01相手といい関係を築けなければ、
いいインタビューにはならない。
- ──
- 有名なナチスの宣伝大臣・ゲッベルスの
秘書を務めていた
ブルンヒルデ・ポムゼルさん、
撮影当時103歳の女性のドキュメンタリーを
制作されたおふたりに、
「インタビューとは、何か」について、
おうかがいできればと思います。
- クレーネス
- はい。
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- ──
- 映画は、ポムゼルさんという高齢の女性が、
自分の生きた時代と人生のことを、
たんたんと語っている、という印象でした。
インタビュアーに誘導されるふうでもなく、
インタビュアーに強く迫られるでもなく。
- クレーネス
- そういう映画にしたかったので。
- ──
- 最終的には、
ポムゼルさんの独白、モノローグとして
編集されていますが‥‥。
- ヴァイゲンザマー
- 我々は彼女に、いろいろ質問しましたが、
誘導的、攻撃的な質問はしませんでした。
彼女に、自由に、語ってもらったんです。
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- ──
- つまり‥‥。
- ヴァイゲンザマー
- もちろん、彼女が語っていることは、
質問に対する答えなんですが、
より大きな、重要な事柄に関しては、
彼女自身、
自ら語り出す場面も多かったんです。
- ──
- つまり「自由に」ということが重要?
- ヴァイゲンザマー
- 最初に「ある種の期待」を持って
誰かに何かを聞きに行く‥‥ということは、
我々にも、当然、あります。
だから少なからず期待して、意気込んで、
心を躍らせながら、
インタビューの現場へ向かうわけですが、
往々にして、
期待とは別方向に行くことが多いんです。
- ──
- ええ、そうですよね。
こちらの思いどおりには、まあならない。
- ヴァイゲンザマー
- はい。でも、ならないからと言って、
自分の思い描く方向性を
押し付けてしまうようなことをしたら、
インタビューは、うまくいきません。
- ──
- はい。
- ヴァイゲンザマー
- むしろ、相手の話したい方向へゆだねる、
自由に語ってもらって、
その会話の流れに乗っていくほうが、
結果的には、
ずっとたくさん語ってくれると思います。
- ──
- 自分の意見は、ひとまず脇に置いて。
- クレーネス
- そのことが、非常に大事だと思いますね。
相手の話したいことに沿って、
インタビューをすすめていくことが、
仮に短い時間であっても、
いい関係を築くことにつながります。
- ──
- いい関係、ですか。
- ヴァイゲンザマー
- そう、我々のインタビューにとっては、
いい関係が築くことが重要です。
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- ──
- ポムゼルさんの場合は、どうでしたか。
- ヴァイゲンザマー
- 彼女に対する期待は、当然ありました。
同時に、我々には、
「本当のことを、話してくれるだろうか」
「自分たちに心を開いてくれるだろうか」
という心配も、あったんです。
- ──
- はい。
- ヴァイゲンザマー
- と言うのも、彼女‥‥ポムゼルさんの場合、
出演をオーケーしてくれるまでに、
まるまる1年間の時間が必要だったんです。
- ──
- え、そんなにですか。
- クレーネス
- 以前に一度だけ、ドイツの新聞に、
自分の過去を語ったことがあったんですが、
そのときに、
ずいぶん嫌な思いをしたそうなんです。
だから、
もう二度と、メディアのインタビューには
答えたくないと考えていたんです。
- ──
- では、その状態から、どうやって?
- ヴァイゲンザマー
- 結局、彼女がオーケーしてくれたのは、
我々が彼女のことを批判したり、
何か「判決」を下すような、
そんなことがしたいんじゃないんだと、
わかってもらえたからでしょうね。
- ──
- おふたりはポムゼルさんに、
何を語ってほしいと思っていたんですか。
- ヴァイゲンザマー
- 彼女はナチスの宣伝省に勤務していましたが、
そのことについて、
悪いとか、ひどいとか、ダメじゃないかとか、
そんな映画にしたいわけじゃなかった。
だって彼女は、100年‥‥1世紀もの歴史を、
生き抜いてきたわけです。
- ──
- ええ。それも、容易ではない時代を。
- ヴァイゲンザマー
- そう、ですから、我々は、
そのことに対して、敬意を持っているんです。
だから彼女に、
そのことについて、語ってほしかったんです。
- ──
- ブルンヒルデ・ポムゼルという女性の人生と、
彼女の生きてきた時代、について。
- クレーネス
- ドイツの新聞から受けたインタビューは、
その逆で、
インタビュアーがとても攻撃的で、
「あなた、あんなところに勤めていて!」
と、とにかく批判的だったんです。
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- ヴァイゲンザマー
- あるいは、話す前から偏見を持っていて、
自分たちのイメージの型に、
都合よく彼女をはめ込もうとしていたり。
話したくもないことを、
あまりに引きだそう引きだそうとされて、
嫌になってしまったんですよ。
- ──
- そういう強引な雰囲気のインタビューも、
世の中には、あるんでしょうね。
- クレーネス
- センセーショナルな記事にするためにね。
だから、そのドイツの新聞記者も
ポムゼルさんに
「こうでしょう? こうでしょう?」と
強く迫ったわけです。
- ──
- でも、おふたりの場合は、そうじゃなく。
- クレーネス
- むしろ、そんなつもりはないんですって、
わかってもらうために、
1年間という時間を費やして話しました。
- ──
- それはつまり「説得」ですか?
- クレーネス
- 信頼を勝ち得ること、ですね。
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- ──
- 信頼。
- クレーネス
- わたしたちは、彼女に
長い時間、語ってほしいと思っていました。
都合のいい部分だけを切り取った、
センセーショナルなインタビューになんて
したくなかったし、
ドイツの歴史と自分の人生に対する、
彼女のパースペクティブを尊重したかった。
- ──
- ええ。
- クレーネス
- そのためには、彼女には、
ある程度長い時間、語ってもらう必要が、
あると思ったんです。
- ──
- じゃ、そのリクエストに、
ポムゼルさんのほうでも、応えてくれて。
- ヴァイゲンザマー
- むしろ、インタビューの時点で、
彼女はすでに
「103歳」という高齢だったこともあって、
当初、単純な質問ばっかりしていたら、
バカにされたくらいです。
「なんて幼稚な質問をするの?
もっとまともなことを聞いて」と(笑)。
- ──
- つまりポムゼルさんは、ある意味で、
話を聞いてほしかった、ということも‥‥。
- ヴァイゲンザマー
- そういう気持ちは、あったと思います。
- クレーネス
- ともあれ、我々のインタビューにとって
大事なことは、長い時間をかけて、
答えてくれる人との間に、
ある種のシンパシーを共有することです。
- ──
- それが「いい関係」を築くこと。
- ヴァイゲンザマー
- そう、そしてそれは、
その人を全肯定することとは、ちがいます。
必ずしも何もかも認めるわけじゃないけど、
その人の話を聞いて、受け入れて、
できることならば、人間として好きになる。
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- ──
- ええ。‥‥好きになる、まで。
- ヴァイゲンザマー
- 我々のインタビューの場合、
そこまでいかなければ、成り立たないんです。
そして、そういう関係が出来上がってからは、
彼女は、どんどん自由に、自然に、
のびのびと話をしてくれるようになりました。
<つづきます>
2018-06-18-MON
映画『ゲッベルスと私』、公開中です。
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© 2016 BLACKBOX FILM & MEDIENPRODUKTION GMBH
モノクロ画面の中、在りし日のポムゼルさんは、
ナチス政権下の自らの生活を、
静かに、たんたんと、振り返ります。
大きな歴史の中の、半径数メートルの出来事を。
上司だったゲッベルスについても、
「見た目のいい人だった。
手もよく手入れされていた。
きっと毎日、爪のケアを頼んでいたのね」
と回想します。
映画のタイトルは「ゲッベルスと私」ですが、
ブルンヒルデ・ポムゼルという女性の人生を、
その100年以上に及ぶ人生を描いた、
より大きくて、ちいさな物語だと思いました。
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© 2016 BLACKBOX FILM & MEDIENPRODUKTION GMBH
この映画は、有田浩介さんという「個人」が
配給しています。
たったひとりで映画を買い、劇場と交渉し、
宣伝し、配給している人は、
映画界広しといえども、めずらしいそうです。
今回、原稿のやり取りをする中で、
有田さんのくれたメールが、
映画に対して自分が感じたことと似ていたので、
そしてそれが、より的確に表現されていたので、
ご本人の了承を得た上で、紹介いたしますね。
「最初、この映画を見たとき、
ポムゼルさんは嘘をついていると思いました。
ポムゼルさんのインタビューの中に、
ちいさな矛盾を感じたのです。
同時に、そのことが、
映画のメッセージでないこともわかりました。
3回目を見終えたところで、
ポムゼルさんを通じて、
4人の監督が伝えようとしていることを、
うっすら感じることができました。
衝撃ではなく、静かな力強さ。
私がこの映画を買ったきっかけは、
それがすべてだったと、
インタビューを読みながら、振り返りました」
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© 2016 BLACKBOX FILM & MEDIENPRODUKTION GMBH
東京・岩波ホールにて公開中。
ほか全国劇場で順次ロードショー。
くわしくは、公式ホームページでご確認ください。
有田さんの配給会社サニーフィルムのHPはこちら。