糸井 | たぶん、この対談が掲載されるころって、 2011年の「ほぼ日手帳」が 発売されてるころだと思うんですけど、 「ほぼ日手帳」に毎年、 掲載させてもらっている 池谷さんのことばがあって。 |
池谷 | ああ、はい。あれですね。 |
糸井 | 「やりはじめないと、やる気は出ません。 脳の側坐核が活動すると やる気が出るのですが、側坐核は、 何かをやりはじめないと活動しないので。」 このことばは、読んだ人から、 毎年、すごく反響があるんです。 基本的には、手帳に掲載する 「日々のことば」というのは、 その前の年の「ほぼ日」のコンテンツから 抜粋することになっているんですけど、 このことばは、もう、殿堂入りみたいなもので。 |
池谷 | ありがとうございます(笑)。 そういう、やる気の話題でしたら、その後、 積極性に関するおもしろい実験データがあって。 |
糸井 | おお、ぜひ。 |
池谷 | 私が「脳はそんな仕組みで‥‥」と、 ことばで説明するより、 ネズミの脳の、たった1個のニューロンが 示す挙動のほうがはるかに雄弁なことがあるんです。 たとえば、ネズミのヒゲ。 あのヒゲって、ものすごく敏感で、 人間の人差し指の先くらいの 感度があるみたいなんです。 だから、ヒゲでちょっと触れただけで、 それがザラザラしたものか、ツルツルしたものか、 判断できるみたいなんです。 |
糸井 | ほーー。 |
池谷 | つまり、脳の反応が違うんですね。 ヒゲに対応した脳部位から ニューロンの発火を記録していると、 ザラザラしたものにヒゲが触ったときと、 ツルツルしたものに触るときで、 ニューロンの反応パターンが異なるわけです。 この実験やってるとおもしろいことがわかって、 ときどきなんですけど、 ヒゲに触ろうと、ものを近づけると、 ネズミが自分からヒゲを動かして 触りにくることがあるんですよ。 で、このときの脳の反応が、 ただ触れられたときより、10倍ぐらい強いんです。 |
糸井 | へぇぇ(笑)。 |
池谷 | 単なるニューロンの電気化学応答なんですけど、 ものすごく雄弁じゃないですか。 |
糸井 | つまり、受け身でいるか、自分から行くかで。 |
池谷 | そう。まったく違うんです。 だから、たとえば、 ある事実なり情報なりを知るとして、 授業かなんかで受動的にそれを知るときよりも、 自分が身体を動かして 積極的にその情報を得に行ったときのほうが、 脳が敏感に反応するんですよ。 |
糸井 | わっちゃー(笑)。 |
池谷 | 相手に知っておいてほしいことや、 覚えておいてほしいことがあったら、 それを押しつけるよりも、 ただ、まわりにこう、 置いておくだけでいいのかな、と。 |
糸井 | 置いておく。 それに自分から触ってもらうようにする。 |
池谷 | そう。 置くって勇気いるじゃないですか。 気づいてくれなかったら それで終わっちゃうから。 でも、気づいてもらったときの脳への効果は抜群。 |
糸井 | それは、あれだな。 すごく遠いことかもしれないけど、 日本に昔からある、 鬼門に美しいものを置くことで邪気を払うとか、 あと、風水の、水が溜まるような器を しかるべき場所に置いておくと お金が貯まるようになるとかっていうのも、 どこかで関係するのかもしれない。 鬼門に桜を植えただけで 悪いものが入れなくなるとかね、 「ウソだーい」って思うけど、 なくはないと思うんですよね。 だって、そういう話を自分が知っててね、 ある場所に攻め込もうとしたとき そこにきれいな花が咲いてたらね、 やっぱり、反応しちゃうと思いますよ。 |
池谷 | そこに置いておけば、 相手は自分から積極的に それに触れることになりますからね。 |
糸井 | より強いイメージになりますよね。 だから、よくなると言われてるものとか、 たんに明るい気分になるものを置いておいて、 自分から自然とそれに触れるようにすれば、 やっぱり、わずかかもしれないけど、 なにかが変わってくるような気がする。 |
池谷 | 「イデオモーター」っていう現象もありますしね。 |
糸井 | なんですか? |
池谷 | 日本語でいうと、観念運動。 すっごく強く念じていると、 そういうふうに体が動いてしまう現象です。 |
糸井 | それはあれですか。 もう、現代の科学で、存在すると 認められているようなものですか。 |
池谷 | あ、そうです。 たとえば、微妙な例でいうと、 「コックリさん」。 |
糸井 | はい、はい。 |
池谷 | これは、認めている研究者と 認めていない研究者がいるんですけど、 ようするに、まぁ、すごーく強く念じると、 やっぱり指先が動くんですよね。 あと、わかりやすいのは、 五円玉に糸を通して、指先に吊るして、 その五円玉が回っているところを 強く念じると、だんだん回りはじめるっていう。 |
糸井 | ああ、なるほど。 |
池谷 | 昔は、「念力が‥‥」とか言ってたんですけど、 そうじゃなくて、要するに、 無意識に筋肉を動かしてるんですね。 |
糸井 | 動かしてるっていう事実が先にあって、 考える側がそれに従っているともいえますね。 |
池谷 | そうともいえそうですね。 |
糸井 | ですよね。 それって、あれですね、さっき話した、 「身体が先で、意識があと」 っていうことと‥‥。 |
池谷 | そうですね。まさにそうなんです。 |
(つづきます) |
|
2010-10-01-FRI |