もくじ
第1回好きの理由は嘘っぽい 2016-06-02-Thu
第2回素人以上、経験者未満 2016-06-02-Thu
第3回ピラミッドの頂点 2016-06-02-Thu
第4回雲の上の日の丸 2016-06-02-Thu

1978年、滋賀県生まれ。大学在学中からフリーライター。2010年、デザイン会社ハイモジモジを創業し、2012年度グッドデザイン賞受賞。現在、デザイン会社経営とライター業の二足のわらじ。飼っているネコの名は「ニーポン」。

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第2回 素人以上、経験者未満

松岡
そもそもサッカーやってたんでしたっけ。
厚志
やってたとも言えますし、やってないとも言えます。
松岡
どういうことでしょう?

厚志
ぼくは中学生のころ、バレーボールをやっていたんです。
でもちょうどJリーグが開幕して、
それまで無関心だったサッカーに魅せられちゃって、
すっかり心を奪われたんですね。
松岡
それでサッカー部に入り直したと。
厚志
いえ、バレー部ではキャプテンをやってましたから、
顧問の先生に転部を受け入れてもらえませんでした。
今にして思うと、これもどうかしてますね。
船長が乗組員を残して船を乗りかえるみたいなもので。
松岡
サイテーです。
厚志
でも、どうしてもサッカーはやりたかったので、
部活を終えたサッカー部の友達をかつぎだして、
友達の家のちかくのグラウンドで毎晩教わってました。
それこそパスやドリブルといった基礎的なところから。
松岡
たしか週末の早朝も。
厚志
はい。
そのグラウンドのすぐ横に馬がいる牧場があって、
「馬がびっくりするから静かにやってくれ」と
馬上の方に叱られたことがあります。
あまりに早朝だったもので。
松岡
釜本さんが来られたグラウンドですよね。
厚志
そうそう、そうです。
1968年メキシコ五輪で得点王になった、
いまだに破られていない日本代表の得点記録をもつ
伝説の名プレイヤー、釜本邦茂さん。
サッカー教室に来てくれたんですよね。
もちろんぼくも参加しました。

松岡
そういう意味では、サッカー経験者といえるでしょうか。
でもサッカー部に入っていたわけではないし、
経歴として数えるには弱いですね。
その理屈でいえば、温泉卓球も卓球歴になる。
厚志
だから高校生になって、サッカー部に入ったんですよ。
バレーボールの選手としては背が小さくて見込みがないし、
今度こそサッカーを本格的にやろうかと。
松岡
じゃあ、晴れてサッカー経験者だ。
厚志
それが、そうでもなくて。
松岡
えっ?
厚志
ろくにボールを蹴ってないんです。
入ってから知ったのですが、
そこのサッカー部は部員が100人以上いて、
しかもスポーツ推薦で入学してきた
県下有数のサッカーエリートがたくさんいたんですね。
松岡
でもボールを蹴ることはできたでしょう。
厚志
いえ、なにせ部員数が多いので、
コートに入ってボールを扱えるのは
スポーツ推薦組を筆頭に、
サッカーのうまい人たちからなんです。
で、ぼくのような下から数えた方が早いレベルのものは
レギュラー組の練習が終わるまで
グラウンドのまわりをひたすら陸上部と走る。
松岡
ほとんど陸上部じゃないですか(笑)。
厚志
で、ようやくボールに触れる時間になると
あたりは陽が落ちてまっくらになっていて、
家が遠かったぼくは電車で帰らなきゃいけない(笑)。

松岡
地元から離れた他県の高校でしたもんね。
厚志
しかも他の部員は授業が6時間目で終わるのに、
ぼくのクラスは7時間目まであって、
いつも部活に行ける時間が遅くなる。
みんなはとっくに練習を始めてるのに。
完全に不可抗力なんですけど、
どうしても他の部員には遅刻に映る。
松岡
それでもチームのレギュラークラスなら
遅れて参加しても歓迎されるでしょうけれど。
厚志
なにせ友達にサッカーを教えてもらっただけの、
言うなれば初心者同然ですからね。
いつも遅れてくるくせに、しかも下手くそで、
ボールに触れる時間もないから
うまい人とは実力差がひらくばかりで。
松岡
なんでそんなサッカー部に入ったんですか。
厚志
初めから入るって決めてたんでしょうね。
そこがどういうところか調べもせずに。
松岡
むかしから周りの見えない人だ。
厚志
でもね、結局一年で退部するわけですけど、
わずか一年でも入ってよかったですよ。
同じ一年生に、びっくりするくらいに
サッカーがうまい人たちがいたんです。
バク宙でオーバーヘッドキックをしたり、
いとも簡単にドライブシュートを打ったり。
ドライブシュート、わかります?
松岡
わかりますよ、ぼくも同じあなたですから。
ゴールの上をはるかに飛び越えるかと思いきや、
するどい縦回転がかかったボールが
うつくしい弧を描いて落ちてくる、
キーパー泣かせの必殺シュートですよね。

厚志
100点満点の回答ありがとうございます。
そんなテクニックを目の当たりにするなんて、
ほとんど漫画『キャプテン翼』の世界で、
思わずため息が漏れました。
あれを生で見られただけでもよかった。
松岡
漫画で見るのと、実際に見るのとでは
全然インパクトが違いますもんね。
厚志
実際、彼らは県予選を勝ち抜いて全国大会に出場しました。
やっぱり県で一番サッカーがうまい人たちだった。
松岡
そこからプロになって、日本代表になってたりして?
あ、だから日本代表が好きなんですね。
厚志
いえ、そんな甘い話じゃないんです。
日本代表どころか、サッカーのプロになるのって、
きっと世の中が想像している以上に狭き門なんですよ。
松岡
その話、くわしく訊きたいです。

(つづきます)

第3回 ピラミッドの頂点