
それで、直接会って、お話しして。
ぼく自身、たくさん学びや発見がありました。
- ──
- そこで取材したことをもとにして、
自費出版でもいいから、なんとか本をまとめようと。
- 糸井
- ぼくらが幡野さんにお会いしたとき、
ちょうどその「自費出版」の企画を聞かされたんです。
ただ、実際にひとりで自費出版するのはたいへんだし、
編集者をどうするんだという問題もあるし、
ぼくらになにかお手伝いできることはないかと思って
いろいろ考えていたところに・・・・。
- ──
- ぼく(古賀史健)が現れた(笑)。
- 幡野
- ありがとうございます(笑)。
- 糸井
- もちろん「ほぼ日」の誰かが編集して、
それを「ほぼ日」から出版することも考えたんだけど、
もしも古賀さんがまん中に入ってくれるのなら、
それがいちばん間違いないですから。
・・・・もう、出版社も決まったんですよね?
- ──
- はい。ポプラ社さんに。
何人かの編集者さんに声をかけて、
幡野さんとこの本に誠実に向き合ってくださる、
最適な編集者さんが見つかりました。
- 糸井
- これは偶然なんだけれど、
ぼくらも前々から「死」をまじめに考えるコンテンツを
つくろうとしていたんですよ。
- 幡野
- へええ、そうだったんですか。
- 糸井
- それはやっぱり、ぼく自身が
だらだらと延命治療で生かされるのはつらいな、
という思いがあって。
- 幡野
- たまらんですよね。
- 糸井
- だから、それこそいろんな方に取材して、
最終的にはじぶんの意識がしっかりしているうちに
「ここまでは、こうしてほしい」とか
「これ以上のことになったら、こうしてくれ」とか、
そういう意思表示のノートがつくれるくらいの
コンテンツになればいいなと思っていて。
- 幡野
- ああー、いいですね、それ。
- 糸井
- そうしたら幡野さんが、
やっぱり終末医療についても触れていましたよね。
だから、若い人よりも少し余計に、
幡野さんの気持ちがわかるつもりです。
- 幡野
- そうですね。
取材を進めるほど、
これは医療現場だけじゃない、
家庭環境や教育を含めた
社会全体の問題なんだと痛感していて。
- 糸井
- まさに、そうですね。
- 幡野
- だから、
この本を出すことによって、
息子がおとなになるまでのあいだに、
少しでも生きやすく、暮らしやすい
世のなかになっていればいいな、
と思っているんです。
- ──
- これまで何名くらいの方々に
インタビューされたんでしょう?
- 幡野
- 本に掲載できるのは数名だと思いますが、
ぜんぶで30名くらいの方々に。
- ──
- SNS上でも、すごい数の相談ごとを
受けていらっしゃいますよね。
ほとんど人生相談のような。
- 幡野
- そうですね。たくさんいただきますね。
ひとつ不思議なのは、
同じガン患者やそのご家族だけではなく、
たとえば過去に犯したじぶんの犯罪について、
切々と打ち明けてくださる方もいたりするんです。
あるいは、
家族や恋人にさえも言えないような秘密とか。
- 糸井
- ああー、なるほど。
- 幡野
- いまだに理由がわからないんです。
周囲に話せる人がいないのか、
このままひとりで抱えて生きていくのが苦しいのか。
- 糸井
- この人には言っても大丈夫だ、
と思わせるなにかが幡野さんにあるんでしょうね。
- 幡野
- うーん。みなさん真剣だし、
嘘をついていないのはすぐにわかるし、
ぼくも耳を傾けているんですけど。
とはいえ、面識もなく、
ジャーナリストでもないぼくに、
そこまで話してくださるのが、
ほんとうに不思議で。
- 糸井
- ひとつ、考えの端緒として思い当たるのは、
幡野さんが持つ「弱さの価値」じゃないでしょうか。
そういう話って、「強い人」には言いにくいでしょう。
- 幡野
- ああー。
- 糸井
- 病気というのは、
ある種「弱さ」の表現になりますから。
- 幡野
- ・・・・うすうす、そう感じることがあります。
- 糸井
- 弱い者同士でしか
通じ合えないなにかって、ありますよね。
ぼくもいろんな「秘密」を
打ち明けられちゃうタイプなんですよ。
じぶんなりに理由を考えると、
ひとつにぼくは口が堅いんです、こう見えても(笑)。
言っていいことと悪いことの区別は、
わりとやっている自覚があって。
- 幡野
- ええ。
- 糸井
- でも、もしかすると
ぼくの「弱さ」を見抜かれていたのかもしれませんね。
「お前もわかるだろ?」って。
- 幡野
- なるほど。
そうですね、なんとなくじぶんには
「この人は墓場まで持っていってくれる」
という安心感があるのかな、
と感じることはあります。
「弱さ」は、たしかにあるでしょうね。
- 糸井
- ねえ。
言ってることもやってることも、
こんなに強いのに(笑)。
- 幡野
- ははは(笑)。
自殺をしなくて本当によかった。
あそこで死んでいたら、当たり前だけど今はない。
人生を生きる意味はまだわからないけど、
生きる価値はあるものだと僕は感じている。
それでもいつでも死ねる手段を持っていたことが
心の支えになっていたことも否定できない。
だから僕は自殺を否定もしないし、
安楽死は必要だとも思っている。
- 糸井
- あのね、
これはほんとうにおもしろい話で、
同年代の人たちと一緒にいると、
もう無限に生きるようなつもりで
いくらでもしゃべっちゃうの。
同い年の、前川清さんといるときなんかが、
とくにそうなんだけれど(笑)。
- 幡野
- へええ、いいですね。
- 糸井
- 年寄り同士でつるんでいると、
じぶんの年齢に気がつかないんです。
でも、そこにひとりでも若い人が入ると、
ぜんぶわかっちゃう(笑)。
- 幡野
- ああー、そうか。
なるほど。
- 糸井
- 単純にさ、
年齢が進んでいくほど、お別れは近くなるんですよ。
べつに余命何年と言われたわけじゃないけれど、
3年後だっておかしくないじゃないですか、
ぼくなんか。
- 幡野
- そうですね、年齢だけでいえば。
- 糸井
- 日本人は平均寿命が長いといっても、
女性と男性ではずいぶん違いますからね。
なんとなくみんな、
80何歳が平均寿命だと思っているけれど、
男性は80歳ですから。
- 幡野
- ええ。
- 糸井
- そうすると、あなた。
10年ですよ、ぼく。
- 幡野
- けっこうあっという間ですよね、10年は。
- 糸井
- ぼくが10年で、幡野さんが3年で、
それだって平均の数字でしかないわけですから。
うかうかしてられないですよ。
- 幡野
- ははははは。
- 糸井
- だからいま、
ぼくは目盛りをつけるように、
手帳に日記を書いています。
- 幡野
- へええ。
- 糸井
- これまで、ぼくのほぼ日手帳は
「思いつきノート」だったんです。
でも、いまは思いつきとは別に、
その日のことをなんでもいいから書いて、
目盛りをつけていっていますね。
- 幡野
- なるほど。
- 糸井
- そうしないと、ぐずぐずになっちゃうから。
ベトナムに行きたいと思っていたのに、行けなかったとか。
だから、幡野さんがこれから撮っていく写真も、
ぜんぶ目盛りですよね。
- 幡野
- そうですね。
同じ時間と空間を過ごした証が、写真なので。
- 糸井
- ぼくはそんなに写真を撮ってないけれど、
亡くなった犬の写真は何万枚とあるわけです。
撮っているときには、
「毎日同じような写真ばかりじゃないか」とか、
「もういい加減にしろよ、おれ」とか思っていたのに、
いま見返すとぜんぶ違って、ぜんぶいいんですよ。
- 幡野
- ああー、わかります。
- 糸井
- もう、ぜんぶいいんです。
そしていまの写真は日付も残るでしょう。
- 幡野
- そう、日付がまたいいんですよ。
- 糸井
- まさに目盛りですよね。
その「ぜんぶいい」は、ちょっとすごいです。
写真はほんとうに、どれだけ撮ってもいいですね。
(つづきます)
2018-09-05-WED
幡野広志さんのはじめての本
ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。
著:幡野広志
出版社:PHP研究所
価格:1512円(税込)
ISBN: 4569841252
ガン(多発性骨髄腫)で
余命宣告を受けた35歳の父が、
2歳の息子さんに伝えたい大切なこと。
写真家であり、元猟師でもある
幡野広志さんのはじめての本。
幡野広志 作品展
「優しい写真」
開催日時:11月2日(金)~15日(木)
場所:
ソニーイメージングギャラリー
開館時間:11時~19時
(※最終日やイベント開催時に
閉館時間が早まる場合あり)
定休日:なし
(※銀座プレイス休館日を除く)
入場:無料
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN