33の悩み、33の答え。

読者から寄せられた
数百の悩みや疑問から「33」を選びました。
そして、それらの悩みや疑問に、
33人の「はたらく人」が答えてくれました。
6月9日(火)から
毎日ひとりずつ、答えをアップしていきます。

Q027

なやみ

人前で話すのが苦手です。

(25歳/広告企画)

人前で緊張してしまう性格です。とくにプレゼンの場など、クライアントやえらい人たちの前で話す機会があると、あたふたしてしまい、事前に考えていたことの半分も言えません。少しでも突っ込まれるとグダグダになってしまい、深い自己嫌悪に陥ります。たとえば、人前で話すようなお仕事の方は、どういう工夫や努力をしているのでしょうか? そもそも、人前で話す仕事の人は、そういうことが得意な人ばかりなのでしょうか。だとしたら、今の仕事は自分には向いていないとさえ思ってしまいます。

こたえ

「人前で話すのが苦手な人」って、
「怖さ」を知っている人。
「何が足りないか」を考え続けられる、
「すごい人」だと思います。

こたえた人山里亮太さん(南海キャンディーズ)

山里
この方、「人前で話すのが苦手です」って、
「だから自分はダメ」みたいにおっしゃってますけど。
──
ええ、自信をなくしているようですね。
山里
ぼくは「人前で話すのが苦手な人」って、
ある意味「すごい人」だと思ってるんです。
──
えっ……すごい人。
山里
はい。
──
どうしてですか。
山里
だって見方を変えれば、
めちゃくちゃ「繊細な人」だからです。

この方、
「自分がこう言ったら、
その場の人たちはどう思うだろう」
みたいなことを、
とてつもない量で考えてるんだと思うんです。
──
なるほど!
山里
そんなつもりないかもしれませんが、
その場全体を俯瞰でとらえたり、
相手の立場に立って考えたり、
そんなことをいちいちやってるんだと思います。

そういう人だからこそ
「人前で話すことに苦手になれる」
んじゃないかと。
──
「苦手になれる」って、新鮮な響きですね。
山里
人の気持ちを慮ったり、
自分の意見を引いて眺めたり。

客観視のセンスに長けているというか。
そういう人であればあるほど
「人前で話す」のは、苦手になりますよね。
──
たしかに、そうかもしれません。
山里
だって、なんかホラ、
逆に「得意な人」っているじゃないですか。

めちゃくちゃ堂々とプレゼンしてくる人。
──
ええ。映画の中のアメリカの大統領みたいな。
山里
そういう人のほうが、
ちょっと……みたいな気持ちになること、
ないっスか?
──
自信満々すぎて、逆に信用ならない感じ(笑)。
山里
そうそう。ぼくは、そういう人より
「人前で話すのが苦手で……」って
一生懸命に話してくれる人のほうが、
好感が持てますけどね。
──
ああ、人としての好感。わかります。
山里
同じようなことを、
昔……「いいとも」をやらせてもらってたとき、
タモリさんに言われたことがあるんです。

「人見知りって、すごい才能なんだよ」って。
──
わあ、そうなんですか。
山里
はい。
「何よりもまず、
まわりの人がどう思うかを考える優しい人が、
人見知りなんだ」って、タモさんが。
──
へえぇ、優しい人。
山里
うん。で、あるならば
「人見知り」は「弱点」じゃなく、
むしろ「武器」だと思ったほうがいい。

つまり
「そう思うのなら、
じゃあ、自分は何をしたらいいんだろう?」
ということを、
瞬時に考えて実行できる人が、
この業界で売ってる人なんだ……って
教えてくださったんです。
──
「人見知り」とは「考えまくってる人」でもあると。
山里
そう。この「人前で話すことが苦手」な人も、
同じだと思うんです。

最後の最後まで
「この企画、おもしろくないかも」って気をもんでいて、
ずーっと
「何が足りてないのか」を考えまくっていて、
人前に立つ直前まで
「細かいチューニング」をし続けられる人。
──
そういう人だからこそ「人前で話すのが苦手」だと。
山里さんご自身は、どうですか。
山里
ぼくも得意じゃないですよ、人前は。
めちゃくちゃ人の顔色を見るタイプですし。
──
あ、そうですか。
山里
だからいつも反省ばっかりしてるんです。
あの返しダメだったなあとか、
あの人のコメント、どういう意味だったんだろうとか。
まあまあ、ウジウジしてます。

でも、そこで「だから自分はダメなんだ」じゃなくて
「じゃあ、次はどうしたらいいだろう?」
と自分に問いかけることで
「燃料」にしている感じです。
──
なるほど。
つまり「反省できる人」でもあるんですね。
山里
あ、そう言えるかもしれないですね。
──
でも、そういう部分って、
人前に出るお仕事をはじめても
「直る」ようなもんじゃないんですか。
山里
ぜんぜんですね。ずーっと緊張してます。
──
はー……そういうものですか。
山里
ライブとか、
これまでに何百本やらしてもらったんだって
感じですけど、
いまだにガッチガチに緊張してます。

それどころか、出番直前に
イヤになることさえありますから、正直。
でも、それでも、
いっぱいいっぱいでやった結果、
お客さんが笑ってくれたり、
よろこんでくれたときのうれしさがあるから。
──
また次も、
人前に立って、しゃべってらっしゃる。
山里
その繰り返しです。
──
どんな仕事でも、長く続けていると
「慣れ」が出てくると思うんです。

それでも「緊張感、ドキドキ感」は、いまだに。
山里
ありますねえ。
これも、タモさんに教わったことなんですけど。
──
ええ。
山里
「緊張できる場所があるって、幸せなことだぞ」
って。
──
わあ、すごい。ほんとだ。
山里
だって、緊張しない仕事じゃ本気になれないし、
事前の準備だってたいしてやらないでしょ。

それで「ハイ、一丁上がり」って
数だけこなしていっても、
そんなつまんない仕事ないですよ。
──
わかります。
山里
反対に、緊張のおかげで、念入りに準備して、
台本も読み込んで、
ギリギリな感じで現場に立つときのほうが、
結局やってて楽しいんです。
──
自分も、今のこの仕事で
合計「33人」に取材しなきゃなんないので、
毎日毎日「こわい目」にあってるんです(笑)。
山里
えっ、ああ、そうなんですか?
──
いや、つまり「こわい」というのは
「緊張」という意味なんですが、
それがないと、
仕事が「ぬるく」なっちゃう気がします。

おっしゃるように。
山里
そう、そうだと思いますよ。ほんとに。

だから、人前が苦手とか、緊張するとか、怖いとか、
そうやってちゃんと思える人の仕事って、
やっぱり、ちゃんとしてるんじゃないかなあ。
──
あの、山里さんって、
たくさんノートを書かれてるじゃないですか。
山里
はい。
──
そのことも、今の話に関係してると思いますか。
山里
ああ、あれも自分に自信がないからやってるんで、
そうかもしれない。
──
自分に自信がないんですか。
山里
ないですよ。
──
そうなんですね、そういうもんかあ。
山里
ないです。だから「ノートをつける」ことで
「自信のなさ」を埋めてるんです。
──
はああ。
山里
どうにかこうにか、つじつまを合わせてます。

自分はもともと、
いろいろ上手にできるタイプじゃないので、
つねに襲ってくる
「できない、向いてない、不安だ……」
という気持ちを抑えるために、
やってることなんです。
──
ノートを続けて、
よかったなあと思うことって、何ですか。
山里
ほんの少しですが
「本番の緊張」を和らげてくれたり、
本当に失敗したときに、
立ち直る助けになってくれたりとか。
──
書きはじめたのは、いつからですか。
山里
この世界に入ってすぐ、くらいですかね。
養成所のころからやってるんで。
──
じゃあ、もう「20年」くらい。

でも、逆に言うと、ノートをとったり、
文章を書くのが好きだったりしたわけでは……。
山里
ないです。ぜんぜん。

ノートに限らずですけど、
何かが好きになれる人って、
それだけで天才だと思いますし。
──
天才。
山里
つまり「努力」じゃなくて
「好き」で行動できる人というか。
──
ああ、好きは天才。なるほど。
山里
ぼくは、それができない「凡人」なんです。

でも「好き」ではできないけど
「努力」で続けさえすれば、
結果的には
「天才」と同じところに立てるかもしれないと。
──
おお。
山里
信じて。というか、自分に言い聞かせて(笑)。
──
『天才はあきらめた』というご著書もありますね。
山里
そう、あきらめたんですよ。
だから、足りないところは「続けること」で
埋めるしかない。

ノートをつけることって、
ある意味で
「逃げない」ための行為なのかもしれないです、
自分にとっては。
──
それで、妄想で日記をつけたりとか……。
山里
そう、その中で、
ありえない芸能人とデートしたりしてました(笑)。
──
山里さんって、これから、
キャリアとしても年齢としても
「中堅」に差し掛かってくるわけですよね。
山里
そうなんでしょうね。もう、そろそろ。
──
今みたいな相談を、
若手芸人の方から持ちかけられるケースも
出てくるんじゃないですか。
山里
はあ~。
どうかなあ。ないんじゃないスか?(笑)
──
でも、かつての山里さんが
タモリさんに教わったように、
今の山里さんのお話は、
いろいろ悩んでいる若い人に、
すごく響くと思うんですよ。
山里
あ、そうですかね。

でも、
若手には悩んで困って滅んでほしいんで、
何もしないですね(笑)。
【2020年3月25日 渋谷区神南にて】

このコンテンツは、
ほんとうは‥‥‥‥。

今回の展覧会のメインの展示となる
「33の悩み、33の答え。」
は、「答え」の「エッセンス」を抽出し、
会場(PARCO MUSEUM TOKYO)の
壁や床を埋め尽くすように
展示しようと思っていました。
(画像は、途中段階のデザインです)

照明もちょっと薄暗くして、
33の悩みと答えでいっぱいの森の中を
自由に歩きまわったり、
どっちだろうって
さまよったりしていただいたあと、
最後は、
明るい光に満ちた「森の外」へ出ていく、
そんな空間をつくろうと思ってました。

そして、このページでお読みいただいた
インタビュー全文を、
展覧会の公式図録に掲載しようか‥‥と。
PARCO MUSEUM TOKYOでの開催は
中止とはなりましたが、
展覧会の公式図録は、現在、製作中です。

書籍なので一般の書店にも流通しますが、
ほぼ日ストアでは、
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8月上旬の出荷で、
ただいま、こちらのページ
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和田ラヂヲ先生による描きおろし
「はたらく4コマ漫画」も収録してます!
どうぞ、おたのしみに。