ハヤマックス先生。
──
大好きだった女性にキツいフラレ方をし、
ソテツの種にも無視されながら、
それでも水やりを続けていたハヤマくん。
9ヶ月後、ソテツの芽が出るのと同時に、
月刊の漫画誌で、まさかの連載開始‥‥。
ハヤマ
自分でも驚いています。
──
ソテツが、幸せの女神みたい。
ハヤマ
振り向いて微笑んでくれるまでに、
9ヶ月かかりましたが‥‥。
──
それでは、今では、
がんばってマンガを描いているんですか。
ハヤマ
はい、音響の会社づとめとの両立なので、
たいへんはたいへんなのですが、
自分的には、がんばっているつもりです。
ただ、「ハヤマックスのスキマックス」
というタイトルどおり、
他の先生方の連載の隙間のスペースに
載せてもらっているので、
はじめから
「毎月かならず載るとは限らないから」
と、言われているんです。
──
おもしろくなかったら、載らない?
ハヤマ
たぶん、ぼくの漫画より
もっとおもしろいコンテンツがあれば、
真っ先に切られるページです。
幸いにして、掲載ゼロだったことは、
今のところないんですけど。
──
ちょっと検索してみてもいいですか?
(iPhoneで検索する)
「ハヤマックスのスキマックス、
毎号掲載の保証なし!」
「ページ数は、そのとき次第!」
「もはや連載と呼んでいいのか微妙な
スキマ連載スタート!」‥‥。
ハヤマ
そのとおりです。
──
じゃあ、ようするに
「あ、今月も載った」「今月も載ったぞ」
ということを、
毎月、繰り返してるってことですか。
ハヤマ
ええ、「次号は載るだろうか‥‥」
という不安に、ずっとさいなまれています。
いちおう、発売の前に「何ページ載る予定」
という連絡はいただくんですが、
なんせ「空きページのスキマ連載」なので
「やっぱり載らなかった」
ということも、十分あると思っています。
──
つまり、全ボツの可能性さえ覚悟しながら、
静かに発売日を待っている‥‥と。
ハヤマ
毎回、発売日に書店に買いに走って、
この目で掲載を確認するまでは、
不安と緊張で、倒れそうなほどです。
──
ハヤマくん、どうぞ、お身体お大事に‥‥。
ハヤマ
次号は載るかのか載らないのか、
掲載は何ページになるのかも定かでないので、
そもそも、今月は
いったいどれだけ描けばいいのか‥‥とか。
──
どうしてるんですか。
ハヤマ
描けるだけ描いて、送っています。
拾ってくださった編集さんからも、
ただ「どんどん描いて送ってね♡」とだけ、
言われていますので。
──
ハヤマくん、すみません。
インタビューをお願いするにあたって、
ぼくは、
「9ヶ月間、水やりを続けた」ことは
すごいことだと思いつつ、
「窓辺のソテツの種に
ジョウロで水をやればいいだけだし、
稲を育てるのに比べたら、
あんがい、やればできるのかな?」
と思っていたフシがあるんです。
ハヤマ
ええ、実際そのとおりです。
お聞きしたみたいに
「真夏の暑い盛りでも、毎朝出社前に
ビルの屋上まで
60リットルの水を運び上げる」
ことに比べれば、ぜんぜんラクですよ。
──
水やり自体は、そうかもしれないです。
でも、載るかどうかわかりませんと、
あらかじめ読者にさえ宣言されている
「スキマの連載枠」に、
毎月毎月、
描けるだけ漫画を描いて送ってるって、
ものすごいことですよ。
ハヤマ
そうでしょうか。
──
冒頭で「稲の水やりって大変なんです」
と言った自分が、
ものすごく恥ずかしくなってきました。
ハヤマ
奥野さん、冷静になってください。
ものごとの種類が違うと思います。
ただ、急に打ち切りになったりしても
ぜんぜんおかしくないので、
毎回「必死」ということではあります。
──
引き続き、会社員もやってるんですか。
ギャグ漫画家大喜利のころは
フリーランスの立場で
漫画家さんのイベントを企画している、
痩せてはいるが気合の入った青年、
という認識だったんですけれど。
ハヤマ
はい、でも、続けていくうちに、
やっぱり、
月々の固定給がないと難しいなあって
思うようになりました。
映画って、何かとお金がかかりますし。
──
え、映画、またやってるんですか?
ハヤマ
いま、同時に3本、動いています。
──
売れっ子プロデューサーじゃないですか!
ハヤマ
いや、まったくそんなことはなくて、
行きがかり上‥‥。
──
「行きがかり上プロデューサー」である、と?
ハヤマ
ほんとに流れで、そうなってしまって。
その3本の映画についても、
この子(=ソテツ)の芽が出て以降に、
いろいろ決まってきたので、
うまく成り立たせていきたいなあ、と。
──
あの‥‥ハヤマくんは
「宝の下駄」という昔ばなしのことを、
ご存じでしょうか。
ハヤマ
いえ、知りません。
──
打ち出の小槌みたいに
小判がザクザク出てくる「宝の下駄」を、
正直者が
ひょんなことから手に入れるんですが、
ごうつくばりの親戚か誰かが、
むりやり奪って行ってしまうんですよ。
でも、その下駄、使えば使うほど、
使った人がちっちゃくなっちゃうんです。
ハヤマ
で、よくばって、小判を出しすぎて‥‥?
──
そんな教訓話が思い浮かぶほどです。
ソテツの種を手に入れた経緯も、
なんだか御伽ばなしみたいな感じですし。
ハヤマ
そうですね、たしかに。
──
でも、映画を3本も同時に動かすなんて、
いったい、どんな「行きがかり」が?
ハヤマ
『ソウル・フラワー・トレイン』が
映画化されたときに
「あいつ、
なんだかすげぇ漫画のこと詳しいぞ」
「しかも、
漫画家さんと直接知り合いらしいぞ」
というウワサが立ちまして。
──
そのこと自体は事実ですけどね。
ハヤマ
ええ、たしかにそうなんですけど、
映画プロデューサーをやれるかどうかは
別の話じゃないですか。
ただ、やっぱり、映画製作に当たっては、
さまざまな権利が関係してくるので、
原作者にOKを出してもらうってことが、
まずは、とても重要なんです。
──
そこが、ハヤマくんにしかできない仕事、
だったわけですね。
ハヤマ
ぼくはぼくで、
あんまり世間には知られてないんだけど、
もっともっと
たくさんの人に読んでもらいたい漫画が
あるので、
いろいろと企画書を書いているんですが、
そのうちの3本が、めぐりめぐって、
「じゃあ、やってみようか」と。
──
3本の映画を動かす、ハヤマP‥‥。
会社勤めのハヤマ平社員でありつつ、
スキマ連載の
ハヤマックス先生でもありつつ。
ハヤマ
いえいえ、先ほども言いましたけど、
漫画に詳しいってだけで、
映画の製作についてはド素人ですから、
話が大きくなっていったら、
ぼくの手元から
離れていってしまう子(=作品)も、
出てくるだろうとは覚悟しています。
──
そういうことも、あるのでしょうか。
映画なんて、大人の世界ですものね。
ハヤマ
規模にもよりますけど、映画って、
お金と時間と
たくさんの人の力が必要ですから。
──
それって、企画書を書いた本人としては、
どういう気持ちなんですか?
ハヤマ
ぼくは‥‥そうですね、
自分の大好きな漫画が映画されることが、
そのこと自体が嬉しいので、
「どうぞ、
よろしくお願いします」って感じです。
ぼくみたいな個人が、
どうにかできることでもないでしょうし、
そもそも、本格的な映画製作に
ガチに巻き込まれても、
何をどうしていいのやらわかりませんし。
──
産み落とした子の成長を、
木陰からそっと見守る慈母のようです。
ともあれ今日は、ソテツの種の話から、
失恋の話、マンガ家デビューの話、
そして
映画を同時に3本もつくっている話にまで、
話題がふくらむとは思いませんでした。
ハヤマ
ぼくもです。
──
この子の前で言うのもアレですが、
そもそも、ソテツってどういう植物かも
よくわかってなかったんですよ。
ハヤマ
ええ、ふつうはそうだと思います。
ぼくも、この子を育てはじめたときに
けっこう調べましたけど、
育ててる人、あんまりいないみたいで。
──
でしょうね。こんなに大きくなるしね。
どこかヤシの木と似てる雰囲気だけど、
ヤシの木の場合は、
もっとメジャー感ありますよね。
ハヤマ
その点ソテツは、あまり華がないかも。
──
より原始な雰囲気ありますよね。
ハヤマ
そうそう、ヤシの木といえば、
将来、この子を植える
スパイスガーデンをつくろうと思って、
スリランカに
勉強に行ってきたって言いましたけど、
そこで、
ちょっとおもしろい話を聞いたんです。
──
ほう。
ハヤマ
スリランカという国では、
ヤシの実で、お酒をつくるらしいんです。
ふつう、ヤシの実といえば
ココナッツジュースを思い浮かべますが、
ヤシのお酒の場合は、
実のなる部分をバーンと切って、
幹を荒縄でムギューッときつく縛って、
ムチみたいな棒で
バンバン叩くって方法らしいんです。
──
女王様になった気持ちで。
ハヤマ
ええ。すると、ヤシの木が怒るんですって。
──
感情があるんですか、木に?
ハヤマ
切られ、縛られ、叩かれたヤシの木が
「痛ぇな!」って怒ったときに、
ビクって、なんか汁を出すんですって。
──
へぇ。
ハヤマ
その汁にアルコール分が含まれていて、
最終的には、
マッコリみたいなお酒になるって。
──
木を怒らせてつくる、ヤシのお酒。
ハヤマ
そんなこともあって、
スリランカのスパイスガーデンの人は
「木には感情がある」
という前提で、話をしていたんです。
──
それじゃあ、あるいは、この子にも‥‥。
ハヤマ
日によって、葉っぱがシワシワになったり、
元気みなぎる感じでパーンと葉を張ったり、
いっしょにいると、
感情があるようにも見えます。
──
お名前は?
ハヤマ
それが、まだ付けていないんです。
なんでだろう‥‥
誰かに紹介する機会もなかったので。
──
ま、このぶんだと、そのうちつきますね。
ハヤマ
そうですね、ソテツですから、
ソテ、テ、テ、テ‥‥。
──
いま無理矢理つけなくてもいいです(笑)。
ハヤマ
今日は、はじめてお散歩させたんですよ。
──
女の子ですか、男の子ですか?
ハヤマ
男の子ですね。
──
え、意外。
ハヤマくんの「溺愛っぷり」からすると、
娘さんかなあと思ってたので。
ハヤマ
男の子ですね。
どっちかというと、ちっちゃい同志です。
──
じゃあ、お嫁にとられる心配はないか。
ハヤマ
ええ、ハハハ!
──
‥‥いい年した男ふたりの会話としては、
いささか妙な感じになってきたので、
そろそろこのへんで、終わりましょうか。
ハヤマ
そうですね。
──
これからも、仲良く暮らしてください。
ハヤマ
ありがとうございます。
この子が、いつの日か
大地へしっかり根を下ろすことできるよう、
いまはとりあえず、
仕事と漫画と映画をがんばります。
──
恋は?
ハヤマ
いつか良いご報告ができるように‥‥えぇ‥‥。
<終わります>
現在の「巴山くんの蘇鉄」のようす。
茎(?)も2本に増え、
「ちょっとやそっとじゃ折れないどころか、
刺さりそうな感じです」とのこと。
(2016年1月27日 ハヤマくん撮影)
©ハヤマックス/白泉社
(月刊誌『ヤングアニマル嵐』掲載)