糸井 今、ぼくらがすすめている
「気仙沼ニッティング」プロジェクトのヒントを探しに
こないだ、アイルランドに行ってきたんですよ
セーターを売るお店に行ったんですけど、
お店の人が、
セーターを編んでいる人に対しての気持ちを、
「Appreciate(アプリシエイト
 =ありがたく思う・感謝する)しています」
と表現していました。
それを聞いて、とてもいいなぁ、と思ったんです。

アンリ ああ、なるほど。
糸井 「Appreciate」というのは、
「Thanks(サンクス)」より、
もっと敬いの要素が入った言葉みたいですね。
この言葉が、これからの時代、
ものすごく大事なキーワードになると思っています。
アンリ イタリア語でも、同じような意味として
「Apprezzare(アプレッツアーレ)」、
「Apprezzamento(アプレッツァメント)」という
言葉がありますよ。
糸井 なんか、そういう言葉がものすごく大事だなぁって。
アンリ ぼくも、3年前に、南青山にある
〈HENRY CUIR(アンリークイール)〉のお店で
ワークショップをはじめてやったんですけど、
やっぱり、実際に自分の手で革に触れて、
縫ったりすることって大事ですね。
失敗してしまうこともあったり、
刺繍を自分なりにアレンジしてみたり、
いろんな可能性があるから、
自然とつくっている人に情熱が出てくるんです。

糸井 それは同時に、
ユーザーを育てることでもあるんですよね。
買い手の人もつくってみたほうが、
より「Appreciate」できますから。
アンリ ワークショップのあとは、
「手がこんなに痛くなるなんて、
 思っていませんでした。
 ほんとうにたいへんなんですね。
 これなら、値段が高いのもうなずけます」
って、みんな言ってくれます。
糸井 それはまさに、「Appreciate」ですね。
気仙沼のことでは、こんなことも考えてるんです。
気仙沼は漁師町なので、
市場に魚がたくさんあがってくるんですよ。
そこを、築地市場のように
見学できるようにしたいなぁと思っているんです。
見学しやすくて、たのしい市場。
今は仮に、「気仙沼おもしろ市場」って、
呼んでるんですけど。
アンリ おもしろそうですね!
糸井 仕事をしている人の邪魔にならないように
見学用の特殊な通路がある。
例えば、足下が透明なアクリル板になっていて
下をのぞくとセリが見えるようになっていたりね。
そして、市場を一周したあとには、
おいしいご飯を食べるところがある。
しかも、働いている人は、
人に見られるっていうことで
自分の仕事に誇りが持てますよね。
つまり、「Appreciate」される。

アンリ なるほど。
お互いにとって、すばらしい。
糸井 たぶん、以前と同じ漁師町に戻すだけだと、
今後、どんどん衰退していくと思うんです。
だから、もともとある漁業に
アイディアを足していって、
自然や食べ物の豊かさが表現できれば、
きっと、いろんなところから人がやってくる。
そういうことは、気仙沼の人たちだけでなく、
ぼくらも一緒に考えたほうが
いろんなことができるんじゃないかな、と
思っています。
アンリ ええ、ぼくもそう思いますね。
そして、このような新しい取り組みは、
若い人たちの興味を
かき立てることにもなると思います。
糸井 そうなんです。
アンリさんがよければ‥‥なんですけど、
いずれ、外国人の目から見た気仙沼の名物を
つくってほしいと思ってるんですよ。
アンリさんの革製品は気仙沼にしか売ってないだよって
言われたら、すごくうれしいと思うんです。
アンリ Certo!(それはいい!)
絶対にやりましょう。
ああ、どうしよう、何をしようかな。
フミコさん
(アンリさんの
 奥さん)
うふふ。アンリ、やる気満々ですよ(笑)。
糸井 よかった(笑)

(つづきます)
2012-09-14-FRI
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