- 糸井
- やっぱり吉本(隆明)さんですよね。
吉本さんが前々から
「いいことやってるときは悪いことやってると思え、
悪いことやってるときはいいことやってると思え」
くらいに、まったく逆に考えるっていう。
それは大本で、親鸞という人のことを考えてるときに
考えついたことなんだろうけど、それに近いところで
吉本さん自身が、そうしようと思って
生きてたってことは、よくわかるんですよ。 - 古賀
- なるほど。
- 糸井
- 僕にとって吉本さんは、手の届かないくらい
遠くにいる先輩なんですね。
でもその先輩は、手の届く場所に
いつでもいてくれるんですよ。
「それ何ですか」って聞いたら、
近所のアホな兄ちゃんの俺に、
こうだ、ってことを言ってくれるわけ。
- 古賀
- はい、はい。
- 糸井
- このあいだ僕は、その「言ってくれ方が偽物だ」って書いた。
吉本さんのことを想像しながら書くわけです。
「吉本さんも偽物なんだよ」って言うと、
ファンはものすごく怒るかもしれないけど、つまり、
そうなろうとしたから、そうなってるんですよ。 - 古賀
- ええ。
- 糸井
- たとえばの話、何かのチケットを、
基本は並んで、あるいは電話をかけて取るのが基本で、
入場料払って見るのが基本だ、みたいなことは、
吉本さんを見ていて思うんですよね。
その姿勢がベースにあるので、
「じゃまだ、じゃまだ」って火消しが行くのとは、
俺たちは違うわけだから。 - 古賀
- うんうんうん。
- 糸井
- 誰も「じゃまだ、じゃまだ」って言えないで、
順番に列に並んで、そこを突き飛ばして前に出たほうが
もっといいことできるかもしれなくても、
そこは無駄になってもコストだ、くらいに考えて
っていうのは、ずうっと、
ずうっと吉本さんを見ていてのことで。
吉本さんちのおくさんは「おとうちゃんは偽物だ」
って言うわけだよ。 - 古賀
- ふふふ。
- 糸井
- 「本当におとうちゃんいい人だけど、
うちのおとうちゃんは、
そうなろうとしてなってるから本物じゃない」って。
でも俺、今さら本物になれないんで(笑)。
- 古賀
- はい(笑)。
- 糸井
- そういう、吉本さんの方法しかないんですよ。
そう見ると、本当のこと言う偽物が、
結局なれる場所なんですよね。 - 古賀
- うんうんうん。
- 糸井
- 谷川俊太郎さんなんかも結構、
「僕は偽物で、本物の真似をしている」
っていうことを平気で言いますよね。
あれが、姿勢としてあったんじゃないでしょうかね。
それが、ある種うまくいったのが、
社内の人たちが案外そのことを
わかって動けた気がする。
態度については、これからも
間違わないんじゃないかな
というような気がします。
間違わないぞ、ということでもありますよね。 - 古賀
- そうですね。
- 糸井
- もし間違ったら言ってくださいね、っていう。
ちょっといい気になってたら(笑)。 - 古賀
- ちょっと、今日のテーマっていうか、
話戻るんですけど、吉本さんだったり、
あるいは矢沢永吉さんだったりって、
糸井さんの中でのヒーローみたいな人たちがいて、
その出版のお手伝いとか、
糸井さんされてきたわけじゃないですか。
- 糸井
- ああ、そうですね。
- 古賀
- そのときの糸井さんの気持ちっていうのは、
俺が前に出るというよりも、やっぱり、
「この人の言葉を聞いてくれ!」
みたいな感じなんですよね? - 糸井
- 「僕はとっても驚いたよ」とか
「僕はとってもいいなと思ったよ」とか、
間接話法で僕の本になるんですよね。
だから自分を前に出す必要はまったくなくて。 - 古賀
- うん、うん。
- 糸井
- これを売ってる八百屋は、
おいしいりんごを売ってる八百屋はいい八百屋で、
そういう八百屋から買ってくれる人がいたら、
またいいりんご売れるじゃないですか。 - 古賀
- はいはいはいはい。
- 糸井
- それとか、
「りんごがあんまり買ってもらえないから、
作るのやめようと思うんだよね」っていう人に、
「俺売るから、ちょっと作ってよ」って。
- 古賀
- そうですね、うんうん。
- 糸井
- 具体的に、うちで売ってる海苔とかもそうだからね。
- 古賀
- そうですね。
- 糸井
- おじいさんが出ていく海が、
「もうそろそろめんどくさいことやめようと思うんだ。
漁協に普通に出そうと思うんだよ」みたいな。
「待て待て待て」って。その商売ですよね。
商売の仕組みって、アートを作るときの、
その、建造物としてのアートってあるじゃないですか、
ああいうのに似てますよね。 - 古賀
- うん、うん。
- 糸井
- 古賀さんそういえば、そういう仕事してますね。
- 古賀
- そうですね、はい。だから、その、今だったら、
やっぱりいろんな出版社さんの知り合いがいますし、
「やりたい」と言ったらやりたい企画ができるような
状態にはなったんですけど、10年前とかは、やっぱり、
自分がやりたいと言っても、
なかなか実現しなかったりとか、
向こうから「やって」っていう
お仕事だけしかできない時期というのは
結構長くて。 - 糸井
- うん。
- 古賀
- 糸井さんが、たとえば『成りあがり』とか、
ああいうものでやったことが、
たぶん今『ほぼ日』の中で
毎日のようにできているんじゃないのかな、
と思うんですよね。
こんな面白い人がいるから、ちょっと対談して、
この人を紹介したいなとか、あとはその、
TOBICHIで、こんな人がいるからと言って、
その人の展覧会を開いてとか、
そういう、うん、場所を。
- 糸井
- 場所づくり。
- 古賀
- 場所を作って、その人たちを紹介していく。
だから結構、そうですね。僕が今やりたいこととかと、
すごく重なる部分があって。
『ほぼ日』の中で、もちろん毎日「今日のダーリン」という
大きなコンテンツはあるんですけど、その、糸井さんが、
「俺が俺が」って前に出てる場所ではないじゃないですか。 - 糸井
- うん。
- 古賀
- それよりも「こんな面白い人がいてね」
って言う場所になってて。その姿勢というのは、
結構『成りあがり』のころから一貫してるのかなという。 - 糸井
- 「あなたには、目立ちたいってことは
ないんですか?」って聞かれたら、
「ものすごくありますよ」
って言うんじゃないですかね。 - 古賀
- あ、そうですか。
- 糸井
- ただ、それはどういう種類のものなんでしょうねと言うと、
「いや、いいかも。いらないかも」っていう(笑)。
浅いところでは目立ちたがりですよ、僕。たぶん。
ちょっとだけ掘るだけで、急にどうでもよくなりますね。 - 古賀
- それは、その、それこそ30歳ぐらいのときに、
目立って痛い目にあったりした経験があるから……。 - 糸井
- じゃないですね。
- 古賀
- だからではなく。
- 糸井
- じゃないです。
“たかが”っていうの、ものすごく見えた感じがする。
だから、いちばん目立ちたがりだったのって、
高校生のときじゃないですか。 - 古賀
- はいはいはいはい(笑)。
- 糸井
- たぶんこう、性欲の代わりに表現力が出るみたいな。
- 古賀
- そうですね。
- 糸井
- その時期っていうのは、
何をしてでも目立ちたいわけで。
「みんな俺をもっと見ないかなあ」って。
言葉にすればそういうこと思ってるのを、
服装にしてみたり。
それは動物の毛皮の色みたいなもので、
自然ですよね、天然ですよね。 - 古賀
- そうですね。
- 糸井
- やがてそれを残しながらも、
やっぱり嬉しいのは何かっていったら、
近くにいる人にモテちゃうことのほうが
嬉しいんですよね。
だから彼女がいるっていうのが
いちばん理想ですよね、若いときのね。 - 古賀
- うんうんうん。
- 糸井
- 彼女がいて一緒に苦労する話なんていうの、
このあいだ俺、上村一夫さんの娘さんと
対談したんだけど、『同棲時代』っていう、
すごく悲劇的な漫画を、
俺は当時うらやましいと思って見てた
って言ったんですよ。
だって、気狂っちゃうし、貧乏だけど、
彼女いるんだから。ね。
3畳一間だか4畳だか知らないけど、
そんなとこで女と毎日寝てるんだぞ、
みたいな。
- 古賀
- あはははは。
- 糸井
- 「それさえあれば俺は何もいらない」みたいな。
恋愛至上主義に近いんですよ、若いときって。
そこに突っ込んでいきたかったんですよね。
それと「目立ちたい」を天秤にかけたら、
女ですよ、圧倒的に。 - 古賀
- はいはい。
- 糸井
- わーわー、なんてモテちゃったとしても、
それ距離が遠いものだから、
寄せちゃいけないんですよね。 - 古賀
- なるほど。うん。
- 糸井
- だって、アイドルグループの子達だって、
すごく人気があるとしても、
実際の個人としてモテてたわけじゃないでしょ。 - 古賀
- 遠くで、モテてた。
- 糸井
- そうなんです、距離なんですよ。
だから「ぜんぶOKですよ」っていうお客さんが
会場を埋め尽くしてるはずじゃないですか、人から見たら。
でも、それは禁じられたことでもあるし、仮に
そこのとこに突っ込んでいったら、後始末大変ですよね。 - 古賀
- そうですね。
- 糸井
- そう考えると、それは、
商品に手を付けるっていうか、
そういうことだから禁じられてるわけで。
それよりは、たまたま行った誰かの送別会のときに
隣にいた女の子に
「私送ってって欲しいんだけど」って言われたら、
もう、バリバリに鼻の下伸ばしますよね。
「そのくらいいいよ」って(笑)。
- 古賀
- そうですね、うんうん。
- 糸井
- そこの実態の話で。
いずれみんなわかっちゃうんじゃないですかね。
「まだ足んないんだよ」って僕、あんま思わないんですよ。
「だいたい足りた」って思うんです。
<第5回へ続く>