もくじ
第1回売れてみて、どうしたらいいか。 2016-05-16-Mon
第2回見えない10年後、20年後を語るのって 2016-05-16-Mon
第3回「当事者になれない」から、できたこと 2016-05-16-Mon
第4回本当のこと言う偽物が、 結局なれる場所 2016-05-16-Mon
第5回お金って、なんだろうなあ。 2016-05-16-Mon
第6回楽しみにされるようなおじさんでいたい 2016-05-16-Mon

株式会社プレスラボの編集者/ライター。

当事者じゃなさすぎる僕らにできること

第4回 本当のこと言う偽物が、 結局なれる場所

糸井
やっぱり吉本(隆明)さんですよね。
吉本さんが前々から
「いいことやってるときは悪いことやってると思え、
悪いことやってるときはいいことやってると思え」
くらいに、まったく逆に考えるっていう。
それは大本で、親鸞という人のことを考えてるときに
考えついたことなんだろうけど、それに近いところで
吉本さん自身が、そうしようと思って
生きてたってことは、よくわかるんですよ。
古賀
なるほど。
糸井
僕にとって吉本さんは、手の届かないくらい
遠くにいる先輩なんですね。
でもその先輩は、手の届く場所に
いつでもいてくれるんですよ。
「それ何ですか」って聞いたら、
近所のアホな兄ちゃんの俺に、
こうだ、ってことを言ってくれるわけ。

古賀
はい、はい。
糸井
このあいだ僕は、その「言ってくれ方が偽物だ」って書いた。
吉本さんのことを想像しながら書くわけです。
「吉本さんも偽物なんだよ」って言うと、
ファンはものすごく怒るかもしれないけど、つまり、
そうなろうとしたから、そうなってるんですよ。
古賀
ええ。
糸井
たとえばの話、何かのチケットを、
基本は並んで、あるいは電話をかけて取るのが基本で、
入場料払って見るのが基本だ、みたいなことは、
吉本さんを見ていて思うんですよね。
その姿勢がベースにあるので、
「じゃまだ、じゃまだ」って火消しが行くのとは、
俺たちは違うわけだから。
古賀
うんうんうん。
糸井
誰も「じゃまだ、じゃまだ」って言えないで、
順番に列に並んで、そこを突き飛ばして前に出たほうが
もっといいことできるかもしれなくても、
そこは無駄になってもコストだ、くらいに考えて
っていうのは、ずうっと、
ずうっと吉本さんを見ていてのことで。
吉本さんちのおくさんは「おとうちゃんは偽物だ」
って言うわけだよ。
古賀
ふふふ。
糸井
「本当におとうちゃんいい人だけど、
うちのおとうちゃんは、
そうなろうとしてなってるから本物じゃない」って。
でも俺、今さら本物になれないんで(笑)。

古賀
はい(笑)。
糸井
そういう、吉本さんの方法しかないんですよ。
そう見ると、本当のこと言う偽物が、
結局なれる場所なんですよね。
古賀
うんうんうん。
糸井
谷川俊太郎さんなんかも結構、
「僕は偽物で、本物の真似をしている」
っていうことを平気で言いますよね。
あれが、姿勢としてあったんじゃないでしょうかね。
それが、ある種うまくいったのが、
社内の人たちが案外そのことを
わかって動けた気がする。
態度については、これからも
間違わないんじゃないかな
というような気がします。
間違わないぞ、ということでもありますよね。
古賀
そうですね。
糸井
もし間違ったら言ってくださいね、っていう。
ちょっといい気になってたら(笑)。
古賀
ちょっと、今日のテーマっていうか、
話戻るんですけど、吉本さんだったり、
あるいは矢沢永吉さんだったりって、
糸井さんの中でのヒーローみたいな人たちがいて、
その出版のお手伝いとか、
糸井さんされてきたわけじゃないですか。

糸井
ああ、そうですね。
古賀
そのときの糸井さんの気持ちっていうのは、
俺が前に出るというよりも、やっぱり、
「この人の言葉を聞いてくれ!」
みたいな感じなんですよね?
糸井
「僕はとっても驚いたよ」とか
「僕はとってもいいなと思ったよ」とか、
間接話法で僕の本になるんですよね。
だから自分を前に出す必要はまったくなくて。
古賀
うん、うん。
糸井
これを売ってる八百屋は、
おいしいりんごを売ってる八百屋はいい八百屋で、
そういう八百屋から買ってくれる人がいたら、
またいいりんご売れるじゃないですか。
古賀
はいはいはいはい。
糸井
それとか、
「りんごがあんまり買ってもらえないから、
作るのやめようと思うんだよね」っていう人に、
「俺売るから、ちょっと作ってよ」って。

古賀
そうですね、うんうん。
糸井
具体的に、うちで売ってる海苔とかもそうだからね。
古賀
そうですね。
糸井
おじいさんが出ていく海が、
「もうそろそろめんどくさいことやめようと思うんだ。
漁協に普通に出そうと思うんだよ」みたいな。
「待て待て待て」って。その商売ですよね。
商売の仕組みって、アートを作るときの、
その、建造物としてのアートってあるじゃないですか、
ああいうのに似てますよね。
古賀
うん、うん。
糸井
古賀さんそういえば、そういう仕事してますね。
古賀
そうですね、はい。だから、その、今だったら、
やっぱりいろんな出版社さんの知り合いがいますし、
「やりたい」と言ったらやりたい企画ができるような
状態にはなったんですけど、10年前とかは、やっぱり、
自分がやりたいと言っても、
なかなか実現しなかったりとか、
向こうから「やって」っていう
お仕事だけしかできない時期というのは
結構長くて。
糸井
うん。
古賀
糸井さんが、たとえば『成りあがり』とか、
ああいうものでやったことが、
たぶん今『ほぼ日』の中で
毎日のようにできているんじゃないのかな、
と思うんですよね。
こんな面白い人がいるから、ちょっと対談して、
この人を紹介したいなとか、あとはその、
TOBICHIで、こんな人がいるからと言って、
その人の展覧会を開いてとか、
そういう、うん、場所を。

糸井
場所づくり。
古賀
場所を作って、その人たちを紹介していく。
だから結構、そうですね。僕が今やりたいこととかと、
すごく重なる部分があって。
『ほぼ日』の中で、もちろん毎日「今日のダーリン」という
大きなコンテンツはあるんですけど、その、糸井さんが、
「俺が俺が」って前に出てる場所ではないじゃないですか。
糸井
うん。
古賀
それよりも「こんな面白い人がいてね」
って言う場所になってて。その姿勢というのは、
結構『成りあがり』のころから一貫してるのかなという。
糸井
「あなたには、目立ちたいってことは
ないんですか?」って聞かれたら、
「ものすごくありますよ」
って言うんじゃないですかね。
古賀
あ、そうですか。
糸井
ただ、それはどういう種類のものなんでしょうねと言うと、
「いや、いいかも。いらないかも」っていう(笑)。
浅いところでは目立ちたがりですよ、僕。たぶん。
ちょっとだけ掘るだけで、急にどうでもよくなりますね。
古賀
それは、その、それこそ30歳ぐらいのときに、
目立って痛い目にあったりした経験があるから……。
糸井
じゃないですね。
古賀
だからではなく。
糸井
じゃないです。
“たかが”っていうの、ものすごく見えた感じがする。
だから、いちばん目立ちたがりだったのって、
高校生のときじゃないですか。
古賀
はいはいはいはい(笑)。
糸井
たぶんこう、性欲の代わりに表現力が出るみたいな。
古賀
そうですね。
糸井
その時期っていうのは、
何をしてでも目立ちたいわけで。
「みんな俺をもっと見ないかなあ」って。
言葉にすればそういうこと思ってるのを、
服装にしてみたり。
それは動物の毛皮の色みたいなもので、
自然ですよね、天然ですよね。
古賀
そうですね。
糸井
やがてそれを残しながらも、
やっぱり嬉しいのは何かっていったら、
近くにいる人にモテちゃうことのほうが
嬉しいんですよね。
だから彼女がいるっていうのが
いちばん理想ですよね、若いときのね。
古賀
うんうんうん。
糸井
彼女がいて一緒に苦労する話なんていうの、
このあいだ俺、上村一夫さんの娘さんと
対談したんだけど、『同棲時代』っていう、
すごく悲劇的な漫画を、
俺は当時うらやましいと思って見てた
って言ったんですよ。
だって、気狂っちゃうし、貧乏だけど、
彼女いるんだから。ね。
3畳一間だか4畳だか知らないけど、
そんなとこで女と毎日寝てるんだぞ、
みたいな。

古賀
あはははは。
糸井
「それさえあれば俺は何もいらない」みたいな。
恋愛至上主義に近いんですよ、若いときって。
そこに突っ込んでいきたかったんですよね。
それと「目立ちたい」を天秤にかけたら、
女ですよ、圧倒的に。
古賀
はいはい。
糸井
わーわー、なんてモテちゃったとしても、
それ距離が遠いものだから、
寄せちゃいけないんですよね。
古賀
なるほど。うん。
糸井
だって、アイドルグループの子達だって、
すごく人気があるとしても、
実際の個人としてモテてたわけじゃないでしょ。
古賀
遠くで、モテてた。
糸井
そうなんです、距離なんですよ。
だから「ぜんぶOKですよ」っていうお客さんが
会場を埋め尽くしてるはずじゃないですか、人から見たら。
でも、それは禁じられたことでもあるし、仮に
そこのとこに突っ込んでいったら、後始末大変ですよね。
古賀
そうですね。
糸井
そう考えると、それは、
商品に手を付けるっていうか、
そういうことだから禁じられてるわけで。
それよりは、たまたま行った誰かの送別会のときに
隣にいた女の子に
「私送ってって欲しいんだけど」って言われたら、
もう、バリバリに鼻の下伸ばしますよね。
「そのくらいいいよ」って(笑)。

古賀
そうですね、うんうん。
糸井
そこの実態の話で。
いずれみんなわかっちゃうんじゃないですかね。
「まだ足んないんだよ」って僕、あんま思わないんですよ。
「だいたい足りた」って思うんです。

<第5回へ続く>

第5回 お金って、なんだろうなあ。