第5回 自分で積極的に動いたときの反応は10倍。
糸井 たぶん、この対談が掲載されるころって、
2011年の「ほぼ日手帳」が
発売されてるころだと思うんですけど、
「ほぼ日手帳」に毎年、
掲載させてもらっている
池谷さんのことばがあって。
池谷 ああ、はい。あれですね。
糸井 「やりはじめないと、やる気は出ません。
 脳の側坐核が活動すると
 やる気が出るのですが、側坐核は、
 何かをやりはじめないと活動しないので。」
このことばは、読んだ人から、
毎年、すごく反響があるんです。
基本的には、手帳に掲載する
「日々のことば」というのは、
その前の年の「ほぼ日」のコンテンツから
抜粋することになっているんですけど、
このことばは、もう、殿堂入りみたいなもので。
池谷 ありがとうございます(笑)。
そういう、やる気の話題でしたら、その後、
積極性に関するおもしろい実験データがあって。
糸井 おお、ぜひ。
池谷 私が「脳はそんな仕組みで‥‥」と、
ことばで説明するより、
ネズミの脳の、たった1個のニューロンが
示す挙動のほうがはるかに雄弁なことがあるんです。
たとえば、ネズミのヒゲ。
あのヒゲって、ものすごく敏感で、
人間の人差し指の先くらいの
感度があるみたいなんです。
だから、ヒゲでちょっと触れただけで、
それがザラザラしたものか、ツルツルしたものか、
判断できるみたいなんです。
糸井 ほーー。
池谷 つまり、脳の反応が違うんですね。
ヒゲに対応した脳部位から
ニューロンの発火を記録していると、
ザラザラしたものにヒゲが触ったときと、
ツルツルしたものに触るときで、
ニューロンの反応パターンが異なるわけです。
この実験やってるとおもしろいことがわかって、
ときどきなんですけど、
ヒゲに触ろうと、ものを近づけると、
ネズミが自分からヒゲを動かして
触りにくることがあるんですよ。
で、このときの脳の反応が、
ただ触れられたときより、10倍ぐらい強いんです。
糸井 へぇぇ(笑)。
池谷 単なるニューロンの電気化学応答なんですけど、
ものすごく雄弁じゃないですか。
糸井 つまり、受け身でいるか、自分から行くかで。
池谷 そう。まったく違うんです。
だから、たとえば、
ある事実なり情報なりを知るとして、
授業かなんかで受動的にそれを知るときよりも、
自分が身体を動かして
積極的にその情報を得に行ったときのほうが、
脳が敏感に反応するんですよ。
糸井 わっちゃー(笑)。
池谷 相手に知っておいてほしいことや、
覚えておいてほしいことがあったら、
それを押しつけるよりも、
ただ、まわりにこう、
置いておくだけでいいのかな、と。
糸井 置いておく。
それに自分から触ってもらうようにする。
池谷 そう。
置くって勇気いるじゃないですか。
気づいてくれなかったら
それで終わっちゃうから。
でも、気づいてもらったときの脳への効果は抜群。
糸井 それは、あれだな。
すごく遠いことかもしれないけど、
日本に昔からある、
鬼門に美しいものを置くことで邪気を払うとか、
あと、風水の、水が溜まるような器を
しかるべき場所に置いておくと
お金が貯まるようになるとかっていうのも、
どこかで関係するのかもしれない。
鬼門に桜を植えただけで
悪いものが入れなくなるとかね、
「ウソだーい」って思うけど、
なくはないと思うんですよね。
だって、そういう話を自分が知っててね、
ある場所に攻め込もうとしたとき
そこにきれいな花が咲いてたらね、
やっぱり、反応しちゃうと思いますよ。
池谷 そこに置いておけば、
相手は自分から積極的に
それに触れることになりますからね。
糸井 より強いイメージになりますよね。
だから、よくなると言われてるものとか、
たんに明るい気分になるものを置いておいて、
自分から自然とそれに触れるようにすれば、
やっぱり、わずかかもしれないけど、
なにかが変わってくるような気がする。
池谷 「イデオモーター」っていう現象もありますしね。
糸井 なんですか?
池谷 日本語でいうと、観念運動。
すっごく強く念じていると、
そういうふうに体が動いてしまう現象です。
糸井 それはあれですか。
もう、現代の科学で、存在すると
認められているようなものですか。
池谷 あ、そうです。
たとえば、微妙な例でいうと、
「コックリさん」。
糸井 はい、はい。
池谷 これは、認めている研究者と
認めていない研究者がいるんですけど、
ようするに、まぁ、すごーく強く念じると、
やっぱり指先が動くんですよね。
あと、わかりやすいのは、
五円玉に糸を通して、指先に吊るして、
その五円玉が回っているところを
強く念じると、だんだん回りはじめるっていう。
糸井 ああ、なるほど。
池谷 昔は、「念力が‥‥」とか言ってたんですけど、
そうじゃなくて、要するに、
無意識に筋肉を動かしてるんですね。
糸井 動かしてるっていう事実が先にあって、
考える側がそれに従っているともいえますね。
池谷 そうともいえそうですね。
糸井 ですよね。
それって、あれですね、さっき話した、
「身体が先で、意識があと」
っていうことと‥‥。
池谷 そうですね。まさにそうなんです。
 
(つづきます)
2010-10-01-FRI