33の悩み、33の答え。

読者から寄せられた
数百の悩みや疑問から「33」を選びました。
そして、それらの悩みや疑問に、
33人の「はたらく人」が答えてくれました。
6月9日(火)から
毎日ひとりずつ、答えをアップしていきます。

Q011

なやみ

どうしたら「ポジティブ思考」になれますか。

(31歳・事務)

手に職もなければ資格もない、高卒のわたし。シングルマザーとして娘を育てるためのお金が必要。現状、ギリギリの生活。自分の立場と月給を見るたび、もっと稼げるのではないか、もっとはたらきたい、でも子どもとの時間も失いたくないし……という思いがかけめぐるだけで、お金も余裕もなく現状を変えられない自分に情けなくなります。気持ちを上手に切り替えてやっていくしかないのだろうけど、やっぱり難しい。どうしたら「ポジティブ思考」にシフトできますか?

こたえ

自分のイキイキできる「居場所」が、
助けてくれると思います。
あと、ポジティブって言葉には、
まあまあ「ウソ」が含まれています。

こたえた人しいたけ.さん(占い師/作家)

しいたけ.
ぼくは、
この質問を読んで「おもしろい」と思ったんです。
──
おお、どうしてですか。
しいたけ.
状況的には、たいへんだと思うんです。

シングルマザーで、子育てをしながらはたらいて、
お金も必要で、子どもとの時間も必要で……。
──
ええ。
しいたけ.
こんなふうに切羽つまった状況だと、
たいがい
「わたしは、どうしたらいいでしょう?」って
聞いてしまいがちなんです。

でも、この人は
「どうしたら、ポジティブ思考になれますか」
って聞いてますよね。
──
そうですね、はい。
しいたけ.
ぼくは、そこに、
人としての「知性」を感じます。

学校の勉強とは関係ない、
「生きていくための智慧」というか、
そのようなものを。
──
漠然と「解答」を欲しているわけじゃなく、
状況を好転させるための「方法」を
手に入れようとしている感じがしますね。
しいたけ.
そう、ぼくは「運」とか「ツキ」について
ずっと考えてきたんですが、
ネガティブな状況からポッと抜け出せるのって、
こういう人が多い気がしますね。
──
へえ、そうなんですか。なるほど。
しいたけ.
でね、ぼくは「はたらく」って
「ありがとう」を集めることだと思うんです。
──
おお。
しいたけ.
というのも、
どうしても自分に自信が持てなかったり、
なんとかその場で
がんばらなきゃならないというとき、
唯一できることは
「自分の運を開いていく」ことだと思うんですよ。

こう言うと、
ちょっと胡散くさくなっちゃうんですけど。
──
いえいえ、そんなことないです。
しいたけ.
ぼくの家も両親が離婚していて、
シングルマザーで、子どもが3人いて……
つまり、いわゆる「貧乏」でした。

母は、
いくつか仕事を掛け持ちしていたんですが、
そのなかのひとつに、
お弁当屋さんがあったんです。
──
商店街のお弁当屋さん的な。
しいたけ.
ぼくは、その店のカレー弁当の味が、
忘れられないんです。
──
おいしかったんですか。
しいたけ.
たぶん、他の人が食べたら、
特別おいしいとは感じないと思います。
でも、たった400円のそのカレー弁当の味を、
ぼくは、忘れられない。

それは、うちの母が、
そのお店のことが大好きで、
お店の人たちからも必要とされていたから。
そのことが、
子ども心にもわかったからだと思うんです。
──
その思い出「込み」で、忘れられない。
しいたけ.
その場のみんなが大好きで、
自分も必要とされている。
そういう「居場所」って、
その人を、
困難な状況からでも救ってくれると思うんです。

だからこの人も、
まずは「居心地のいい居場所」や
「自分が必要とされる場所」を、
つくれたらいいのにって思います。
──
自分の居場所。それって、きっと
「職場」じゃなくてもいいわけですよね。
しいたけ.
そう思います。たとえば、
公園へ行ったら公園を褒めてやる。
「ここは、本当によけいなものがなくていいなあ」
とか(笑)。

つまり、こちらから好きになってあげたら、
場所のほうも「心を開いてくれる」と思うんです。
──
なるほど。
しいたけ.
写真家の幡野広志さんの言葉が心に響くのは、
相談者を
「孤独」から抜け出させようとしているからだと
思うんです。

たったひとりで考え込んでしまうと、
どうしても、悪い結果になってしまう。
やっぱり「孤独」というものには、
人は、最終的には「勝てない」と思うんです。
──
ああ‥‥。
しいたけ.
でも、誰かから
「ここでまた、あなたに会いたいです」
と言ってもらえるだけで、
困難な状況からも抜け出せるような気がします。

人から「必要とされている」という感覚ほど、
人の助けになるものはないと思うんです。
──
なるほど。
しいたけ.
人はなぜ、はたらくのか……という問いは、
ずっと昔から考えられてきたと思うんですが、
ひとつには
「誰かから必要とされるために」
みんな、はたらいているんじゃないかなあ。
──
その実感を得たいから。ああー……わかります。
しいたけ.
だって、どんな仕事でも、
100パーセント評価されるわけじゃないじゃないですか。

むしろ、仕事の「8割9割」は、
誰からも直接的には感謝されないと思うんです。
──
たしかに。
しいたけ.
それでも、ふと「あなたの仕事、すごくよかった」とか
「また一緒にやりましょうね」という言葉は、
その言葉をかけてもらった人にとって、
ものすごいエネルギーになるじゃないですか。
──
ええ、ええ。
しいたけ.
そういう瞬間があるから、今日の疲れが癒されて、
明日もがんばれる。

その連続が「はたらく」ということなのかあと、
この方の質問の文章を読んで、気づかされました。
──
ひとつ、むりやり「ポジティブになる必要」って、
あるんでしょうか。
しいたけ.
ああ、なるほど。
──
以前インタビューさせていただいたことのある人で、
世間的にはすごく成功されているし、
たくさんの人から憧れられているのに、
自己評価がものすごく低い、
おどろくほど
「ネガティブ思考」な方がいらっしゃいまして。
しいたけ.
へえ……。
──
その方を見ていると、
むりやり「ポジティブになろう」としてない姿に
惹かれるし、
ご本人の心の状態としても、
すごく自然なんだろうなあと思うんです。
しいたけ.
たしかに、「ポジティブ」には、
まあまあ「ウソ」が含まれてますからね。
──
あっ、すごい。そうだ。
しいたけ.
世の中は
「ポジティブな自分になれる技術」みたいなもので、
あふれてるじゃないですか。

たとえば
「出社する前に鏡を見ながら、
自分に100回好きだよって言う」とか。
──
わー、そうなんですか。
しいたけ.
まあ、今のは極端かもしれないけど、
似たような「テクニック」は、
たくさんありますよね。
──
ポジティブになる技術。
しいたけ.
でも、そうやって、
むりに「ポジティブな自分」を演じている人の
インスタとか、
ちょっと「バレる」と思いませんか。
──
ああ……そうかも知れない。
しいたけ.
だから「ポジティブ」って
「この人と話してみたいな」と思われにくい、
そういう「バリア」になってしまったりもする。

ある種の「武装」とでもいうのかなあ。
──
たしかに
「ポジティブのコロシアム」というような場が、
ある気がしますね。

そこで、
みんなが「ポジティブ」を競い合っているような。
しいたけ.
でも、そこで必死に戦いながらも、
心のなかでは
「400円のカレー弁当」が好きだったりするんです。
──
そのカレーは、インスタグラムには上がらないけど。
しいたけ.
だからやっぱり「ポジティブ思考」って、
社会のレースに負けないための武装、
「自分にちょっとウソをついた虚飾」
でもあるんだと思います。
──
武装、虚飾。はぁー‥‥。
しいたけ.
その意味で、ポジティブという「言葉」に
縛られすぎないほうがいいですよ。

自分の居場所をつくって、
そこにいる人たちに受け入れてもらえる、
必要とされることって、
本来ポジティブかどうかに関係ないですから。
【2020年3月12日 都内某所にて】

このコンテンツは、
ほんとうは‥‥‥‥。

今回の展覧会のメインの展示となる
「33の悩み、33の答え。」
は、「答え」の「エッセンス」を抽出し、
会場(PARCO MUSEUM TOKYO)の
壁や床を埋め尽くすように
展示しようと思っていました。
(画像は、途中段階のデザインです)

照明もちょっと薄暗くして、
33の悩みと答えでいっぱいの森の中を
自由に歩きまわったり、
どっちだろうって
さまよったりしていただいたあと、
最後は、
明るい光に満ちた「森の外」へ出ていく、
そんな空間をつくろうと思ってました。

そして、このページでお読みいただいた
インタビュー全文を、
展覧会の公式図録に掲載しようか‥‥と。
PARCO MUSEUM TOKYOでの開催は
中止とはなりましたが、
展覧会の公式図録は、現在、製作中です。

書籍なので一般の書店にも流通しますが、
ほぼ日ストアでは、
特別なケースに入った「特別版」を
限定受注販売いたします。
8月上旬の出荷で、
ただいま、こちらのページ
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和田ラヂヲ先生による描きおろし
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