02互いの好意から信頼感が生まれ、
信頼感から自然な会話が生まれる。
- ──
- おふたりは「ブラックボックス」という
映像制作のチームで
ドキュメンタリーを制作されていますが、
インタビューの担当は、どなたが?
- ヴァイゲンザマー
- 我々は、4人の「監督」のチームなので、
4人でインタビューしています。
![](images/ph2-1.jpg)
- ──
- え、4人で、いっぺんに?
- ヴァイゲンザマー
- いえ、基本的には、一人ずつです。
この方法が優れていると思うのは、
何かのきっかけで、
ポムゼルさんの話が前に進まなくなっても、
休憩をはさんで、
別の誰かが話を聞きに行けること。
- ──
- つまり、インタビュアーを変える。
- ヴァイゲンザマー
- そうです。
我々4人は、一人ひとり、
ボムゼルさんに好意を抱いていましたが、
興味の方向や問題意識は、それぞれです。
- ──
- ええ、そうでしょうね。
- ヴァイゲンザマー
- インタビュアーが変われば、話も変わる。
会話の流れ、ポムゼルさんの反応、
話の位相、すべてが変わってくるんです。
- ──
- ポムゼルさんとの関係性も、
監督によって、微妙にちがうでしょうし。
- クレーネス
- 顔もちがうしね(笑)。性格なんかも。
![](images/ph2-2.jpg)
- ヴァイゲンザマー
- 我々4人は、
必要であれば誰もがインタビューします。
すると、最初の人に言わなかったことが、
次の人のときにポッと出てきたりします。
- ──
- チームでインタビューするということを、
今まで考えたことがありませんでした。
- ヴァイゲンザマー
- そうですか。
- ──
- もちろん、複数人で話を聞いたことは、
何度もありますが、
自分たちを「チーム」と認識して、
積極的に捉えたことがなかったんです。
どこか「インタビュー」って、
1対1でやるものだと思っていたので。
- クレーネス
- まあ、それが一般的ですものね。
- ──
- ひとつ聞きたいのですが、
チームの中で意見の相違がある場合は、
どうしているんですか。
- ヴァイゲンザマー
- それはもう、議論するしかありません。
当然ながら、全員それぞれ別の人間で、
考え方も意見も、異なりますから。
- クレーネス
- 誰にでも自己顕示欲ってありますしね。
![](images/ph2-3.jpg)
- ──
- ええ、ええ。自分が正しいんだ、と。
- ヴァイゲンザマー
- でも、意見の齟齬が生じたときには、
とことん話し合うことで、
あんなに自分がこだわっていたことは、
さほど重要じゃなかったなって、
やはり、どこかで理解できるんですよ。
- ──
- それは、即席のチームじゃないから。
でも、4人しかいない小さなチームで
協調性を保つことは、
それほど簡単じゃないと思うんですが。
- クレーネス
- まあ、長く一緒に仕事をしていると、
「彼はきっとこう言うだろう」
「こんなふうに考えているだろうな」
ということが、わかるんです。
だから、議論しなきゃならないことが
あったとしても、
それは、ほんの些細な問題に過ぎず、
大きな枠組については、
鋭く対立するようなことはないんです。
- ヴァイゲンザマー
- そういう事情もあって、
この方法は、
たしかに時間はかかるんですけれども、
最終的には、
ひとりの頭で考えた場合より、
はるかに
いいインタビューになると思ってます。
- ──
- そうでしょうね、たしかに。
- ヴァイゲンザマー
- 我々の世界では、
「映画の現場には、独裁者はいらない」
「独裁者がいていいことは、何もない」
って、よく言いいますし。
![](images/ph2-4.jpg)
- ──
- ああ、なるほど。
- クレーネス
- あるいは、規模の大きな作品では、
セクションごとに
互いの人間を知らない場合、
全体で見ると、
まったく知らない人たちが集まって
ひとつの映画をつくっている、
そういうことも、ままありますよね。
我々の場合にはそんなこともないし、
意思の疎通や調整が容易なんです。
- ──
- ええ、ええ。
- クレーネス
- そういう組織、チームで動くほうが、
エフェクティブだし、
結果として、いいものが生まれると、
我々は思っています。
- ──
- 独裁者はいらない、という言葉からは、
ポムゼルさんさえも
「チームの一員」として考えて、
彼女の言葉を、
ありのままに受け入れている‥‥という
感じを受けるのですが、
反面、
「映画が、意図しないようなものに
なってしまわないだろうか」
というような心配は、ないのでしょうか。
- ヴァイゲンザマー
- はい、おっしゃるように、
どういった映画になるか‥‥については、
完成するまで、わかりません。
彼女に「自由に語っていただきます」と
約束していましたし、
こちらから、発言に影響を及ぼしたり、
「こんなふうに答えてください」
とは、絶対にお願いしていないからです。
- ──
- じゃ、最後どうなるかわからないものを、
撮っている‥‥。
まあ、このインタビューもそうですけど。
- ヴァイゲンザマー
- そっちのほうが、おもしろいですよね?
それに今、
彼女をチームに迎え入れているようだと
おっしゃっていましたが、
そうだとすれば、
彼女の役割は「自由に語ること」です。
![](images/ph2-5.jpg)
- ──
- はい。
- ヴァイゲンザマー
- でも、彼女の話を一貫して貫いている
「縦糸」を見つけ出し、
ひとつの物語として築き上げることは、
我々の仕事なんです。
- ──
- ああ、なるほど。
- クレーネス
- たとえば‥‥そうですね、
彼女の話に矛盾があったらどうするか。
対処の方法はいくつかあると思います。
どちらか一方を採用するか、
矛盾を敢えて矛盾のままにしておくか。
- ──
- 大きな問題ですよね。映画にとって。
- クレーネス
- 我々は、基本的には、
矛盾は矛盾として、提示しています。
そこから先は観る人の判断に委ねる。
それは、彼女の物語においては、
何かの意見を押し付けないってことを、
大切にしたかったからです。
- ──
- 矛盾を矛盾のままに‥‥という方法は、
自分のやり方と近いです。
インタビューも、映画をつくることも、
人間と人間のやることですし、
矛盾なく、首尾一貫しすぎている方が、
おかしいですもんね。
- ヴァイゲンザマー
- そういう意味でも、互いに好意を持ち、
信頼し合うことは、
インタビューにおける大前提です。
相手と親密な関係を築き上げられなければ、
矛盾を矛盾のまま放り出せないし、
インタビュー自体も、
おもしろいものとして成立しないでしょう。
- ──
- 自分も、最近、そう思うようになりました。
ぼくたちの場合は、
長くてもせいぜい2時間くらいなんですが、
でも、その時間が、
互いにとって「いい時間」にならなければ、
とてもいいインタビューにはならない、と。
- クレーネス
- インタビューする側とされる側が、どちらも、
お互いに対して好意を持つこと。
そのことが、どうしても、必要だと思います。
好意のやりとりから信頼感が生まれ、
その信頼感から、自然な会話が生まれるから。
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- ──
- はい。自然な、という言葉に共感します。
インタビューというと、
とかく「引き出す」とかって表現されますが、
その言葉の持つ「奪う」ニュアンスに、
自分としては、ちょっと違和感があったので。
- クレーネス
- だから、もしかすると、
インタビューにおいてもっとも重要なことは、
インタビューそのものではなく、
いかに楽な気持ちで、
自然に話してもらえるような関係性を
築けるか、ということかもしれません。
<つづきます>
2018-06-19-TUE
映画『ゲッベルスと私』、公開中です。
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© 2016 BLACKBOX FILM & MEDIENPRODUKTION GMBH
モノクロ画面の中、在りし日のポムゼルさんは、
ナチス政権下の自らの生活を、
静かに、たんたんと、振り返ります。
大きな歴史の中の、半径数メートルの出来事を。
上司だったゲッベルスについても、
「見た目のいい人だった。
手もよく手入れされていた。
きっと毎日、爪のケアを頼んでいたのね」
と回想します。
映画のタイトルは「ゲッベルスと私」ですが、
ブルンヒルデ・ポムゼルという女性の人生を、
その100年以上に及ぶ人生を描いた、
より大きくて、ちいさな物語だと思いました。
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© 2016 BLACKBOX FILM & MEDIENPRODUKTION GMBH
この映画は、有田浩介さんという「個人」が
配給しています。
たったひとりで映画を買い、劇場と交渉し、
宣伝し、配給している人は、
映画界広しといえども、めずらしいそうです。
今回、原稿のやり取りをする中で、
有田さんのくれたメールが、
映画に対して自分が感じたことと似ていたので、
そしてそれが、より的確に表現されていたので、
ご本人の了承を得た上で、紹介いたしますね。
「最初、この映画を見たとき、
ポムゼルさんは嘘をついていると思いました。
ポムゼルさんのインタビューの中に、
ちいさな矛盾を感じたのです。
同時に、そのことが、
映画のメッセージでないこともわかりました。
3回目を見終えたところで、
ポムゼルさんを通じて、
4人の監督が伝えようとしていることを、
うっすら感じることができました。
衝撃ではなく、静かな力強さ。
私がこの映画を買ったきっかけは、
それがすべてだったと、
インタビューを読みながら、振り返りました」
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© 2016 BLACKBOX FILM & MEDIENPRODUKTION GMBH
東京・岩波ホールにて公開中。
ほか全国劇場で順次ロードショー。
くわしくは、公式ホームページでご確認ください。
有田さんの配給会社サニーフィルムのHPはこちら。